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鮎風 遊さん

この世で最も面白い物語を見つけ出したい。 そのために、ひとり脳内で化学反応を起こし、投稿させてもらってます。 テーマに沿った個別物語の他に、いくつかのシリーズものをコツコツと書き続けさせてもらってます。 その主なシリーズものを紹介させてもらいます。  ☆❤☆❤☆ 新シリーズ 『ツイスミ不動産』 __ 2017.07.16よりスタートさせてもらいました。 カサリンとクワガタ野郎があなたが求める終の棲家を紹介いたします。  ☆❤☆❤☆ 『刑事 : 百目鬼 学(どうめき がく)』 __ 2017.05.21 ただ今、27話 __ 1話完結の2000文字推理小説です。この少ない文字数の中で、百目鬼刑事と部下の芹凛(せりりん)がいかに事件を解決していくか、その醍醐味を味わって頂ければ、光栄です。 これからも引き続き難しい事件に挑戦して参りますので、よろしくお願いします。  ☆❤☆❤☆ 『漢字一文字の旅』 __2017.04.04 ただ今、連載41__ 漢字にまつわるエッセイです。  ☆❤☆❤☆  『歴詩』 __歴史上の人物になりかわって、その波瀾万丈の生き様の思いを詩に綴らせてもらってます。 本作品については、フォト音(on)小説という形で、you tubeにもUPさせてもらってます。 詳細はこちらHPです。  ☆❤☆❤☆  http://ayukazeyuu.net/index.html  ☆❤☆❤☆                         よろしくお願いします。              

性別 男性
将来の夢 この世で最も面白い物語を見つけ出したい。
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秘宝・意到筆随(いとうひつずい)の壺

15/11/15 コンテスト(テーマ):第九十五回 時空モノガタリ文学賞 【 秘宝 】 コメント:6件 鮎風 遊 閲覧数:1525

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「あ〜あ、まったくダメだ!」
 早起きし、朝日に映える紅葉の中を散策しても、昼に新蕎麦をズルズルッとすすり上げても…。
 夜に四分六のちょっと濃いめの焼酎お湯割りに、南高梅を二つ落として呷ってみても…。
 あとは酔い醒ましにと、四十度の柚子風呂に浸かったとしても、ただただ浮かぶのは黄色い柚子の皮だけ。
「こん畜生、ストーリーなんて、ぜんぜん浮かんでこないや!」
 ふーと大きく溜息を吐いた角蔵、多忙で満身創痍のサラリーマンであっても、己の時間を見付けてはここ五年小説を書いてきた。今はすっかり物書きに嵌まってしまってる。
 なぜ、夢中になってしまったのだろうか?
 理由は自分でもよくわからない。だが執筆中にはすべての雑念が飛んで行き、ドーパミンが脳内に溢れることだけは確か。そのお陰で心地よいハイテンションになれる。
 しかし、ある日突然に、物語が浮かばなくなるのだ。結果、何も書けず、ドーパミンの禁断症状に苛まれる。
 それでも苦し紛れに筋書きを組み立ててみる。だがあちらこちらで辻褄が合わない。遂にその修復に、禁じ手、そう、いくつもの奇跡を起こし、各節を無理矢理繋ぎ合わせてしまう。
 こんな小説、当然面白くもない。最後に悲鳴、「ああ、書けないんだよ!」と涙が滲む。
 事ほど左様な病、それは明らかに――『書けない病』だ。
 まさに唐突な患い。そのせいで執筆ドーパミンの放出は断たれ、この禁断症状によって酷い自己嫌悪に陥るのが一般的だ。
 まことに悲運だが、もう手の施しようがない。ただただ治癒して行くのを待つしかないっていう所だろうか。
 されどもこの男の場合、角蔵と名乗るだけあってか、こんな事態に突入しても、「絶対に書くぞー!」とネタ探しのためネット内を彷徨う。言ってみれば、ドーパミン欲しさだけのやる気。どこぞが壊れてしまっているのかも知れない。
 しかし、この変人以上に、この世はもっと珍奇だ。神はこの男のために、秘宝・心願成就の壺なるものを検索ヒットさせてやるのだから。これって神様の意地悪、それとも救いの手? まあ、曖昧なところだが。
 いずれにしても画面には、――何でも叶う心願成就の壺、多種有り。一欲貫徹山に登り来たらば、進ぜよう!――とある。
 ただ今の角蔵は、書きたい、しかし書けない、いや書かなければならない、というような心持ち。
 執筆ドーパミン依存症から生じるこんな強迫観念により、何はともあれ飛びついた。そして早速会社に休暇届を出し、一欲貫徹山へと向かったのだった。

 角蔵が這い登ってきた山中に登り窯がある。一本の白煙が立ち昇ってるが、それはすぐに辺りを包む霞みへと同化して行く。当然太陽光は届かず、薄暗い。角蔵は不気味で少しビビったが、朽ち掛けた陶芸工房の門を叩いた。すると長い白髭に杖をついた山爺と、やけに皺の多い山姥が現れ出て来た。
 角蔵の背筋に冷たいものが走る。だが踏ん張って自己紹介を終える。これに二頭の妖怪、いや山爺と山姥がニニと笑い、「人は金銭欲、性欲、食欲、睡眠欲、名誉欲の五欲に翻弄されながら生きている。手前どもはその苦しみからの解放、と言えば烏滸がましいが、もっと具体的に、一つだけだが、その強欲を実現させてやろうと…。それは心願成就の壺、身辺に置けば必ずその欲は叶う。さっ、ここに目録がある。お前はどの欲壺が欲しいのだ?」と紙を渡された。そこには以下の秘宝の壺が紹介されてあった。
 一攫千金の壺…宝くじに当たりたいと祈る者向け
 物見遊山の壺…死ぬまでに世界一周したいと思う輩向き
 容顔美麗の壺…美人になりたいと必死な娘さん向き
 美酒佳肴の壺…グルメ通向け、など

 角蔵は目を通したが、自分の願いはこの一覧にない。「私は小説を書きたい、そんな他愛もない欲望の成就ですが」と要望すると、山爺は「それは珍しい欲だが、ならば、心のままにスイスイと筆が進む『秘宝・意到筆随(いとうひつずい)の壺』、これは如何かな?」と古びた壺を角蔵に差し出してきた。
 角蔵は藁にもすがる思いで、一欲貫徹山に登ってきた。何が何でも書けない病から決別したい。あとは山姥に「ボーヤ、筋書きバッチシ、文章スラスラよ」と後押しされ、大枚三万円で売買成立となった次第である。

 意到筆随の壺、今デスク上に鎮座する。角蔵はこれを前にして、先日の体験をネタにして、秘宝・意到筆随の壺という物語を書き終えた。そして読み直す。
 うーん、どことなく書けない病からは抜け出せたような気がする。が、意到筆随とは言い難しだ。果たして三万円の壺のご利益はあったのだろうか? と首を傾げる。
 その時だった、角蔵の目の前にピカッと閃光が走る。なぜなら、ハタと気付いてしまったからだ。
 そう、山爺と山姥が焼く壺は連中だけのための、ひょっとして…秘宝『思う壺』だったのでは、と。


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このストーリーに関するコメント

15/11/17 草愛やし美

凄い秘宝ですね、鮎風遊さま、拝読しました。

その秘宝の壺わたしめも欲しいと読み進みました。ああ、諭吉さま3枚だなんて安いでしょう〜ご利益があったと思いましょうよ、安いわよ。最後でこの秘宝の名前を知っては笑うしかないですか。ヽ(;´Д`)ノあちゃ〜面白かったです。

15/11/23 泡沫恋歌

鮎風 遊 様、拝読しました。

「書けない病」になったら、たとえ『思う壺』でも欲しい壺ですね。
藁にもすがるというグッズも付けて欲しいわ。

創作者として感情移入できるお話でした。面白かった♪

15/11/29 鮎風 遊

草藍やし美さん

コメントありがとうございます。

3万円だったら、買いですよね。
ホント、欲しいです。

15/11/29 鮎風 遊

泡沫恋歌さん

コメントありがとうございます。
心の底からの叫びです。
こんな壺、欲しいです。
たとえ思う壺であってもね。

15/12/01 そらの珊瑚

鮎風 遊さん、拝読しました。

三万円でそんな壺が手に入るならお安いと思っていたら…そういうオチでしたか。
苦労しながらでも、自分の力で書くしかないってことですね!

15/12/13 光石七

拝読しました。
本当にスイスイ書ける秘宝の壺があるなら、私も欲しいですね。
読みながら三万円という額に怪しいと思ったけれど、『思う壺』に嵌まってしまった主人公を他人事とも思えなくて……
面白かったです。

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