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aloneさん

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賢者と愚者

15/12/13 コンテスト(テーマ):第九十七回 時空モノガタリ文学賞 【 他山の石 】 コメント:4件 alone 閲覧数:945

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「賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶ」
賢者は手を振り上げ、声高に語った。
「我々は今、決断の時を迎えている。世界各地で生まれた火種が戦火を呼び、さらに飛び火し、世界全体を巻き込む大きな戦争へと発展しつつある。我々に残された道は、静観か戦争だ。だがもし静観すれば、歴史が物語るように、我らが祖国は侵略され、伝統や文化は蹂躙されることだろう。ならば侵略される前に、我々が侵略するしかない。我々は愚者ではなく、歴史に学ぶ賢者だ。我らが祖国は、我々自身が守るのだ。
 さあ立ち上がれ。我らが美しき祖国を守らんが為に!」
賢者の演説に、広場に集まった国民はみな奮い立ち、声を上げた。若き愚者も、賢者の言葉に刺激され、祖国のために戦う意思を固めた。
この日起こった開戦ムードは、見る見るうちに国全体へと広がり、国民みなに祖国のために戦う決意をさせた。
そして宣戦布告がなされ、戦争の火蓋が切られた。

賢者は歴史に学び、過去の世界各地で起こった戦争での失敗を参考に、新たな技術、政策、戦略を生み出した。
より効率的に敵兵を殺戮する兵器。細分化し老若男女問わず国民全員に仕事を割り当てた軍事政策。民族や文化、女に子供、使えるものはすべて利用する情け容赦ない戦略。
賢者の指揮のもと、敵地を蹂躙した彼らの後には、勝利の象徴として屍の山が築かれた。
他方。
愚者は経験に学び、戦争の悲惨さを、その身をもって知ることとなった。
前線に送られた愚者は地獄を見た。無数の銃弾が飛び交い、人の命が易々と消えていた。
上官の命令に従い、敵兵のみならず女も子供も殺し、村を幾つも焼き払った。命令に背いた者や逃げ出した者は上官に殺された。
傍らで戦っていた戦友は頭を撃たれ、塹壕の泥土に塗れて死んでいた。愚者がそれに気付いたのは自身の自動小銃の弾が切れたときだった。
愚者は戦友の銃を掴み取り、再び引き金を引き、敵兵を殺し続けた。感傷どころか、銃を染める血に残った生温かさにすら何も感じなかった。
日常だった爆音が止み、五月蠅いほどの静寂が戦争の終結を告げた。
愚者は地面を覆う夥しい死体の中から生存者を探そうとしたが、生死に関わらず誰もが皆、死に顔をしていた。
愚者は悟った。この戦争が生み出したのは、敵も味方も問わず、屍の山だけだった――と。

戦争に勝利し、帰国後、愚者たち兵士は英雄として迎えられた。
国全体が戦勝に酔いしれ、愚者は賢者から何かしらの叙勲を受けたが、歓喜や栄誉は何も感じなかった。
歓声を上げていた国民は、誰もが疲労の色を覗かせていた。血色が良いのは賢者たちばかりだ。
明らかに国全体が疲弊していた。そして、かつての美しかった祖国も、今ではただの焼け野原と化していた。
これのどこが勝利だ。愚者は拳を固く握り、零した。
凄惨な戦場。疲弊した国民。変わり果てた祖国。
戦争は何も生み出さない。奪い去っていくばかりだ。
愚者は悲惨な戦争を経験し、二度と起こしてはならない、と心に深く刻みつけた。

あの戦争から八十年の月日が流れようとしていた。
戦争経験者はほとんどが鬼籍に入ってしまったが、愚者は百歳を前に、いまだ生き永らえていた。
愚者はあの時以上の反戦への想いを胸に抱え、戦争を二度と起こさせないために、次世代に向けて語り部として戦争の悲惨さを伝え続けた。
しかし、愚者の努力の甲斐なく、世代の移り変わりとともに、戦争の悲惨さは風化してしまっていた。
戦後八十年の節目を迎える頃、ある国でテロ事件が起こった。
自爆テロ、襲撃事件。多くの民間人が巻き込まれ、そして死んだ。
先進諸国は互いを牽制するために発展させ続けた軍事力の矛先を定め、最初の一国が動いたのを契機に、敵対国や同盟国が連鎖的に動き始めた。
気付けば世界大戦のような様相を呈し、そして、戦場から広がる戦火は近隣諸国すら飲み込み始めていた。

壇上に立つ新たな賢者が、教え諭すように国民に語る。
「ここ十数年で多くのテロ事件が起き、数え切れないほどの人々の命が奪われてきました。
 我々はいま、岐路に立たされています。それは奇しくも、八十年前、大勝を収めた戦争のときと同じ、静観か、戦争か、です。
 どちらを選ぶべきであるかは、賢者たる皆さんならお分かりのはずです。当時の言葉を引用すれば、
 侵略される前に、我々が侵略するしかない。我らが祖国は、我々自身が守るしかないのです。
 今こそ立ち上がりましょう。真の平和を勝ち取らんが為に!」
賢者の言葉に国民は奮起し、国全体が戦争ムードに呑み込まれた。
愚者は必死に反戦を訴え続けたが、愚者の弱弱しい嗄れた声は、軍靴の足音に掻き消されてしまった。
戦場に向かう若者の無数の背を見つめ、愚者は嘆いた。
「歴史は戦争の悲惨さを知らない」
こうして歴史は繰り返される。
今も、そして、これからも。


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このストーリーに関するコメント

15/12/14 クナリ

現実に起こりうる皮肉な現象、時の経過とその時代時代に生きる人たちが紡ぐからこその歴史の悲しさを感じました。
ただ、ストーリーラインの骨子(「歴史は繰り返す」という)自体には目新しさがなく、文章も事態の説明に終始しているような印象を受けます。
人の歴史の皮肉を踏まえたうえでその先を描いたストーリーを著すか、あるいは掌編のオチとしての意外なラストで終わらせるなどして欲しいと思いました。

15/12/15 alone

>クナリさんへ
読んでくださり、ありがとうございます。
冒頭と最後に配した「賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶ」と「歴史は繰り返す」という言葉の矛盾を書いたつもりでしたが、
よく扱われるテーマであるだけに目新しさという点では仰るように欠落してしまっていました。
こういったテーマで何かしらの新しさが出せるよう、アイディアを磨くとともに精進していこうと思います。
最後に、今更にはなりますが、授賞式や某コンテストでの入賞おめでとうございます。
感想を書いてくださり、ありがとうございました。

16/01/06 光石七

拝読しました。
戦後八十年を待たずしてこのような現実が起こってしまいそうで、怖いです。
“愚者”の声に耳を傾けない“賢者”は本当の“賢者”ではないと思います。
ずしりと重いメッセージが込められたお話、心に沁みました。

16/01/07 alone

>光石七さんへ
読んでくださり、ありがとうございます。
去年は戦後七十年を迎えた年でしたが、さらに時間が経ち、戦争関係者の方々が亡くなられていってしまえば、世界がどういうものになっていくか想像もつきません。
戦後八十年、九十年、百年、その節目節目を世界的に無事に迎えられると良いのですが……。
集団としての人類がいつか本当の“賢者”となれることを祈るばかりです。
感想を書いてくださり、ありがとうございました。

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