1. トップページ
  2. 太陽の宝

murakamiさん

読んでいただきまして、ありがとうございます。

性別 女性
将来の夢
座右の銘

投稿済みの作品

3

太陽の宝

15/11/16 コンテスト(テーマ):第九十五回 時空モノガタリ文学賞 【 秘宝 】 コメント:6件 murakami 閲覧数:1145

この作品を評価する

 一陣の寒風が鉄柵を突き抜け、砂塵を舞い上げた。
 ポケットに手を忍ばせると、ひんやりとした感触が指先に伝わってくる。国家公安委員会で厳格にその重さとサイズが定められている鋼鉄製の弾――。
 階段を駆け下りてくる足音と怒号が背後から一斉に襲い掛かる。若葉組の奴らだ。

「浜のもんは気性が荒いけぇ、気ぃつけぇ」
 祖父の言葉が脳裏に蘇る。
 女を巡る争い、シマの奪い合い。理性とも知性とも無縁の世界――。
 世間とは隔絶されたその小社会で、俺たちは抗争に明け暮れていた。そう、あの日までは……。
 離婚したお袋を伴い、東京からこの地に舞い戻ってきてから、ちょうど一年が過ぎようとしていた頃のことだった。

「今日こそ、決着をつけちゃるけぇ」
 俺の前に立ちはだかった銀河が、甲高い声をあげた。つりあがった眦に太い眉、坊主頭。年長の俺が見上げるほどの巨漢だ。 
 銀河は冷酷な嗤いを真ん丸に膨らんだ頬に浮かべると、足元に群がる肉食の昆虫たちを容赦なく踏み潰し、蹴散らした。にじり寄り、飛び掛ろうと腕を振り上げる。その一瞬の隙をついて俺は、ジャングルジムへと走った。園庭は、弁当を食べ終えたばかりのケツの青いひよっ子どもで溢れ返っている。
「東京もんには負けんけぇ」
 銀河の声が後ろから迫る。しかし、恐れることはない。肉の塊のような奴にとって、この金属の森は難敵だ。俺はしなやかに鉄パイプの骨組みを潜り抜け、最上段へと登りつめた。素早く靴を脱ぎ、中にたまった砂を上からお見舞いしてやる。
「うわっ、目が……」
 やっとのことで一段目に引っ掛かっていた銀河はバランスを崩し、尻から地上に落下した。
 俺は反対側から飛び降りると、土管砂場へ駆けた。
 パステルブルーのスモックをはためかせ、銀河が追ってくる。ポケットのアップリケはアンパンマンだ。
 土管の裏から足を出し、走ってきた奴を転ばせる。
「いってぇ!」
 銀河はもんどり打って、転んだ。立ち上がると膝小僧から血が出ている。目を剥く銀河。
 反撃だ――。今度は、俺が銀河の胸倉を掴む。銀河も俺の首に手を掛ける。
「二人とも何しようるん! せんせ〜、また、けんかしようるよ〜!」 
 飛んできた妃奈が叫ぶ。俺の組の女だ。
「オンナはだまっとけ!」
 銀河が片手で妃奈を突き飛ばした。
「だいじょうぶか!」
 俺は駆け寄り、華奢な妃奈の体を抱き起こした。薄茶色の絹のような細い髪が、ピンク色の頬にかかる。転園してきた時、真っ先に俺に話しかけてくれた優しい女――。
「くそっ」
 俺は銀河にタックルをかました。そのまま倒れこむ。銀河が俺の下になり、上になって、俺たちは砂場を転げ回った。ギャラリーどもが甲高い声で囃したてる。 
 そのとき、奴の振り上げた拳が俺の口元にヒットした。鉄錆のような血の味が口の中に広がる。俺は渾身の力で銀河の体を払いのけ、立ち上がって、強烈な左フックをその顎に叩き込んだ。
「うぇ〜ん、いたいよ〜」
 銀河が、泣いた。
 若葉組の山根麗子が飛んでくる。
「また、あんたらッ。銀河君も太陽君もいい加減にしんさい。毎日毎日、喧嘩ばっかりしてから」
 俺も銀河も襟首を掴まれ、捕獲された。
 園長室に連行され、俺たちは、そこでこってり絞られた。

 花壇の縁石に一人、腰を掛けている銀河が見えた。
「ようけおる」
 銀河は足元の蟻を見ている。
「アリ、つぶしちゃ……いけんよ」
 あいつらの言葉がふと口をついて出た。
 銀河は驚いたように顔を上げると、俺の額に貼られた絆創膏を見て言った。
「わりかったな。もうちょっとで卒園式なのに、ケガさせてしもうて……。ごめん」
「じいちゃんが、いってた。ケガは男のクンショウだって」
「クンショウってなに?」
「わからん」
 俺はポケットの中からパチンコ玉を取り出した。
「きのう、ひろった。おれの宝物」
「すっげえ」
 銀河は太い指先でそれを摘まんで、高く掲げた。太陽の光を反射して、銀色のクロムがきらりと光った。
「あげる」
「ほんま?」
「うん」
 俺が笑うと、銀河も笑った。
 寒風が、いつの間にか春風に変わっていた。
                  


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

15/11/19 つつい つつ

任侠な園児の世界。おもしろかったです。国家公安委員会が定めるとあるので、おもわず構えて読んでしまいました(笑)

15/11/20 murakami

つつい つつ様

コメントありがとうございます。
ちょっと無理があったかなあ、と不安だったのですが、面白いと言っていただけてほっとしました。

15/12/01 そらの珊瑚

村上さん、拝読しました。

任侠世界の抗争かと思ったら、なんと可愛い♪
広島弁でしょうか? 私はネイティブではないのですが、広島弁のただなかで暮らしているので、とてもリアルでした。
銀色の玉が男の子たちにとって現在の宝物であるように、もしかしたらこの思い出が未来に宝物になるかもしれないなあと思いました。

15/12/01 murakami

そらの珊瑚様

ありがとうございます。
広島弁は、ネィテイブの方にアドバイスを受けました。

面白いお話を書くのなかなか難しいです。

15/12/13 光石七

拝読しました。
任侠の世界かと思いきや、まさかの園児(笑) かなりハードボイルドで早熟な男の子ですね(笑)
学生時代広島に住んでいましたが、ちっちゃい子が自分のことを「ワシ」と言ったのに驚いた記憶があります。
楽しませていただきました。

15/12/14 murakami

光石様

感想いただきありがとうございます。
小さな子の口から出る方言ってかわいいですよね。

ちょっと無理があったかなと思ったのですが、楽しんでいただけたようでよかったです。

ログイン