1. トップページ
  2. 成り行きのイヴ

蒼野 羽衣さん

気まぐれな人間です。

性別
将来の夢
座右の銘

投稿済みの作品

0

成り行きのイヴ

15/11/22 コンテスト(テーマ):第九十六回 時空モノガタリ文学賞 【 奇人 】 コメント:0件 蒼野 羽衣 閲覧数:1068

この作品を評価する

今年も残すところ、あと数日。
採ってくれた会社で惰性で働いて約5年経つな、と少し物思いに耽る。
それにしても、この大きな駅の周辺は豪華なイルミネーションで眩しい。広場には大きなクリスマスツリーに煌びやかな小物が飾られ、天辺にはオーロラに輝く大きなスター。うちの地元はクリスマスよりもイヴの方が賑わうので、24日の今夜が人手のピーク。ツリーの周りでは、カップル達が手を握り、写真を撮り、きゃあきゃあ盛り上がっている。
ま、私には全く関係ないことだけど。
リア充爆発しろ!とは思わないが、ご苦労なことだな、と思ってしまう。
自分でも冷めてるなぁ、とは感じるけどこれで23年生きてきたから、今更変えるのは難しい。
こんな日に、わざわざ繁華街まで繰り出してきたのは、別に孤独感を味わうためではなく、仕事終わりに飲みたい気分だったからだ。
「お姉さん、暇?」
「え?」
突然話しかけられて、思わず呆けた声を出してしまう私。
この台詞からして、いかにも若いチャラ男だけど、後ろを振り向くと予想外の人物がいた。
「・・・しょ、小学・・・生?」
中学年から高学年くらいだろうか、しかも女の子。茶色気味の髪を肩にかかる程度まで伸ばしている。あれ、どこかで見覚えがあるかも?・・・いや、気のせいかな。
「そうだよ、JS?ってヤツ。何かお姉さん暇っぽいからさ、時間つぶしに付き合ってよ」
名乗ってもいない、初対面の大人に向かって物怖じしない変な女子小学生が、口の端をぐいっと上げながら私に迫って来る。
「付き合ってよって・・・あのね、私は大人だから良いけど、もう20時過ぎてるよ。早く家に帰った方がいいんじゃないの?お母さんやお父さん、待ってると思うよ」
特に今日は子供達にとってもビッグイベントの日なんだから。
「ああ・・・今、家には親いないから、大丈夫」
強気な態度と口調が少しだけ奥に引っ込んで、ボソリと呟く女の子。
「はぁ。じゃあ、○○珈琲店でいい?」
本来なら、素知らぬ振りをしてそのまま夜の街に消えてもいいとは思うけど、どうしてか私の口が動いた。
「コーヒー苦くて苦手なんだよね。甘いのある?」
「あるよ。甘いカフェモカとかケーキもあるだろうし」
「ふぅん?じゃあ案内してよ」
お互い名乗り合うと、少女は時雨ちゃんというらしい。
私のことは『香澄だね、よろしく』と人懐こい顔で握手してくる。
行きつけの喫茶店へ、私は時雨ちゃんを連れて行った。
私はブラックコーヒー、彼女は悩んだ末、カフェモカを頼んで一息入れる。
一応社会人の私が奢ると、彼女は恐縮しながらも丁寧にお礼を言ってくれた。
「甘くておいしい」
カフェモカの上のホイップクリームを混ぜて飲み、彼女は頬を緩ませる。
「そう?良かったね」
私もブラックコーヒーを一口。少し酸味のあるコーヒーがじんわり体を温めていく。
私はしばらく彼女と世間話をしていた。
その流れで、時雨ちゃんがこんな夜の街にうろついている理由も聞くことが出来た。
「そう。お母さんを待ってるんだ」
「うん。ママ、毎年知り合いのイタリアンレストランでアルバイトしているんだ。結構お金貰えるんだって。それが終わったら、クリスマスケーキ買ってママとパーティーするの」
「そっか。いいお母さんだね」
私が社会に出る前は、実家で冷蔵庫に入ってたケーキとチキンを食べてたな、とぼんやりと思い出す。
「そうだ!香澄も来なよ」
「えっ!?それはさすがに・・・」
こんな見ず知らずの女がアットホームな空間に割り込むだなんて、奇妙過ぎる。
「実は香澄を見るの、今日が初めてじゃないんだよね」
時雨ちゃんの話によると、朝の通学路でバス待ちの私を度々見かけていたらしい。
ちょうど小学生の登校時間にそのバス停にいる若い女性は私しかいなかったようで、印象に残っていたようだ。
私が彼女に見覚えがあった気がしたのも、多少根拠があったんだ。
21時になる頃店を出て、私の手は強引に時雨ちゃんに掴まれ、待ち合わせ場所であろうクリスマスツリーまで連行される。
ほどなくして、彼女のお母さんが来て私に深く礼を述べると、是非にと自宅へ招いてくれた。
気の早いスーパーで半額まで割引かれたクリスマスケーキ、唐揚げと一緒に、朝に作って置いたという豚汁を出された。
世間ではミスマッチなんだろうけど、とても美味しくて、何より温かかった。
ほぼ、初対面で会った女の子とその母と、こんな風に食事をするだなんてあり得ない行動だろう。
普段の私なら、断ったはず。
けれど・・・今日くらいはいい、かな。
「また来年も来ればいいよ。ま、彼氏がいなかったら、だけど」
隣で聞いていた時雨ちゃんのお母さんが『コラ』と注意しているのが聞こえた。
「言ってくれるね。でも考えとく」
今年のクリスマスは、久しぶりに楽しかったなと帰路でそっと笑った。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン

ピックアップ作品