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たまさん

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誰もいない宇宙で

15/11/18 コンテスト(テーマ):第九十六回 時空モノガタリ文学賞 【 奇人 】 コメント:3件 たま 閲覧数:1278

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 未来はやって来ない。未来は追いかけてくるものだ。
 宇宙が誕生してまだ10万年も経たないころ、そこは微かな光に満たされ、水素、ヘリウム、リチウムといった質量の軽い元素が漂っているだけの世界だった。私はそんな世界に誕生して(種族V)と呼ばれる星になった。もちろんそんなこと、人類の記憶にはないから、この小説は私の一人称で語ることになる。

「クエーサーですか?」
「ん……ま、そんなとこですわ」
「でも、種族Vは仮説でしょう? いまこうして、あなたの存在が事実であったとしても、あなたの過去を証明するものがなかったら、残念ですが船には乗れません」
「どないしても?」
「はい、どないしても。ですから、種族Uで申請してみてはいかがですか?」
「あ、それはできまへん。ご覧のとおり、わたしには顔がありまへん」
「まあ、そうですけど、なんとかなりませんか、それ?」
 その男はボールペンで線描きしたみたいな身体を持っていた。おそらくその線は、自由自在に曲げることができるはずだから、顔なんてどうにでもなるはずだった。
「あんた。それ、困りますわ」
「え、それって?」
「この小説な、わたしの一人称なんですわ。そやから、あんたがそんなふうに語るのはルール違反ちゃいますか?」
「え……そうなん? じゃあ、そうしてください。でも、審査はもう、終わりましたからね」
 私と、私の家族は今夜の船に乗ってギリシアに渉るつもりだった。宇宙が誕生して以来、私たち家族はこの宇宙を彷徨いつづけて、いまもなお、その存在が確認されない星の種族として、難民というカテゴリーの船底に押し込められていたのだ。

「ほんとに? ほんとに種族Vっていったの?」
「うん、そうだよ」
「それで、まだ港にいるの? そのボールペンの男は」
「たぶん、いると思うけど、どうして?」
「会ってみたいわ、あたし。ね、港に行こう」
 それで、ヨーコを乗せてYAMAHAの船外機をつけたボートを走らせた。
 港といっても海があるわけではない。ほとんど砂漠のど真ん中といってもよかった。この星に有りがちな真っ赤な砂漠の海だった。夜空には月が三つあって、銀色に輝く葉巻型の船体を真っ赤な海に横たえた船は、まだ港に停泊していた。
 ボールペンの男とその家族は、港の外れの青いテントのなかにいた。

「そやからな、なんべんもゆうけどな、これはわたしの一人称小説やねん。あんたらがそんなふうにゆうたらあかんねんで」
「あら? あたしはかまわないと思うわ。だって、宇宙が誕生したころは人称なんてなかったのよ。だからさ、あなたが一人称で、あたしたちは三人称でもおかしくはないはずよ」
「え? ま、そらぁそうやけど、わたしらは種族Vゆうても、ほんまはこの宇宙でいちばん最初に生まれた星の種族ですぅ。あんたらTやUゆうても、わたしのあとから生まれたんやで。早いもん勝ちとちゃいまっか?」
 確かにそうだった。種族Tの太陽が生まれたのはつい最近の話しだし、そうなると火星や地球が生まれたのは、もっと最近の話しになる。しかし、ボールペンの男の主張はどこか強引だった。
「あ、あ、だから、それはやめてんか! お願いやから、わたしの一人称にしてんか」
「ええ、いいわよ。でも、あたしね、あなたたちを助けてあげたいの。ギリシアに行きたいのでしょう?」
「え、なんやて? あんたが? ほんまに?」
「ええ、船に乗せてあげる。でも、顔がなかったらだめよ。だから、ちょっとあたしにまかせてほしいの」
 そういって女は私のからだにふれた。
「あら、針金みたいに堅くなってるわ。んー、どうしようかしら」
 確かに、私のからだの線はもう何十億年も前に描かれたままだった。

「あ、痛い! そ、そんな無茶な、あ、あ、痛い!!」
 前衛彫刻家だというヨーコが、私のからだをペンチでつまんで針金みたいに捻じ曲げるから、それを見ていた私の子供たちは泣き出した。もちろん、私も泣いたけれど、どことなくアンパンマンに似た私の顔が完成した。それで子供たちが笑い出したから、私も泣きながら笑った。
「おおきに……」
 とりあえずヨーコにお礼をいう。これで船に乗れると思った。
「でも、あなたはほんとうに種族Vなの?」
「うん、そやで」
「じゃあ、あなたが、未来なのね」
「あ、それは……」
 突然、ヨーコがあらすじを変えた。というか、主題に戻ったというべきかもしれない。しかし、残念なことに物語はここで終わる。
 ほな、おおきに。

 翌日、ボールペンの男とその家族は無事にギリシアに旅立ったというが、一人称にこだわった男の存在が証明されたわけではない。やはり、この宇宙に人称なんて存在しないのだ。宇宙にあるのはこの私だけ。
 すべては神である私の奇想天外なのだから。



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このストーリーに関するコメント

15/11/23 泡沫恋歌

たま 様、拝読しました。

なんとも奇想天外なお話ですが、この人称の問題だけは妙にリアルに響いてきました。
一人称か、三人称か、二人称という不確実な人称か!?
いろいろ迷って、たどりつくのは「面白ければ何でもOK」という安易な選択でしょうか。
未だに、三人称に一人称が混じってしまう未熟な私です。

15/11/23 たま

恋歌さま、ありがとうございます♪

明治、大正の頃の小説って、人称問題なんてなかったといいます。
宇宙の始めがそうであったように、作家も読者もおおらかだったのだと思います。
できたら戻りたいですね、その時代に。
そうしておおらかに小説を書きたいというか、そこから新しい小説が生まれるのだと思います。




15/12/16 草愛やし美

たまさま、拝読しました。

内容が高尚すぎて鈍脳で理解度の足らない私は
主観的に考えながら読み終えました。

始まりはどうだったのでしょうね?
文学的に一人称が最初なのかと考えるのが通常?
だけど、それを証明するものは何もない。
二人称、三人称との兼ね合いはどういう行程で始まったのでしょうね。
読み終わって何だかきつねにつままれたまま
そういうことかなあ、面白い考えの作品だなって
感心している私がいました。苦笑
変なコメントですみません。大汗

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