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tamagoさん

SF系のショートショートが好きです。 博士が作る不思議な装置、悪魔や神様が登場するユニークな作品をよく書いています。 書いたものはHP等に掲載することもあります。

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閻魔大王の鏡

15/12/06 コンテスト(テーマ):第六十八回 【 自由投稿スペース 】 コメント:0件 tamago 閲覧数:1519

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 えー、みなさん。人間は死後、どこへ連れていかれるか御存知でしょうか。
 天国か地獄、と答えた、そこのあなた。もちろん間違いではありません。ですが天国へ行くにしても地獄へ行くにしても、まずはどちらへ行くのか裁判をしなければなりません。そして、その裁判を下しているのが、かの有名な閻魔大王様でございます。
 釣り上がった目つき、大きくて低い鼻、人の頭を軽く飲みこみそうな口、……その容姿は、ここへ来た霊魂たちがその顔を見てガクブルと震えるほどのものです。私たち地獄の番人たちの中でも閻魔大王様に逆らおうとする無謀者はひとりもおりません。
 さて、そんな閻魔大王様に、可哀想な私は呼び出しを受けてしまいました。
「いったい、なんの御用でしょうか?」
 渇いた血のような色をした地面に膝をつき、私は目の前の巨体を見上げました。地獄にも屈強な鬼はおりますが、閻魔大王様の体格はそれを上回っています。
 閻魔大王様は、その体格に見合ったドスの利いた声で語りかけてきました。
「そうかしこまるでない、今日はちょいと頼みがあって呼んだ」
「頼みとは?」
「ここしばらく、私は働き続けで休みを取れていない。この一週間の私の睡眠時間は、たったの三時間だ。これは、もはや労働基準法違反だ。これもそれも、現世で悪さをする者や自殺志願者が増えてきたせいだろうな」
「はあ」
「このままだと、倒れかねない。そこでしばらくの間、休暇を取ることにした。その間の霊魂たちの裁判を、お前に頼みたいのだ」
 それを聞いたとたん、私の頭からすっと血の気が失せていきました。
 閻魔大王様の代わりに霊魂たちの裁判をする。天国行きか、地獄行きかを決める。こんな重要な仕事を、ただの地獄の番人が行うのでは、あまりにも荷が重すぎますから。
「そんなこと、私にはできません」
「なあに、私だって裁判を一から任せられるとは思っていない。裁判の判決は、この鏡に任せようと思っている。お前はただ、この鏡の言う通りに動けばいいだけだ」
 閻魔大王様の手には、楕円形の鏡が握られていました。なんでも、その鏡に霊魂を映すと、悪い行いをした者は黒く滲み、いい行いをした者は白く滲むそうで。黒く染まれば地獄行き、白く染まれば天国行きの切符を渡してくれ、ということでした。
「これなら、難しいことではないだろう。お前でも、充分にできるはずだ」
「たしかに、難しいとは思いませんが……」
 でも、やっぱり責任は重いものです。失敗したら首が飛ぶかもしれません。仕事でドジをやらかす私には、適任ではないと思うのですが。
 できれば他の地獄の番人に任せてもらいたいもの。ですが、勇気のない私は口をパクパクと開くだけで、閻魔大王様に向かって「ノー」とは言うことができず……。
 こうして私は閻魔大王様の代わりに霊魂を裁くことを命じられたのでした。

 一週間ほど経ったある日、閻魔大王様が戻ってきました。
「おい、久しぶりだな。裁判のほうはきちんとやっていたか?」
「ええ。閻魔大王様からもらったこの鏡が、きちんと霊魂をさばいてくれました」
「そうかそうか」
 閻魔大王様は満足そうに頷いていましたが、――机にあった帳簿を見て顔が強張りました。この帳簿はお金のやり取りを記録したものではなく、霊魂がいつ天国もしくは地獄へ落ちたかを事細かに示してありました。
「おい、これはどういうことだ」閻魔大王様は帳簿をめくっていきます。「私がいなくなってから、ここにきた霊魂たちはみんな地獄行きになっているではないか」
「はい、そうなんですよ」
「そうなんですよ、ではない。こんなにも多くの者たちが地獄へ一斉に落ちるなんて、いままであったためしがないぞ」
「でも、あの鏡のいうとおりにしましたよ」
 声色が強張る閻魔大王様にびくびくしながら、私は手に持っていた鏡を見せました。
「本当に、その通りにやったのか?」
「ええ、こうやって鏡に霊魂を映しました。でも、対面していたら鏡の中身が見られないでしょう。だから、そこは智恵を使って、一緒に記念写真を取るように鏡に映って……」
 たとえ天国行きの霊魂でも、地獄の番人と一緒に映ったら、鏡の色はもちろん……。


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