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守谷一郎さん

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兵士と吟遊詩人

15/12/13 コンテスト(テーマ):第九十七回 時空モノガタリ文学賞 【 他山の石 】 コメント:3件 守谷一郎 閲覧数:1561

時空モノガタリからの選評

「アリとキリギリス」のパロディですが、静かで淡々とした語り口が魅力的ですね。「運命」にさからっては生きられない生物の業と悲哀を感じました。
「女王のために働くことこそ」が運命であり、「生きる意味である」と知りながらも、唄歌いのキリギリスの「魔力」に魅かれてしまう兵士アリ。彼がその自由な生き方に魅かれていく過程に共感するものがありました。
友情さえ生まれたかのように見えた二人の関係ですが、現実は非情ですね。二人の間に横たわる「種族の壁」。そして「働かざる者は生きてはなりません」という女王と足元に横たわるキリギリス……。
結局アリとキリギリス、どちらの生き方が正しいとは言えず、生物はそれぞれ生まれ持った生き方をするしかないのでしょう。ただ、その現実を前に立ち尽くしてしまう兵士アリの悲しみも現実であり、その矛盾は永遠に解決されることはないのでしょうね。その点を安易に解決することなく「僕たちは女王へ尽くさなければならない」という仲間の言葉で締められているが故に、胸に迫るものがありました。

時空モノガタリK

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女王の前で跪き、ガタガタと震える一匹の兵士の姿がある。
女王に問い詰められた彼はようやく重い口を開き、贖罪の弁をトウトウと述べ始めた。
「――自由に生きるその姿に憧れてしまったのです」

夏のある日のことでした。いつもの仕事場にいたとき、頭上から楽しげな音楽が聞こえるのに気がつきました。見上げると、何やら私どもとは勝手が違う者の姿があります。
その者は山のように大きなあの石の上に座って、見たこともない異国の楽器を弾きながら、暢気に唄を歌っておりました。
私がせっせと女王の命を守り、灼熱の太陽の日差しを浴びて働く中、その唄は日がな一日中聞こえてまいります。初めはその声が何だか耳障りにも聞こえました。しかし、どんな唄でも耳に馴染めば、何だか頭に残ってしまうものです。
夕の職務の終わり頃、疲れていたのかつい、ふふーんと私は口ずさんでしまいました。彼のたくみな楽器の音に乗せられてしまったのです。
彼は私が唄を口ずさんでことに目ざとく気がつき、楽器を弾く足を止めました。
「やあ、キミはどうしてそんな必死に働いているんだい?」
彼は笑いながらよく通る声で、地べたにいる私に向けて言いました。
私はその時ふと考えてしまったのです。『どうしてこんなに必死で働いているんだろう』と。もちろんそれは、生まれいづる時よりの運命であり、女王のために働くことこそが私の生きる意味である、ということは重々承知しております。
しかし、その時の私はどうかしていたのです。彼の声にそのような魔力が込められていた、と考える他ありません。
「もし良かったら、一緒に唄を歌わないかい?明日もここで、僕は遊んでいるよ」
彼のその甘言に私はつい乗せられてしまいました。
翌日、私は仕事を抜け出し、石の上に行きました。楽器を横に並べ、彼は暢気に日向ぼっこをしておりました。私がやってきたことに気がつくと、嬉しそうに起き上がり言います。
「やあ、来たね。さあ、遊ぼう」
その一言が大変私の胸を躍らせたことをよく覚えております。

それから私達は太陽が沈むまで唄を歌いました。彼が楽器を弾き、私は拙い唄を精一杯振り絞ります。夏の太陽は随分長いこと空にいるものですが、その日はあっという間にあの森の向こう側に隠れてしまいました。
お互いに別れを寂しがっていると、彼は何気ない調子を装って言いました。
「明日もまた一緒に遊ばないかい?」
そんな言葉をかけられて、私にどう断る術がありましょう。
あくる日も私達は唄い続けました。次の日も、その次の日も。この上なく、楽しい日々でした。いつの間にか時間が過ぎ去っているのです。遊んでいるだけなのだから当然だろう、と女王陛下が私を責めるお気持ちも重々分かっております。私自身も今になって、どうしてあんなに遊びくれてしまったのだろうと思っているほどです。地中深くまで頭を下げられればと、反省をしております。
そうして気がついたとき、夏の日々は終わりを告げ、露と消えていました。石の上で冷たい風に吹かれたとき、ふと冬への備えをしていないことに気がつき、焦り始めました。
彼はどうするのだろう。私は尋ねました。すると彼は言いました。
「僕は、もう十分歌いたい唄を歌えたからなあ」と。
私は、その刹那的な生き方に種族の壁を感じました。どれだけ楽しく歌い合っていても、彼は私達とは違う生き物だったのです。熱を帯びた頭が周りの温度に順応するように醒めていきました。
冷静な頭を取り戻し、そんな風に遊んでばかりいてはダメだ、女王陛下のために冬を越すための準備をしなければ、と考えました。
私は、その次の日から石の上に行かなくなりました。しかし、時すでに遅く、私の仕事はすでに無くなっていました。仕事をしなければという気持ちはあれど、外にでれば身体が凍え、そのまま死に絶えてしまうだろうという寒さになっていたのです。

「――そうして今、このようにぬくぬくと地中深くに潜っているという次第でございます」
彼は一息に話し終わると、ようやく面を上げた。
どうかお許しを、と彼は触覚を揺らし、前足を擦りながら、女王陛下に赦しを請う。
しかし、女王は静かに首を振った。
「働かざる者は生きてはなりません」
そのお言葉はきっと、今目の前で跪く兵士にも、女王のお足元で横たわる唄歌いのキリギリスにも、向けられた言葉なのだろう。
早く早くと、周りの者たちが興奮して急く空気が部屋に充満する。今にもかぶりつきたいというのはみな同じ気持ちだ。そのためにここまで我慢してきたのだから。
女王が許可をだすと、件の兵士以外の者が、キリギリスにワッと群がった。兵士は皆の食事の様子を悲しそうに見つめている。
群がりの中の一匹が、彼を横目に眺める。兵士の顔を見たその一匹が、「僕たちは女王へ尽くさなければならない」と肉を頬張りながら誓った。


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このストーリーに関するコメント

15/12/14 守谷一郎

13行目に誤字がございます。×口ずさんでことに→◯口ずさんだことに
謹んでお詫びと訂正致します。

15/12/17 滝沢朱音

面白かった!
最初の三行、すてきなイントロですね。惹き込まれました。
「その刹那的な生き方に種族の壁を感じました」のあたりで、
あれ、もしかして…?と読み手に童話を連想させながらも、
ごく自然にラストへとつながっていて。
好きな掌編だなあと思いました。

15/12/19 守谷一郎

お読みいただきありがとうございます。そのように言ってくださると、あの童話の虎の威を借りて恥ずかしそうに縮こまっていたこのお話も、ちょっぴり胸を張って歩き出せそうです。「好き」と言ってもらえて照れ顔を浮かべる彼に代わってもう一度お礼申し上げます。ありがとうございました。

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