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つつい つつさん

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あるカメラマンの問いかけ

15/12/10 コンテスト(テーマ):第九十八回 時空モノガタリ文学賞 【 革命 】 コメント:2件 つつい つつ 閲覧数:1243

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 この国は今、革命の気運に飲み込まれていた。長らく続いた軍事政権の独裁から民主国家に生まれ変わろうと、あちこちで政府軍とゲリラ軍が衝突していた。俺はそんなこの国の様子を世界に伝えようとカメラマンとして戦場を渡り歩いていた。
 取りためた写真を各国メディアに売りつけようと国境沿いの比較的安全な街にあるエージェントの入っているビルに着くと、最近知り合った日本人カメラマンのタナカが憤慨した様子でビルから出てきた。何事だと思いながらも俺は先に用事を済ました。比較的高くで写真は買い取ってもらえることになり、俺は意気揚々といきつけのBARに入った。そこには、先ほどのタナカも来ていた。
「よぉ、タナカどうしたんだ?」
「あ、ビル。聞いてくれよ。あのクソエージェントなにもわかってないんだよ!」
 どうやら写真を買い取ってもらえなかったらしい。どんなもの撮ったんだって、見せてもらうとそこには、ゲリラ軍の一二、三歳の少年兵の無惨な銃殺死体が写っていた。「政府軍の奴等、こんな少年まで平気で殺してるんだぜ。なのに、こんな写真載せられないって言うんだ」
 タナカは声高に興奮してしゃべる。ここには政府軍の人間もいるかもしれないのに、うかつな奴だ。
「まあ、でも、民間人って訳じゃないからな。ちゃんと武装してるし。仕方ないぜ」
「でも、ビル、見て見ろよ、まだ子供だよ。なんでこんな子供を平気で殺せるか俺にはわからないよ」
「なあ、タナカ。これ撮ったのどこだ? 紛争地帯だろ?」
「そうだけど、紛争地帯だって、相手が子供だってわかってて撃つか? 遠くからでもわかるだろ」
 タナカはまるで何もわかっちゃいない。子供だろうが女だろうが銃を持てばりっぱな兵士だ。殺されることもあれば殺すことだって当然ある。それにゲリラ軍には少年兵の数が飛躍的に増えてる。子供だからって見逃してたんじゃ、戦いにならないだろう。
「僕はこの国のいろいろな所まわったけど、少年兵だって普段はあどけないんだ。純粋な目をしてさ、お菓子なんてあげるとすごく喜ぶし、幼いんだ」
 そんなこと俺も十分過ぎる程知っている。アイツ等人懐っこいし、可愛い。チョコだのガムだの、おもちゃだの持って行くと、バカみたいに騒いで喜びやがる。
 タナカはそのあとも散々愚痴って酔いつぶれていた。まあ、同情しないこともないが、タナカは戦場カメラマンには向いていないんだろう。戦争ってものを根本的にわかっていない。各国のメディアだって少年兵の銃殺写真なんて求めていないだろう。そう、誰も同情なんてしない。ただ、怖ろしいって思うだけだ。タナカ、お前は各地をまわったなんてほざいてたけど、戦っているときのアイツ等を見たか。アイツ等は本当に無邪気で純粋だ。それは戦闘中も同じ。真っ直ぐな瞳で、信じられないくらいの集中力で敵を見つめ、そして、ためらいもなく撃つ。純粋なんて言ったら、この戦争を知ってるやつに怒られるな。アイツ等は純粋なだけじゃない。狡猾だ。民間人のふりして、ただの一般人のふりしてどこでも潜りこんで、とたんに銃をぶっ放すなんてことも何度もあった。それにやられた政府軍の数なんて、どれだけになるかわかりゃしねぇ。そう、ある意味純粋なんだ。人を騙すことにも、人を殺すことにもためらいがない。後悔もない。悩むこともない。別に俺は政府軍の味方ってわけじゃないが、少年だってだけで殺すのを躊躇してたら、自分が殺されるのは目に見えている。みんなわかってるんだよ。ここでは少年兵を哀れんでいる場合じゃないって。
 悪態つきすぎて疲れたのかタナカはのんきにカウンターにうつぶせになり寝ちまっている。いいよな、自分の正義を安全なところで振りかざして。自分は正義なんだって、あぐらをかいて。タナカ、お前の撮った写真は薄っぺらいよ。世界中にはこんな可哀想な子供がいる。自分はそれを伝えたいんだって、自己満足に溢れてやがる。だけどな、戦争なんてそんな綺麗事じゃないんだ。人間の一番愚かで汚いものでむせかえった場所なんだ。俺たちが伝えるのは綺麗事じゃない。事実だよ。現実だよ。ただ、そこで起こっていることだけだよ。お前は写真が売れないって、ここはおかしいって、そのうち日本に帰るんだろうな。自分の正義感だけ持ち帰って。世界は悲惨なんだって。うらやましいよ。 だけどな、タナカ。お前の国も最近、よその国のケンカに首を突っ込もうとしてるらしいじゃないか。正義って名のもとにな。だったら、そのうち思い知るだろう。アイツ等は可哀想じゃない。被害者じゃない。そう、敵になるかもしれないんだって。世界はお前が思っているより、正しくないんだぜ。危ないんだぜ。狂ってるんだぜ。その時、タナカ、お前はどう思うんだろうな。お前の正義はどうなるんだろうな。
 お前は何を撮るんだろうな……。


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このストーリーに関するコメント

16/01/13 光石七

拝読しました。
語り手のカメラマンの言葉の数々が胸に突き刺さります。
結局日本はまだ平和で、日本で暮らしている自分は紛争やテロのニュースに心を痛めはするけれども、その実何も知らない。結局高みの見物で、平和な日常に埋もれて…… かなり応えました。
今日本が進もうとしている道についての言及も痛烈ですね。
ズシリと重く訴えかけてくるお話でした。

16/01/14 つつい つつ

光石七 様、感想ありがとうございます。
これから進んでいく道はすごく困難な道だと思いますが、うやむやに、なあなあに進むんではなくて、ちゃんと議論は必要だなと思います。
何かあってから批判するのでは無責任な気がしてしまいます。

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