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森島豊さん

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本当にいい勉強になりました

15/12/02 コンテスト(テーマ):第九十七回 時空モノガタリ文学賞 【 他山の石 】 コメント:0件 森島豊 閲覧数:849

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 十一月八日(金)は、川田修平にとって二十七回目となる誕生日であった。

 九年前に親元を離れて東京の私大に入学したが、全く自由な、親の監視のゆきとどかない一人暮らしという環境に囲まれた修平は、それまで同年代と比べると比較的真面目に勉強してきた反動もあってか、あっという間に堕落しきった生活を送るようになってしまったのだ。バイト先と家を往復するだけの日々を送り、そのバイト代もまた、ソーシャルゲームであったり、その頃覚えたスロットであったり、そうした非生産的な娯楽につぎ込んでしまうありさまであった。おのずと勉強にはついていけなくなり、加えてサークルの類も、元来あまり積極的に友人を作る気質ではない故一つも加入しておらず、勉強について助けを求めるような友人が大学に一人もいなかったのも問題であった。

 三年次末に単位不足による留年が確定すると、修平は独断で大学中退を決意した。しかし修平の両親は「大学だけでも出ろ」という姿勢を崩さず、一方の修平はと言うと「留年してまで勉強するのは嫌」などという全くもって幼稚な理由を並べ立て、押し問答の末両親が折れる形で中退が決まった。

 その後、東京を拠点にフリーター生活を今日まで続けてきたが、大学時代の日常を引きずったままの彼は、すっかり不精な性格に変貌してしまっていた。様々なアルバイトを経験してはいるが、毎日のように遅刻をしたり、仕事をまともにやらなかったり、何かと自らトラブルを振り撒いては社員や他のアルバイトの顰蹙を買い、最終的にバックレる。というのを何回も繰り返し続けている。現在勤めている人材派遣会社でも、遅刻や直前での仕事のキャンセルが多いことから評判は悪い。

 その修平に誕生日直前、転機が訪れた。同じ派遣会社に所属している大学生、駒崎璃奈という女のことである。この春大学入学した彼女は、まだどこかあどけない女子高校生の雰囲気が十分に残っていたが、それでいて少し背伸び気味の大人びたファッションや振る舞いをしている所に、不思議な魅力があった。修平は彼女と八月末、偶然同じ現場に派遣され、当時新人だった彼女の教育係を任されていた。この時修平は、彼女に一目惚れをしてしまったのだ。

 修平は璃奈の気を引くため、現場が一緒になる度に声をかけ、休憩時間中なども積極的に話しかけたりした。しかし人を楽しませる話のネタなどが無い彼は、もっぱら自分の今までの経歴などを彼女に話し続ける他ない。
「俺、実はS大中退したんだ」
 こう話を切り出すと、意外にも璃奈は目をぱちくりさせ、興味津々に聞いてくれる。
「そうなんですか。家の事情とか?」
「いや別に。なんとなくさ。ぼけーっと毎日バイトかスロットかって感じ」
「そんな生活してたんですか!? 大学行ってないじゃないですか!」
「まぁね」
「でも、いきなり中退とか、親は何も言わなかったんですか?」
「いや言われたけど、俺自分でそういうの決めたいから。とにかく勉強嫌でさ。この先留年して余計な学費払いながら下の学年の奴と勉強とか、バカバカしくって。だったらさっさとやめとこう、みたいな」
「まぁ、そういう考え方もアリですよね」
 初めはこういった話をしたらとんだダメ男だと思われないだろうかと心配していた修平だったが、璃奈の比較的好意的な、笑顔を交えた反応を見ておもわずほっとした。

 そして十月の半ば頃、修平は自身の誕生日に飲みに行こうと誘った。翌日が学校だからと乗り気ではない彼女だったが、奢りだという事と、修平が誕生日ということを聞くと手のひらを返したように「行きますよ!」と目を輝かせて答えた。

 そうして迎えた十一月八日の夜。修平はハイボールを片手に語った彼女の話を、おそらく一生忘れることは無いだろう。

「どうせあたし明後日の現場で辞めるからこの際言っておくけどね、アンタの武勇伝みたいな話さぁ、面白くねぇんだよ。内容も超ヤバイヤクザとケンカしたとかならまだしも、大学時代ダラダラして結局中退した男の話とか全然興味ねぇから。休憩時間とか隣座ってウダウダそういう話してくるの、クソイラつくんだよね。周りの目があるから耐えて聞いてたけど。だいたいオゴリでもなけりゃ誰がテメーみたいなクズ野郎の誕生を祝うんだよ! でもおかげ様で大学で真面目に勉強しようって改めて心に誓うことができたわ。その点については本当にいい勉強になりました。ありがとうございますぅ」

 このマシンガントークの後、修平の記憶はぷっつりと途切れる。

 翌朝、修平は空っぽの財布を握りしめた状態で自宅のベッドに寝ていた。ひどい二日酔いの中、昨夜の璃奈の言葉を脳内に響かせながら一人涙した。そして自分が、怠惰な大学生活を三年ばかり送った故に、今後の人生を無駄にしつつあるというという事を、今更ながら理解したのだった。


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