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守谷一郎さん

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機械仕掛けのヒトたち

15/11/14 コンテスト(テーマ):第九十六回 時空モノガタリ文学賞 【 奇人 】 コメント:6件 守谷一郎 閲覧数:1056

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 犬型ロボットや昆虫ロボットは元より、人間そっくりのヒューマノイドが一般的に受け入れられ、流通される時代が来た。
 彼らが一度街を闊歩し始めると、人間であるかどうかの区別はつかない。道行く人が人かどうか。あまりにもヒューマノイドが一般的なりすぎたので、いちいち通り過ぎるソレらに対して、そんなことにも悩まなくなった時代。
 かつて「不気味の谷」と呼ばれる現象があった。あまりに人間に近づきすぎたロボットに、人は好意より先に嫌悪感を抱くという。たとえ精巧にできていても、どこか人とは決定的に違う。人に近くなればこそ、その異質は際立つ。そこに違和感を持つ。
 人間とは随分勝手なものだ。だが、これは本能からくる正常な拒絶反応であるから仕方ない。ロボットはロボット、人間は人間。明確な線引きがされ、本来ならそこで終わるはずだった。
 しかし、1人の開発者の述べた何気ない言葉が波紋を呼ぶ。
「人間に近づいたロボットがダメなら、完璧な人間を作れば良いのに。」
 血液はオイルで、筋肉は鋼、心臓はモーターで。実際はもちろんそんなに単純なものではないが、「人よりも人間らしく」という触れ込みでヒューマノイドはお披露目された。
 開発者たちの間では、すでに製造技術は当然のものとして隠してあったらしい。一度その存在が公表されるとすぐに、同業他社たちも我こそは市場を牛耳ろうと競った。倫理観やら法律やらの壁はダムが決壊するかのごとく破壊された。
 ヒューマノイドたちは「不気味の谷」をえいや、と飛び越え、いともたやすくこちら側へやってきた。
 規制派は、人ならざるを持って人足らんとする輩、とヒューマノイドたちを嫌悪する。規制派たちは彼らのことを揶揄してこう呼ぶ。奇しくも人として扱われる存在、「奇人」と。
 
 私の中にはそこまでの経緯がすべてインプットされている。
 そして今日も反対を尻目にして「奇人」の実験は続く。日進月歩、幼子のように、科学は成長する。
 とあるマンションの一室で、それは執り行われる。見える範囲にはないが至る所に観察用のカメラがついているはずだ。
 扉が開かれ、スーツにトレンチコートを羽織った男が入ってくる。
「やあ、キミが今回の被験者ですか。」
 男は柔和な微笑みを携えながら、椅子に座る私の前に立ち、握手を求めてくる。
 近づいたソレの顔をよく見ると笑顔が作り物めいていてぎこちない。男は単に愛想笑いが下手な人間かもしれないし、できそこないのヒューマノイドかもしれない。こちらにはその判断がつかない。
「あなたは?」私は握手を交わさず、ソレの観察を続ける。男は差し出した手を引っ込めても常に一定の笑顔を保った。
「私は試験官ですよ、キミとこれから仮の夫婦になるね。」困ったように眉をひそめて男は言う。「しかし、何度見ても人間と区別がつかないよ。」
 男はコホンと息をつくと、すでに私に知れている実験の概要を改めて説明した。
 この実験室は「奇人」を世に送り出すため、日常生活を人間と一緒に過ごして問題ないかテストするものだという。
 私はそこそこに人間らしく警戒して、人間らしく親しみを覚え、人間らしく涙の別れを済ませればいい。それで晴れて自由の身となる。私はそのために頭をスッと下げて言う。
「よろしくお願いします。」

 実験が感慨もなく始まったように、男との共同生活は特筆するべきことなどなかった。
 日々の暮らしの中、黙々と夫婦を演じる。料理や洗濯の家事は私の役目だ。実際にやるのは初めてだが、データとしてそれらはメモリに入力されている。何の問題もない。
 それは夜の営みであっても同じことだ。
 私は初めのうちは恥らい、次第に愛情が芽生えてきたかのように振舞った。機嫌を損ねてスクラップにされてもたまらない。
 男はヒューマノイドの演技に簡単に騙された。営みを重ねて幾日か立ったある日、研究室から帰った男は上から何か言われたらしい。
「今度デートをしにいこう。試験完了のための手続きだよ。」
悲しそうに男は笑う。男はいつの間にか私を一人の女性としてみるようになっていた。

 手を引かれ、街へ連れ出される。「いつかのための予行練習だね」と男は笑う。
 そうして、服を見て、パフェを食べさせ合い、部屋に飾るインテリアを選ぶ。私は人の世界にじわりと交わっていく感触を覚える。
 しかし、すれ違う人たちを見ていてふと思う。私たちのような仮初の存在がこの中にどれだけいるのかと。そう思うと、私には道行く人たちがみな人の皮を被ったロボットに見えてきた。人の方が稀有な存在になりつつあるのではないかと。
 血と肉でできた奇妙な体を持つ彼ら。もはや彼らの方が「奇人」と呼ばれるべきなのではないか。
 そう疑うと、こうして手を握り、隣を歩く男の温もりも私には人工物のように感じられた。


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このストーリーに関するコメント

15/11/14 守谷一郎

篠川晶さま。お読みくださりありがとうございます。誉めていただいたそのワンアイディアで出来上がったようなお話なので、コメントを見て嬉しく思います。

15/11/16 クナリ

哲学の授業で人間機械論(人間もよくできた機械じゃないの、みたいな話…だったような)を学んで以来、人間とそうでないものの社会をテーマにした作品はそれぞれの切り口を興味深く見ていますが、本作はその中でも面白い作品でした。
設定部分や説明に文字数を割かず、後半部分では丁寧に主人公(?)のストーリーが描写されていたのが良かったです。

15/11/18 守谷一郎

クナリさま。お読み頂きありがとうございます。人間機械論......ラ・メトリーですね、懐かしいです。いえ、コメント見て初めて知りましたが。「奇人」のテーマをズらした少しずるい投稿話でしたが、少しでも何か打つものがあったなら喜ばしい限りです。人間機械論、楽しそうなので勉強しておきます。

15/12/17 光石七

拝読しました。
深い内容ですね。
血肉はもちろん、人間ならではの不完全さや温もりさえも人工的に作れるとしたら、一体何をもって人間とされるのか……
面白かったです。

15/12/19 守谷一郎

光石七さま。こうしてあなたさまとコメント越しにやり取りする私も、実はヒューマノイドだと言ったら信じてもらえるでしょうか。まあたとえロボットでもこの感謝の気持ちは本物です。お読みいただきありがとうございました。

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