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佐々木嘘さん

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脳内玲奈

15/11/12 コンテスト(テーマ):第九十六回 時空モノガタリ文学賞 【 奇人 】 コメント:0件 佐々木嘘 閲覧数:847

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私の脳内には玲奈が居る。
彼女は非常に正義感が強く泣いてばかりの私をいつも励まし慰めてくれた。

解離性同一性障害、というらしい。虐待を受けている本体、つまり私、玲乃が無意識に作り上げた別人格。けれど普通の多重人格とは違い玲奈は本体の人格を乗っ取る事が出来なかった。常に脳内に存在し脳内で本体と一緒に成長し続けるている。出来損ないの私は人格さえ上手に作れなかったようだ。

「…痛い…痛いよ…」
-大丈夫?
「大丈夫じゃない…もう、嫌だ…」
-そうだね、嫌だね。でもね私はずっと玲乃の味方だよ。

12歳のこの身体には無数の痣と煙草の焼跡がある。全て能無しの癖にプライドだけは高い実の父親から受けた跡だ。まともに食事も衣類も与えられない小汚い私は何処へ行ってもいつも一人だった。孤独だった。自分が情けなかった。けれどそんな私に玲奈は突然脳内の現れたんだ。玲乃、はじめまして、私は玲奈だよ、と。
寂しい時、痛い時、彼女はいつも脳内で私を励ましてくれてた、優しい言葉を与えてくれた。彼女の存在だけが私の唯一の支えだったんだ。

「玲奈が居るから生きていけるよ。ありがとう」


ある晩、私は泥酔状態の父親からバットで顔面を殴られた。今まで服で隠れた部分だけ執拗に殴っていたこの男が剥き出しの顔面を殴るなど初めてだ。いつもとは違う恐怖、が体全体を支配する。怖い、怖い!涙が溢れた。そしてその涙が気に食わないらしく腹部を力一杯蹴り飛ばされた。思わずげぇっと嘔吐してしまう。後頭部を踏みつけられ、汚ねぇガキだな、と何度も大人の力で足蹴にされた。その汚いガキを作ったのは紛れもないお前なのに私は怖くて逆らう事なんて出来やしない。
なんて無力なんだろう。悔しい、悔しいよ。

-ねぇ、消してあげようか?アレ。

その時突然冷たい声が脳内に響いた。玲奈だ。驚いた、今まで虐待の最中に声を掛けてくるなど一度もなかったのに。けれどその時の私は既に意識が朦朧としていて、でも何かに縋らなければこのまま死んでしまうと思った。本当に生きるのに必死だった私は、その玲奈の言葉を間に受けてしまう。

「で…出来るの!?」
-うん…
「…お願い玲奈…私、もう嫌だ!もう嫌だよ!」
-出来るよ。すぐに消してあげるから。ね?」
「え、…でも玲奈がどうやって?」
-何言ってるの?するのは私じゃなくて………玲乃、貴方じゃない?

「……え?」

すると蹲っていた私の身体が突然動いた。

「気持ち悪ぃ何一人でブツブツ言ってんだよ!」

そう吐き捨てる男の足を跳ね除けると、なんとも都合良くすぐ側に落ちていた包丁を握り締めた。するとどうだろうか。いつの間にか私の意思とは関係無く、私の右手はその包丁で男の腹部を一刺ししていたのだ。

生々しい肉の感触、血の温度、父親の息遣い。
を。
感じる、と。
私は誰かに両目を塞がれたように視界が真っ暗になり、そのまま意識を失った。

「……え?」


目が覚めると私は警察署に居た。全くもって状況が理解出来ていないのに目の前の女はキツイ香水を纏いながら訳のわからない質問を何個も押し付ける。私は、はい。とか、いいえ。とか、わかりません、とかポツポツと口にした。

「本庄玲乃さん。父親を刺した事実を認めますか?」
「…さ、刺したのは…私の体か、もしれませんが、…実行したのは、玲奈です」
「玲奈?それは誰ですか?」
「わ!私の脳内にある人格です!そうだ…そうだ玲奈が!玲奈が消してあげるって言ったから」
「脳内の人格?でもそれも貴方自身でしょ?」
「違います!玲奈は私じゃない!」
「…情緒不安定なのかしら…それか下手な演技?」
「違う!…あ、玲奈!返事しなさい!貴方でしょ?私の身体を使って刺したのは!」

玲奈!玲奈!
何度も声に出して脳内に呼びかける。けれど一度も返答は無かった。気が付くと私の脳内には何もなくただの真っ黒になっていた。

「…一度精神科に行きましょ。貴方虐待を受けて心が少しおかしくなってるのよ」
「違う!違う違う違う違う!私は正常だ!玲奈!玲奈!出てきなさい!」

頭を強く抱え込みながら名前を呼ぶ。すると何人かの大人が部屋に入ってき来て、暴れる両手を拘束されながら私は柵が設置された病院へ連れて行かれてしまった。そこは真っ白な病院だった。清潔な部屋。安全な部屋。でも私は空っぽだった。

「…玲、奈?」

やっぱり返事は無い。
ふと視線を感じ真横を見ると壁に鏡が掛けられていて自分の酷い顔面が映っていた。玲奈。もう一度彼女の名前を呼ぶ。でもその鏡には当たり前だけれど独り言を呟く私の顔しか写りはしなかった。
何て馬鹿馬鹿しいんだろう。最初から私の味方なんて誰も居なかったんだ。最初からずっと一人だったんだ。


傍から見れば全て私の一人芝居だったんだね、玲奈。


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