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つつい つつさん

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贅沢過ぎる愛

15/12/22 コンテスト(テーマ):第九十九回 時空モノガタリ文学賞 【 失恋 】 コメント:2件 つつい つつ 閲覧数:1190

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 またいつもの公園で弁当を食べている。もう彼女と別れて三ヶ月にもなるのに、休みの度に彼女のマンションの有ったこの街で彼女と過ごした時間を思い返してしまう。今日も二人でよく行ったスーパーで弁当を買い、彼女と並んで座ったこの公園のベンチに座っている。
 別れは突然だった。別に僕が彼女のことを嫌いになった訳でも彼女が僕のことを嫌いになった訳でもなく、僕が浮気した訳でもなく、もちろん彼女が浮気した訳でもなかった。僕たちの間にはなんの問題もなかった。ただ、彼女の田舎のお母さんが倒れた。それだけのことだった。
 僕たちの恋なんてありふれたものだって思っていた。TVや映画みたいにドラマチックで運命的な出会いなんてしていない。ただ友達同士の飲み会で出会い、音楽の話なんかで盛り上がって、気がつけば付き合っていただけの平凡な関係。どこにでもいるフリーターと、どこにでもいる派遣社員の平凡な恋だった。大きなイベントがある訳でもなく大きな盛り上がりがある訳でもなく休みの度に会い、一緒にいるだけの普通の関係だった。それでも僕は十分だったし、彼女といれる時間が本当に大切だった。どんなに仕事がつまらなくても、どんなに生活が苦しくても、それ以上の幸せを彼女はくれた。僕はこれ以上なにもいらない、なんて思い上がっていた。
 体がゾクゾクしてきた。もうそろそろ秋も終わるこの季節は風が冷たく、箸を持つ手が悴んできた。弁当はまだ少し残っていたけど、公園のゴミ箱に捨てて帰ることにした。
 夜の十時になり、コンビニに出勤すると、今日の相方は高橋さんだった。高橋さんは僕と同じフリーターで、もうすぐ四十になる。その歳でコンビニかよって思うけど、僕も三十までコンビニでバイトやってるし、きっと十年なんてあっという間なんだろう。高橋さんは、今日も少し酒臭かった。高橋さんが半年前にこのコンビニで働くようになって、お酒の臭いをぷんぷんさせて出勤してきたときには、仕事あるのわかってるのに何飲んでんだよって、呆れたし、怒りもこみ上げてきた。最近は店長にこっぴどく怒られて前ほど飲んで来ることはなくなったけど、今は高橋さんの気持ちが少しわかる気がする。僕はお酒が飲めないけど、もし飲めるのなら毎日でも飲みたい気分だ。仕事とか人生とか将来とか、そんなのもうどうでもいいからお酒を飲んでいたい。高橋さんが毎日酒を飲んでいるのも、たぶんそういうことなんだろう。
 高橋さんは気もきかず動作ものろく、要領も悪いから一緒に働くのは大変だけど、でも、一緒に働くのが高橋さんで少しほっとしている。夜勤には他にも中西君とか川田君がいるけど、二人は大学生で、その上、結構有名な大学だからどうしても気が引けてしまう。二人共、いい奴だから気さくに話しかけてくれるし、仕事もちゃんと出来るけど、しょせん住む世界が違う。でも、そんなこともわからずにこの前まで僕は中西君や川田君と対等だと思っていたし、対等どころか、先輩風吹かしていた。そして、一緒になって高橋さんをバカにしていた。僕の方がよっぽどバカだったのに。僕は中西君や橋田君側じゃなかった。僕は高橋さん側だったのに、なに調子乗ってたんだって恥ずかしくなる。
 彼女は別れる一週間前、僕に言った。
「お母さんが倒れたから、どうしても実家に帰ることになったんだ。ごめんね」
 僕はびっくりして何も言えず、それから一週間考えに考え抜いた。今までこんなに頭を使ったことないんじゃないかってくらい考えた。だけど、結局答えの出ないまま彼女を見送った。今にして思うと、彼女がごめんねって言ったときの申し訳なさそうな、どうしようもないよねって笑顔は彼女なりに僕よりずっと考えて出した答えが僕と一緒だったからだろう。遠く離れてしまえば二人は終わり。会うことも出来ない。そんな現実をわかっていたから、あんな悲しそうに笑ってたんだろうって思う。
 僕の母親も足が悪く、外に働きに行けないから内職をやってるけど、それと僕のコンビニの収入だけじゃなんとか生活するだけで精一杯だった。とても遠く離れた彼女に会いにいく余裕なんてなかった。
 付き合っていた時、僕たちの恋はありふれたつまらないものだと思っていた。でも、それは違った。僕には贅沢過ぎる愛だったんだ。ちゃんとした仕事にも就いてない。生きていくだけでぎりぎりな僕には不相応なものだった。もう三十になるのに、なにも考えていなかったんだ。子供が出来ていたら? 彼女が働けなくなったら? 本当は一緒に歩むってことは、そういうことちゃんと考える必要があったんだ。。それをたまたま大きなトラブルもなく付き合っていられたから考えないようにして、ただ楽しい時間を貪っていただけだったんだ。
 彼女と別れて三ヶ月。身の程を知った僕が思うことは、浴びるほど酒が飲めたら、ただ、それしかなかった。


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このストーリーに関するコメント

16/01/11 泉 鳴巳

拝読しました。
失って初めて気付くところすらも「ありふれたもの」かもしれないと思いひとりゾッとしました。「好き」だけじゃやっていけない理不尽と、抗えぬ無力感が切なくやり切れませんね。

16/01/14 つつい つつ

泉 鳴巳 様、感想ありがとうございます。
今の時代、現実に負けてしまうことも多いなと思って書きました。
でも、そんな現実は大事なんだろうかと悩んでしまいます。

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