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つつい つつさん

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寝る女

15/11/15 コンテスト(テーマ):第九十六回 時空モノガタリ文学賞 【 奇人 】 コメント:2件 つつい つつ 閲覧数:876

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 この街に来るのは久しぶりだった。専門学校を卒業して以来二年ぶりか。ぶらぶらと歩くだけで、よく行ったカフェやカラオケがあって、あの頃の思い出が甦り楽しかった。
 向こうから歩いてくる女の人を見て、ぎょっとした。その女の人は、いわゆるゴスロリ、黒を基調にしたクラシカルなロリータファッションを身にまとっていた。ただ、ゴスロリの格好に驚いたわけじゃない。それくらい、しょっちゅうってわけじゃないけど、見かけたことくらいある。驚いたのは、その女の人があまりにも痩せていたからだ。
 レースの手袋や白のタイツ越しでもはっきりわかるくらい細かった。骨の表面を皮で包んだだけなんじゃないかってくらいの手足で、今にも折れそうで、壊れそうだった。メイクも痩せこけた顔にファンデーションを塗りたくられていて、真っ白だった。だけど目元だけはびっくりするくらい長い睫毛が付けられ黒く縁取られていた。異様に光るギロギロした瞳を見ているとガイコツが歩いているようにしか思えなかった。
 その女の人は年齢はいくつで、学生なのか社会人なのか、フリーターなのか、なにをしている人なのか、そもそもまともなのか、本当に生きているのか、全てわからなかった。ただ、肩から掛けているバックだけが、不自然だった。それは別にゴスロリっぽくもなく、かといってブランドものでもなく子供が縁日で買ったような安っぽい真っ赤なビニールのしわくちゃなバックだった。だけど、なぜかそのバックに見覚えがあった。
 カナちゃんのだ……。

 カナちゃんは僕が専門学校に入ってしばらくした頃に出会った女の子だ。確か同じ年くらいで、友達何人かと飲みにいったときに出会った。少しぽちゃっとしていたけど、普通の格好をした可愛らしい女の子だった。
 飲み会でカナちゃんと仲良くしていると、友達が、あの子は誰とでも寝るような女だから、あんまり関わらないほうがいいよって忠告してくれた。だけど、カナちゃんといるのが楽しくて僕はそんなこと全然無視した。そして、友達が言っていたとおりで、その夜誰とでも寝るカナちゃんは、僕と寝た。
 それからも僕はカナちゃんと何回も会って寝た。別に体が目当てなだけってわけじゃなかった。単純にカナちゃんといると楽しかったし、幸せだった。カナちゃんは甘えんぼで、二人でいるといつも僕にくっついてきた。テレビを見ている時もご飯を食べている時も、もちろん、ベットの中でだって、ずっとくっついてきた。僕はそんなに安心して体を預けてくるような人は初めてだったから、とても可愛く思えたし、とても愛おしかった。だから僕はカナちゃんにずっと一緒にいてよって頼んだこともある。だけど、カナちゃんは僕がそういうとすごく嬉しそうに涙目になり僕に抱きついてきてくれるのに変わらずスケジュールは誰かと寝るためにずっと埋まっていた。明日もあさっても、日曜も来週も誰かと寝る予定が入っていて、また会おうって言っても、一週間後とか十日後とかざらにあった。結局、何回も僕だけといてって頼んだけど、喜ぶだけでカナちゃんの誰とでも寝る生活は変わらず、僕らは自然と会わなくなった。カナちゃんと会えなくなったのは寂しかったけど、どこか安心した。もう、カナちゃんが今日誰と会って誰と寝ているんだろうって考えなくてよくなったから。
 カナちゃんと会わなくなって、しばらくすると友達がカナちゃんのことを教えてくれた。カナちゃんは中学の時いじめられていて、学校中から無視されて、それで誰かに誘われるのが嬉しくて、誰かと話せるのが嬉しくて、誰かに必要とされるのが嬉しくて、誰とでも寝る女になったって言ってた。僕は、中学の時のカナちゃんに会って、僕だけが話せるようになれたら良かったのに、なんて考えたけど、実際は、いじめに遭っている女の子に声を掛けるなんてこと僕が出来るわけもなかった。

 僕がおもわずカナちゃんの顔をじっと見つめたら、僕に気づいたようでファンデーションだらけの顔がビキビキッとひびわれた。そして、懐かしそうに微笑んだ。僕はその瞬間全身の血の気が引いて、寒気がして知らないうちに走り出していた。走るなんてもんじゃなかった。怪物にでも襲われているような、包丁を持った頭のおかしい男に追いかけられてるような、怖くて怖くてとにかく必至で逃げた。信号が青だったか赤だったかもわからない。どこをどう走ったのかもわからない。よく人にも車にもぶつからなかったって思う。きづけば今まで来たこともない公園に倒れ込んでいた。手も足もがくがくで心臓もバクバクで、呼吸なんてゼーハーゼーハーで、ろくに息も出来なかった。それでも恐る恐るふりかえると、そこには誰もいなかった。僕はほっとして、大の字に体を投げ出し、呼吸を整えた。
 僕は、もうこの街には近づかないでおこうって、心に誓った。


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このストーリーに関するコメント

15/11/20 murakami

ゴスロリで、がりがりな女の子…。「骨の表面を皮で包んだだけ」という表現がすごいですね。顔がビキビキっと割れてしまうところもまたなんとも…。
怖いお話だけど、面白かったです。


僕の愛情を受け入れられなかったカナちゃんは本当に病んでしまっていたのでしょうね。「奇人」にならざるを得なかった、愛に飢えている女性の哀感が伝わってきました。

15/11/20 つつい つつ

村上 様、感想ありがとうござます。
今回は話を作るというより、感覚で書きました。
カナちゃんは、埋められないものを埋めようとして、どこかまちがってしまったんでしょうね。

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