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橘 聰さん

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奇人で何が悪い?

15/11/20 コンテスト(テーマ):第九十六回 時空モノガタリ文学賞 【 奇人 】 コメント:0件 橘 聰 閲覧数:1008

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「ねぇ、田山さん、奇人らしいよ」
「え、そうなの?」
 あれは・・・、春に入社した新人の工藤明と富沢花か。あいつらにも俺の正体がばれたってわけね。まぁ、隠してる訳じゃないけどよ。しかし、鬱陶しいったらないな。俺のことをちょっと知ると、どいつもこいつも奇人奇人と小声で伝え合う。コソコソコソコソと腹が立つ。
 まぁ、鬱陶しいとは言っても、面と向かって「君、奇人なんだって?」とか言ってセミナーを勧めてくるお節介野郎よりはマシか。あいつらはいかにも「君のことを心配してる」ってツラをしながら、その裏では噂をしている連中以上に俺たちのことをバカにしている。だがそもそも、今俺のことを奇人だ何だって言ってる工藤と富沢だって、それどころか、この部署の人間の半分近くは奇人なんだぜ?自分には何にも問題ないってツラして、他人のことを奇人呼ばわりしたって、てめえらが奇人だって事実は変わらねぇんだよ。結局連中はアレだ。同じ奇人の中でも特に目立つヤツ――この場合は俺だな――を下に見ることで、自分たちが奇人だってことから目を逸らしてるのさ。まったく浅ましいことだ。

「意外だなぁ。しっかりノルマこなして定時に上がってるし、精神的に追い詰められてる様子もない。お弁当だって毎日持ってきてる。それも結構手の込んでるヤツ。あれ、田山さん本人が作ってるわけ?」
「そうよ。奇人なのにねぇ。」
「はぁぁ、奇人でもそういうところはきちんとできるもんなんだなぁ。」
 まだその事話してんのかよ?無駄口叩いてねぇで仕事しろってんだ。大体、俺をなんだと思ってるんだ?奇人だからって社会不適合者じゃねぇぞ。仕事だってするし料理だって作る。友人だっていないわけじゃないし、釣りという立派な趣味だってある。何より侮辱に傷つく心がある。人格がある。そういう人の心を想像もしないで勝手なレッテル張りで一方的に人を判断するお前らは、俺と比べてそんなに上等なのかよ!?ロクに躾けられもしないまま身体だけ大きくなったクソガキどもが!今すぐ殴り倒してぇ!
 っと、危ない危ない。こんなことで腹を立ててる様子を見られたら、「これだから奇人は」なんて言われるに決まってる。連中が俺をどう思おうと知ったことじゃないが、わざわざ娯楽の種を提供してやることもあるまい。

「でもまぁ、最近は奇人も増えているみたいだし、齢をとってから奇人になるってケースも増えてるみたいだし、田山さんも・・・」
「田山さんはずっと奇人だって。江崎先輩が言ってたよ。」
「田山さんって今年四十・・・三だっけ?それは、まぁ・・・。」
 江崎め。余計なことを言いふらしやがって。誰が奇人だとかそうじゃないとか、どうでも良いだろ。そんなこと新人に教えてる暇があったら、仕事の一つでも教えろってんだ。そうだよ、俺は生まれてこの方奇人だよ。どうせこれからも変わりやしねぇよ。ああ、クソ!気分が悪くなってきた。

 ん?定時か。今日の仕事も終わったし、こんなクソったれな職場に長居する必要も無いな。とっとと帰ろう。そして飯を食って明日の釣りの用意をして、風呂に入って早めに寝よう。
「部長、今日の分の仕事が終わりましたので上がらせていただきます。」
「お、そうか。しかし、君は残業もせんと、いつもきちっと仕事を仕上げて定時に帰るな。とても奇人とは思えんよ。」
 工藤と富沢も知ったことで職場の全員が俺のことを奇人と知ったから、公然とこんなことを言いやがるってわけだ。奇人だからって俺がいつ迷惑かけたよ?嫌味や皮肉を言うなら、定時に仕事を上げられない無能な連中に言ってやれよ。
「・・・お疲れさまです。お先に失礼します。」
 俺は部長に会釈をし、仕事をたたんでとっとと家に帰った。良いさ、明日は釣りに行って明後日はダラダラ休む。それでもって、来週からまた仕事を頑張ろう。奇人だ何だとバカにするやつはバカにすれば良い。かわいそうな目で見たけりゃそうしろ。そうやって、世間やら家族やらに縛られてろよ。週末を自分勝手に、自由気ままに過ごせるのは奇人の特権ってもんさ。

『○○国語辞典』より
【き(奇)】[名・形動]1:珍しいこと。変わっていること。「奇妙」「奇怪」2:1から転じて前例、並ぶもの、番うもの、対になるものがないこと。「奇数」「奇人」


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