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平塚ライジングバードさん

今生の私の実力では無理ですが、 来世かその次の来世においては、 物語で世界を変えたいと強く思っています! 制作者の皆さんが「こんな発想もあるのか…」と 目から鱗が落ちるような作品作りに努めます!!

性別 男性
将来の夢 将来の夢を堂々と語れるようになること
座右の銘 圧倒的物量は質を遥かに凌駕する

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Save the earth

15/11/30 コンテスト(テーマ):第九十六回 時空モノガタリ文学賞 【 奇人 】 コメント:0件 平塚ライジングバード 閲覧数:844

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「ほのかに山椒のにおいがするでしょう。これがこいつらの名前の由来です」
オオサンショウウオの体表を指でなぞると白い粘液がこびりつく。“NPO法人ふるさと自然再生機構”の職員である青島は、粘液がべっとりついた指を灰原の鼻先に近づけた。
「確かに独特の生臭さを感じますね」
灰原は思わず顔をしかめる。
「灰原さんは、都会の人ですか」
「ええ、まぁ」
「うちの団体のテーマソングが童謡の“ふるさと”なんですが、私は都会の子供たちがこの歌を学校で習うのが悔しいんですわ。彼らは、ウサギのいる山も、コブナの釣れる川も知らずに育ったのだから…。灰原さんの住んでいるところはどうですか」
「残念ながらそのような環境は無いですね」
「ふるさとっていうのは、生まれ育った場所という意味なんです。我々は、子供たちの住む場所を少しでも童謡の“ふるさと”に近づけたい。その一心で活動しているんですわ」
「でも、環境破壊の原因は人間にあるんですよね」
灰原は青島の目をまっすぐに見つめる。
「そのとおりです。このオオサンショウウオだって、絶滅危惧U類に指定されている生物なんです」
「私には、非常に大きくて強い生き物に見えますが」
「ええ。こいつら昔は“ハンザキ”って呼ばれていたんです。半分に裂いても生き続ける獰猛で生命力の強い生き物だって」
「でも、絶滅が危ぶまれているんですよね」
「はい…。我々のご先祖たちが、山野の珍味として乱獲したことによって、数が激減してしまったんですわ。罪滅ぼしという思いも込めてこうやって保護しているんです」
「保護すべき対象を捕獲して大丈夫なんですか」
「こいつらすだれで巻いてやると寝るんです。できる限りストレスを与えないようにと先代の会長が編み出した技術ですわ。そしたら灰原さん、少し手伝ってもらえませんか」
青島はそう言うと、灰原にすだれを少し剥がすよう指示した。青島は素早い手つきで、オオサンショウウオの左前足に機械を近づける。
「何をされたんですか」
灰原は、不審そうな顔で青島に問う。
「個体識別です。このビオトープに住んでいる個体全てにマイクロチップを埋め込んでいるんですわ」
「マイクロチップを埋め込んだりして、健康に害はないんですか」
「まぁ、全く害がないとは言い切れないですね。ただ、今のところ最善の方法なんですわ。寝てる時に埋め込んで、計測してっていうのが。それじゃ灰原さん、こいつを川に返してやりましょうか」
二人で巨体を持ち上げて、ゆっくりと放した。元気に動き始めるオオサンショウウオを見て、思わず灰原は目を細めた。
「灰原さんも何か自然保護団体を立ち上げるっていう話でしたね」
「はい。ある生物の調査・研究、そして保護を行おうと考えていまして」
「そうですか。そういう考えを持つ人が増えるのは嬉しいですわ。そんなら…」
そう言って、青島は灰原の近くにある岩に腰を下ろした。
「二つのことを大切にしてください」



「一つ目は、生物の多様性を認めてほしいということです。例えば、象が豊かに暮らすことができる環境というのは、ただ象がいるだけじゃない。象の食糧になる植物があるし、その植物の交配を助ける虫がいる。それに象が増えすぎてもいけない。要するに、バランスを考えてほしいんですわ。地球って星はよくできていて、多様な生物が一様に幸せになれる環境こそが自然な状態なんだっていうことを覚えておいてください」
灰原は強く頷く。
「そして、もう一つは強い生物などいないということです。現存する最大の両生類であり、“ハンザキ”の異名を持つオオサンショウウオでさえ、保護していかなければすぐにでも絶滅してしまうかもしれないんです。こいつは強いから大丈夫、こいつは数が多いから大丈夫なんて、人間のエゴに過ぎないんですわ」
「分かりました…。青島さんの言ったことは絶対に忘れません」
灰原は、深々と青島に頭を下げた。



灰原は、青島に別れを告げると、町とは反対の方向に歩みを進めた。
山のふもとの草原まで来ると、おもむろに通信機を操作し、円盤状の飛行体を呼び出す。そして、一瞬の光と共に灰原の存在は地球上から消え去った。


――報告します。
消滅危惧種に指定している地球という惑星について、消滅の危険性を高めた最大の原因である人間の殲滅を計画していたところですが、生物多様性という地球の特性を考慮した際、その方法が適切ではないことが判明しました。まず、人間という生物を知ることが先決であると考えます。
人間は、地球の生態系の頂点に君臨する生物であることは事実ですが、それを理由に当該生物を抹消するという判断に至るのは、極めて独善的かつ軽率であると言わざるを得ません。
人間及び地球の特性を理解した上で、しかるべき保護運動を展開することが最善と考えます。

以上。


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