1. トップページ
  2. まあ、こうなるわな(その1)

インド人舞踏家さん

猫に足のにおいをかがれます。

性別
将来の夢
座右の銘

投稿済みの作品

0

まあ、こうなるわな(その1)

15/12/07 コンテスト(テーマ):第六十九回 【 自由投稿スペース 】 コメント:0件 インド人舞踏家 閲覧数:704

この作品を評価する

 俺はシンイチ、限りなくニートに近いフリーターだ。今住んでいるアパートも家賃を滞納しているので、来月には出て行かないといけない。毎日の食事もままならず、かろうじて生きているといった状態だ。
 来月には路上生活か。くそう、俺も就職さえできていたらこんな惨めな生活をしなくてもいいのに。社会が悪いんだ、がんばって働こうとする意欲のあるものは全員雇うべきだ。こんな世の中じゃちょっと引っ込み思案な俺みたいな人間は働くことすらできないじゃないか。社会が悪い、社会が悪い……。
 布団の中で妄想にふける毎日。そして、1日のうち20時間以上を布団の中で過ごす俺は自分の中である架空の人物を作り上げていた。それは何でも願いをかなえてくれる魔法使いの女性。天使とか妖精といったところであろうか。俺好みの二次元系の外見の女性であり変わった形のステッキを持っている。俺は現実でうまくいかない不満を妄想の中でこの女性に願いをかなえてもらうことで解消している。ちなみに女性の名はライラ。

 深夜、俺はいつものように布団の中で妄想にふけっていた。
その時チャイムが鳴った。
 何だよ、せっかく今ライラにお願いを聞いてもらっていたのに。空気読めよ、バカ客。
 俺はしぶしぶ布団から出て玄関ののぞき穴を見た。が、外には誰もいなかった。
 くそっ、いたずらか。ああ、時間の無駄だった。
 そういいつつチラッと時間を見ると午前3時30分。
 はぁ、いたずらするにも時間があるだろ。そう思い布団に戻ろうとすると、目の前にある人物が立っていた。心臓が止まるほど驚いた俺は大きくのけぞり、玄関の外に飛び出そうとした。が、もう一度はっきり確認するとよくよく知った人間がそこには存在しているではないか。いや現実には存在してはいないはずの人間が! 

 「ライラ!!」

 俺は目を丸くしてその人間に近づいた。さっきまで妄想の中で一緒にいた者である。姿・形もそっくりそのまま、驚くことに少し宙に浮いているではないか。

 『これは……ホンモノだ!』

 俺は直感でそう感じ取った。それと同時にこれが夢ではないかと顔をつねったりもしてみた。

 いたい、いたいぞー。これは現実、紛れもない現実。やったわ。まるでアニメや漫画の世界じゃないか。俺は主人公として選ばれたんだ。
 そう思うとうれしくなってきたが、ここは冷静にライラに話しかけてみた。

 「ライラ、来てくれたんだね、現実では初めましてかな」

 俺は紳士的な態度で臨んでみた。それに対しライラは無表情でこっちを見つめながら初めて口を開いた。

 「初めましてじゃないんだよ。私はずーっとシンイチ君のことを見てきたの。君が妄想の中で私と一緒にいてくれているのも知ってるんだよ」
 そして、ライラは少しきつめの口調でこう言った。

 「このままでは君は何もしないまま人生を終えてしまう。何もなし遂げないままね」

 その言葉を聞いた俺は心にグサっときたのと同時に少し腹立たしさもこみ上げてきた。

 「ライラ、君はいったい何しに来たのさ!」 

 ちょっと強めに言ってしまったことに後悔したが、本心から出た言葉ではあった。

 「話は最後まで聞きなさい、と昔、先生に言われなかった?」
 ライラはそう言うと俺の顔をじっと見つめた。

 「私は君にチャンスを与えるためにやってきたの。そう人生を大きく変えてしまうほどのチャンスをね。」

 俺は怪訝そうな顔でライラを見つめた。

 「それはどういうことなの?チャンスって?それはいつから?」
 矢継ぎ早にライラに質問をぶつけて見た。

 ライラは少し笑みを浮かべながらこう言った。

 「君のいらないものを、欲しがってる別の人に売ってあげるの。手数料は1割もらうけどね。いらないものを売ってお金をもらえるんだからお得じゃないかな」

 俺はライラが言っていることの意味が理解できない。だが、ライラが言ってることだから疑うこともできない。そこで敢えて意地悪に質問してみた。

 「それじゃあ、そこにあるゴミみたいなゲームソフトとか冷蔵庫にある余りものとかも売れるってこと?どうせ馬鹿みたいな値段しかつかないんでしょ。そんなんじゃ意味ないじゃん。まさか……値のつかないようなもの売ったときは寿命が縮まるとかないよね。だいたいこういうおいしい話がある時って裏がある決まりじゃん。俺まだ死にたくないからあんまり危険なことはしたくないんだけど」

 こう言うと、ライラはクスッと笑いながら話し始めた。

 「まさか。命を取ったりとか、売ったもの意外に何かを奪ったりすることなんてないよ。確かにゴミみたいなものを売ったときは1円の利益とか、最悪買い手がつかないこともあるよ。でもそれはもの自体に価値がないから。ただ、私はリサイクルショップじゃないからそんなことはしないよ。わたしが売ることができるのは……」

 少しもったいぶりながらもライラは、はっきりした口調でこう言った。 

 「君が感じ取るもの全て。それは肉体的にも精神的にも全部」

はあ?ライラって不思議ちゃんなのか。もしかして俺はだまされてるのか。

 俺が少しライラに疑いを抱くような態度を見せたため、ライラは覆いかぶせるようにこう言った。

 「まあ、これで理解できたら天才だけどね。君は普通の人間そうだから教えてあげる。例えば君が朝起きたときを想像してみて。昨日は夜更かしして睡眠不足だ。しんどいなー。この眠たさ何とかならないかなあ。そこでこう思ったりしない?『そうだ!この眠たさを売っちゃおう!』ってね」

 「まだ意味がわからないかな?うーん。つまり人間では取り出せないものを量り売りしてあげるってことなのよ。さっきの眠たさって、不眠症の人からするとすごく欲しいものなの。売る人は体の疲れが取れて喜ぶし、買う人もすっきり眠れて喜ぶ。つまり欲しい人がいる以上何でも売れるってことなの」

 「まだ信じていないようだね。じゃあ、少しだけ私が今まで取引してあげた人のことを話してあげる。今、ボクシングで炎の男とよばれている王者いるよね。あの人何回殴られてもすごい闘志で向かっていくじゃない。何故だかわかる?あの人私が売った他の人の憎しみを買っているの。いつか殺してやろうと思ってる上司への憎しみ、浮気をしてる夫に対する嫉妬とかをね。それを1Rごとに注入しているのよ。だから最初から最後まで炎の男というわけなの」

 「あとね、あのダイエットタレントのA。食べても食べても太らないっていうやつ。あれはね、体脂肪を売ってるの。100g千円とかかな。買い手がないと思うでしょ。でもね、寒い国の人たちが結構買っていくんだよ。猟をする人とかに多いね。少しはわかったかな。口で説明してもあんまりだと思うし、一度試してみようか。何でもいいので言ってみてよ!」

 俺はまだ信じられずにいたが、目の前に宙に浮いた女性が存在していることを考えると、この余興に乗ってやるのもいいかなと考えはじめた。よし、それなら……。

 「俺、いま風邪気味なんだ。この風邪気味を売ってくれ。世の中には風邪になりたいと思う物好きだっているだろ」

 「ご注文承りました」

 そういうとライラは怪しげな呪文を唱えながら魔方陣をいくつも空中で重ね合わせると、こちらのほうに体を向けた。

 「売れたよ。価格は5,000円。買った人も満足の様子だったよ。ほどよいいい風邪だってね。あ、1割の500円はもらっておくね。残りのお金は君の財布に入ってるからね」

 俺はうそだと思いつつも財布を見てみた。すると……確かに4,500円が入っていた!

 「すごい!あんなバカみたいなものがお金になるとは!」

 俺は風邪が治ったことも忘れて舞い上がっている。次は何を売ってやろうかと色々考えているがすぐにはまとまらない。

 その様子を冷静に見つめながら、ライラは、

 「わかったようね。これはいらないものを売り、欲しいものを手に入れるという究極のギブ&テイクだよ。まあまずは色々試してみるといい。そして売りたいものがあるときはこれで私を呼んでくれるといいよ」

 そういうとライラは1個の指輪を俺に手渡した。

 「この指輪にキスをするとわたしはいつでもどこでも現れるよ。思い立ったら呼べばいい。ただし、1度呼び出したら最低1個はものを売ってね。呼び逃げは許さないから」

 「あと……訂正は聞かないから、よーく考えて注文してね。」

 「では今日はここまで。これからよろしくね!」

 ライラはそう言いながら、最後ににこう付け加えた。

 「うまく利用できれば君はこの世界の王になれるかもしれないよ。」

 ライラは不敵な笑みを浮かべながら、俺の前から姿を消した。

 俺はなんて運がいい男なんだ。もう働く必要がないじゃないか。脂肪とか病気とか感情とかを売れば生活できるんだから。さて、どうしよう、何かいらないものはないかな……。

 俺は興奮していたが、何せ今は夜中。あれこれ考えているうちに眠くなってきたのでそのまま寝てしまった。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン