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佐々木嘘さん

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灰かぶりと男

15/11/19 コンテスト(テーマ):第九十六回 時空モノガタリ文学賞 【 奇人 】 コメント:2件 佐々木嘘 閲覧数:892

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彼女は暖房の効き過ぎるワンルームでソーダー味のアイスを舐めていた。冬に食べるアイスが一番美味しいのに種類が少なすぎると文句を言う茉莉はこの時期の主食が氷菓に変わる。だからこうして週に数回彼女の部屋で僕はシチューとか肉じゃがとかオムライスとかを作る為に足を運んでいた。
彼女はありがとうなんて言わない。ごめんねも言わない。食べたら食べっぱなし。材料費も払わない。でも代わりにその日だけは茉莉の脚を自由に扱わせてくれる事になっていた。


「その色は嫌」
「え?でも今日発売の新色だよ?赤好きでしょ?」
「好きだけどそういう緋色は嫌なの。この前買ったそっちの赤塗って」

ほら早くと茉莉は右足の爪先で奥の棚にある真っ赤なネイルポリッシュを差す。僕は不満ながらも蓋を閉め直し彼女ご指名の赤を手に取り足の爪に塗ってゆく。彼女の滑らかな踵を支えながら一刷毛一刷毛丁寧に、ムラにならないようペディキュアを施した。

僕は茉莉の脚がとても好きだ。特に膝下からの彼女は完璧で。夏、サンダル姿を初めて見た瞬間からその脚に夢中になった。すれ違う度に無意識に追ってしまう程白く美しい脚。最初はただ盗み見できるだけでよかったんだ。でも人間は欲深い。見たい、は触れたいに変わり。触れたい、は撫でたいに変わり。撫でたい、は欲しいに変化する。この脚を好きなだけ好きなように扱える正当な権利を持ちたかった。

「やぁらしい」
「え?」
「慧の視線って、もはや視姦だよね」

くすくすと笑う。でも僕はふーん、と適当に相槌しながらも視線は足の爪から一切離さなかった。どうやらそれが茉莉にはお気に召さなかったようで、慎重に赤を塗っている最中の右足に彼女は力を入れてぐいっと動かした。

「あ、!」
「あーあ。はみでちゃった。塗り直してね」

見下しながら、またくすくすと笑う。人を馬鹿にするような彼女特有のいつもの笑い方だ。
茉莉は同じ大学の女の子で、噂では男に貢がせるだけ貢がせてあっさり捨てたり友達の彼氏を平気で奪うなど良くない話ばかりされているのにそれでも一切男は途切れないでいる。男友達は美人だから仕方がないと笑い、女友達は顔も言うほど美人じゃないと僻んでいた。

「性格悪いな」
「あはは、そうだよ私は性格が悪い女だよ。でも、その女の脚を舐める慧はもっと頭がおかしい変態だね」

人を不愉快にさせる術に長けている彼女は他人に嫌われ疎まれている。顔はともかく人としては最低な部類だと思うけど、正直僕にはそんなことはどうでもよかった。だって彼女の脚はこんなにも美しいのだから。爪の形まで完璧なこの脚に触れれるのなら飯炊きだろうが荷物持ちだろうが変態と言われようが関係なかった。
彼女の内面なんて興味ない、この脚さえそこにあればそれだけでいい。

「そうだね」

そういった意味である同意の台詞に、突然彼女は反応した。
感情的な茉莉を見たのは初めてだったから思わず僕まで動揺してしまう。

「!、なんで否定しないの!?」
「え?…ま、茉莉…?」
「…………たまに慧が私の脚だけ切って消えそうで、こわいよ」

こわい?
掌からネイルの壜が滑り落ちる。ドロッとした赤い液体は彼女の脛に容赦なく掛かってしまった。そしてそれがまるで血液のように流れ落ちるから、自分勝手で傲慢な茉莉が自分をそんな風に感じていたことを思い知らされたんだ。

昔、絵本の中でシンデレラが一番好きだった。ガラスの靴を頼りに巡り合い幸福を手に入れたシンデレラ。それ以来僕は絵本よりもロボットよりもハイヒールに夢中になっていた。美しい曲線に滑らかなフォルム。女性の綺麗を引き出す魔法の靴。
でも自分は男だから。この太く骨ばった大きな足ではどうしても不釣り合いなのに、僕の部屋には収集している数足のハイヒールが存在する。休日にそれらを磨きながら眺める時が一番好きで、この靴を自由に履き歩けたらどれだけ幸せだろうかと思い続けていた。

茉莉の美しい脚は僕が集めるハイヒール達にきっと良く似合うだろう。僕は茉莉の脚が欲しかったんだ。それは感覚ではなく物理的に。その脚を切り取って自分の脚に嵌めたいという欲望に犯され続けたいた事実に気づいてしまった。
見たい、は触れたいに変わり。触れたいは、撫でたい変わり。撫でたい、は欲しいに変わり。欲しいは、所有したいになっていた。
くっきりと自覚した自分の狂気。
いつか本当に僕は茉莉の脚を切り取るのかもしれない。けれど、もしそうなったとしても仕方がないことなんだ。だから安心して欲しい。靴と同様にその脚もきちんと手入れをしてあげて、毎日違う靴を履かせて飾ってあげるんだ。それはきっととっても素敵なことなんだよ。

「ははっ。本当だ、怖いね」

いつの間にか彼女の食べかけのアイスも落ちていて、床の上で赤と混じり合いベトベトに汚れていた。


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このストーリーに関するコメント

15/12/27 光石七

拝読しました。
冒頭、彼女が奇人なのかと思っていたら……
主人公の倒錯性と狂気、怖いけれども妙に引き付けられるものがあります。
ラストの一文がいずれ本当に事を起こす暗示のようで、印象的でした。
面白かったです。

16/01/12 佐々木嘘

光石七様
コメント本当にありがとうございました。
平凡に見える人程狂気に満ちてると思い書いたお話です
拙い文章ですが最後まで読んで頂き、そして面白かった、と初めて言われましたのでその一言が大変嬉しく思います

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