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seikaさん

かつては女子中学生でした。

性別 女性
将来の夢 生まれ変わること
座右の銘 朝、一杯のコーヒー

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私の魔女修行

15/11/09 コンテスト(テーマ):第六十八回 【 自由投稿スペース 】 コメント:0件 seika 閲覧数:1080

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下北沢の魔女「マコ姉さん」とわたしの物語

 

クラシック以外の音楽は一切ダメ、テレビ番組も許可されたもの以外はダメ、普通の世間話もダメ、友達も勝手に作ってはダメ・・・そんなまるで薄暗い地下の牢屋みたいな家で人生初期を過ごした。居間思い出しても何とひどい環境だったよく我慢できたものだなぁ・・・と思うけど、あの頃その薄暗い牢屋の中で私はいつかこの牢屋みたいな家を出て旅に出ることを夢見ていた。そしてその頃私はいつかこのつまらない家を出て旅することを夢見ていた。いつのまにかわたしの心の中には旅するお姉さんが現れた。
「私はいつか旅に出よう。」
家の人みんなが寝静まっている早朝、私は一人で起きて、そして洗いざらしのジーンズを穿いてシャツを上着代わりに羽織って、長い髪をなびかせてそして身の回りの物を入れたリュックを入れて家を出る・・・。朝日に照らされた町は普段見る町とはぜんぜん違う顔をしている。新聞屋さん、牛乳屋さんなんかが明るく町を走り回り、プラタナスが朝日に照らされてきらきら輝く中、私は駅に向かった。駅に着くともう列車はホームに入線していた。
「おはよう。」
小さな子供連れの一家や優しそうな初老の夫婦などがもう座席に座っていて私に明るく挨拶する。私も笑顔で挨拶して、席に座る。やがてそして列車は走り出す・・・。
あの本棚に囲まれた牢屋のような家の中で、隣の家との間にあるブロック塀を見ながら私はそんなことを夢見ていた。で、列車は走り出してどこに行くの?て聞かれそうだけど、それはもっと後になってから話ますね。

わたしが東京に出てきた理由・・・というのはだいたいそんなところだった。とにかくあの家はあのドイツ文学者がしかめっ面で威張っていてつまらない。だから居たくなかった。
でも東京に出てきたからといっても私にはどこか行く宛てなんかなかった。それにどう生きていったらいいのかもわからないし何を求めているのかだってわからなかった。杉並の阿佐ヶ谷に借りたアパートに一人で居たって心は灰色でむなしいばかりだ。だから何かを求めてアパートを出た。そして下北沢という町に来た。


魔女との出会い

昼下がりの下北沢できらきらと輝いて見えるお店が目に入った。分厚い木の板にThree allowsとペンキで書かれた建て看板、つる草模様の刺繍の入ったダンガリーシャツとフレアに広がった裾にピンクのデイジーが裾に刺繍されたジーパンを身にまとったマネキン、ガラスの水差しに入れられた麦の穂・・・なにかきらきらと輝いていた。そして迷わずこのお店に入った。
店内に入ると何かすがすがしい香りとともにみずみずしい空気がわたしを包んだ。色とりどりの刺繍糸で星座や花や「Sweet Heart」などの文字が刺繍されたりレースが縫い付けているジーパンやブラウスたちがきらきらと何か物言うように輝いていた。その下にはシーグラス編込みのサンダル、そして奥に入るとデニム生地にレースが縫い付けられたバックがアンティークなシンガーのミシンの横で佇んでいる・・・とにかくそこはなにもかも新鮮で趣があってそれでいてどこか懐かしい空間が広がっていた。 

「いらっしゃいませ。」
その声に振り向くと、そこには長い髪をジージャンの胸ポケットに流したお姉さんが座ってこっちを見ていた。
「なんてジージャンが似合うんだろう・・・。」
そう思った。大きな目と小さな口、スーッと鼻筋を通った端正な顔立ち…彼女はその大きな目は何かうれしそうにきらきらと輝いていた。彼女はあの彩子さん、そしてあの夢に出てくるたびに出るお姉さんそのものだった。私はようやくあのお姉さんに出会うことが出来たのだ…。今までずっと合いたかった人にやっと会えた、私はそんな気持ちがしてとてもうれしく心が輝いた。

気がつくと私は彼女がレジスターの横に置いてくれた古い丸椅子に腰掛けていた。
「ミルクティでいいでしょ。今入れてくるからっ。」
彼女は目をきらきらと輝かせてミシンの手を止め椅子から立ち上がった。長い髪が細身でスタイルが良い身体に流れ、何か新鮮なオーラを放っていた。あの広がった裾に花が一面に刺繍されたジーンズと革のサンダルがとても似合っていた。長い髪を靡かせて奥に入っていった彼女は間もなくミルクティを満たしたロイヤルブルーのマグカップを二つ持ってきた。
「…あたし、このミルクだけで茶葉を煮出したミルクティを一日何杯も飲むのよ。胃が小さくて一度に少ししか食べられないからこれも食事代わりなの。…これはセイロンウバっていう茶葉で、ミルクティにとってもよく合う茶葉なの。でお砂糖はキビ砂糖よっ。」
そういう彼女の目も言葉もきらきらと楽しそうに輝いていた。
 

「ねぇ、うちに来なよ。」
 その晩、彼女はこの古着屋Three Allowsの二階の彼女の部屋に通してくれた。店の外にある階段を登り、花がトールペイントされたネームプレートがかかったドアを開けた。後元にはたくさんの麦の穂を入れた大きな傘立てがあった。
「どうぞっ。ささっ入ってっ。」
彼女はそういって明かりをつけた。すると下駄箱代わりのカラーボックスにかけられた花柄のクロスやその上におかれた貝殻の入ったガラスのボールだとかボードにかけられたフライパンやフライ返しなどの調理器具なんかが電灯の光の下できらきらと何か初々しく輝いていた。さらに星空と星座がプリントされた紺のカーテンを潜って部屋に入るとやはり壁一面に水色ののカーデンがかけられている。このカーテンにはピンクの花がプリントされていた。床にはコットンのラグが敷かれアンティーク調のテーブルと椅子が置いてあった。さらに彼女が乗るためなのか魔法使いが乗るような大きな緑色のほうきが天井からつるされ飾ってあった。何もかも新鮮に初々しく輝き、まさしくここが青春の聖地、そして旅に出る魔女の部屋だった。
「やっとここまで来たんだなぁ…。」
彼女の部屋で、何もかもが初々しくきらきらと輝く部屋の中のオーラを見てそう実感した。しかし青春って一体なんだろう・・・。とにかく私は青春の青く輝く風の真っ只中にいる、そして旅立とうとしている・・・そんな気持ちになった。
 
  その彼女が下北沢の古着屋の店長、マコ姉さんだ。今思えばマコ姉さんはあの時公園に迷い込んでしまい泣いている仔猫のようなわたしを拾って受けいれてくれた人…だったのかもしれない。そしてこの古着屋の二階で自由気ままなだけど孤独な一人暮らししていたマコ姉さんの日々の中にわたしという仔猫が迷い込んできた…のかもしれない。
 マコ姉さんの店は毎週木曜日が休みだ。だから私はその前日の水曜日になると私は何かうれしくなった。マコ姉さんのところに向かうために新宿駅の小田急線のホームにいくと、夕暮れ時の小田急線ホームはわたしには何か故郷への列車が出る駅のように感じられた。マコ姉さんはわたしにとって故郷だったのだ。
「こんばんわっ。」
とマコ姉さんの部屋を訪れる。訪れるというより『帰ってきたっ。』という感じ・・・だった。だって日によってはマコ姉さんはあのレースが縫い付けてあるブラウスと星空が刺繍してあるジーパンなんていう格好でわたしに
「お帰りっ。」
って笑いながら迎え入れてくれることだってあった。わたしにそういってくれる人がいるってうれしかった。
 次の朝目覚めとマコ姉さんはパジャマ代わりのピンク色のTシャツ紺の短パンのままでたたみ一畳ほどの小さなベランダに出ていた。長い髪は後ろで束ねられ、日差しを受けてつややかに撫ぜ肩に流れていた。そしてベランダに並んだプランターの草花を手入れをしていた。
「これがタイム、そしてこれがバジル、そしてこれがレモングラスでそしてこれがスパゲッティを作るデュラムという小麦…。」
わたしがベランダに来たことに気付いた彼女は眼を輝かせて自分の育ててているハーブたちを紹介していた。
「こういうの今はハーブっていうけど、ちょっと前までは香草っていっていたんだよね。」
「こっちはリビングストンデイジー、そしてこっちはラベンダー、そしてこっちはわたしが種をまいて育てたマンゴーとアボガドの木。」
日差しを受けてエメラルドのようにきらめくグリーンたちを一生懸命わたしに紹介する様子はとても楽しそうだった。
「ねぇこれ、やっと手に入れたの。オーディコロンミントっていうのよ。ほら、いい香りでしょう。」
そういってその赤銅色の葉っぱを一枚とって、そして私の鼻の前に持ってきてくれた。スーッとあのオーディコロンみたいなどこかで嗅いだあのオーディコロンみたいなの香りがした。
「これはとってもよく育つの。だから刈り取ってお部屋の中に吊るしておくのよ。」
とにこりと笑っていう。
そう、スリーアロウズの入ったときにしたあの香りはこのオーディコロンミントの香りだった。
 そして彼女はTシャツ短パンの上にピンクの格子縞のエプロンをして、そしてキッチンに立った。
「今、パスタ作るね。よかったらテーブルの上の紅茶、飲んでいてっ。それともこっちで一緒に作る?」
「うん。」
私はそう返事をしてキッチンに行った。今思えば狭いキッチンに二人立つのはマコ姉さんにも迷惑だったかもしれないけど・・・。
彼女はミルクパンに小麦粉とサラダオイルを入れ炒め始め、そこに少しづつ牛乳を注いでさらにチーズを加えて即席のホワイトソースをこしらえた。それが終るとフライパンにサラダオイルを敷き、冷蔵庫の中のマイタケをこんがり狐色になるまで炒めた。一方で電気ポットの中にレトルトのポロニアソースを入れ、さらにポットの湯をなべに移し変え、手際よくパスタを沸騰したなべに投入した。そしてざるに開けて大きなパスタ皿の盛り付けた。そこにポロニアソースとホワイトソースをかけ、レンジでチンしてさっきベランダで採ったイタリアンパセリの葉が乗っけた。このパスタ皿、植物図鑑のようなハーブの絵が描かれている。パスタの上には
「ここにはデュラムセモリナってパスタ作る粉、安く売っているお店があるのよ、私は一度にたくさんこねて冷蔵庫のしまっておくの。ねぇ食べてっ。」
彼女はわたしに優しくそしてうれしそうに言った。彼女はするするするとフォークにパスタを器用に巻き付けていた。意外にも狐色にロースとされたマイタケが香ばしい。
「このマイタケ、何かおいしいね。」
わたしがそういうと彼女はうれしそうに
「そうよ、キノコはじっくりと狐色になるまで炒めるとおいしいの。マッシュルームもエノキダケもそうよ。」
という。
「本当なのっ。」
マイタケにそんな風味が眠っていたとは・・・。エプロンも彼女が作ったのだろう。胸元の赤いリボンが愛らしい。
「あれほど欲しかった友達がわたしにも屋って出来たんだね・・・。」
心の中で私はそう思った。そして何かうれしくなった。

にしてもわたしたちは旅人だった。マコ姉さんはわたしの旅の先輩だった。そしてわたしはマコ姉さんと旅に出た。旅に出る目的・・・それは何か新しいもの、素敵なもの。珍しいものを探すことだった。でもそれ以上に本当は自分は何かを求めているのか・・・というものを探すことだった。
 マコ姉さんのお店が休みの日、わたしとマコ姉さんは下北沢の町を歩き回ったり電車に乗って吉祥寺まで行ったりしてそして何かを探した。おいしいカレー屋さんとケーキ屋さん、ポルチーニというヨーロッパの珍しいキノコを売っている食材屋さん、天板がタイル張りの素敵なテーブルなんかがあっているお店・・・マコ姉さんの部屋はそういうマコ姉さんが買ってきた素敵なものでいっぱいだった。でもマコ姉さん、ある夢があった。それはわたしと同じ夢・・・一人であちこちの外国を廻ってくるっていう夢だった。
 わたしがマコ姉さんと出会って間もなくからマコ姉さんは私にその夢の話をしてくれた。マコ姉さんのお店が終わり、表に出していた看板やマネキンをしまい、そして店に鍵をかけてそして下北沢の町を歩く。路地に入ったところにマコ姉さんが見つけて何か素敵な店があった。その店でスパゲッティを食べてコーヒーを飲みながら、旅の話をした。
「大きなカバンを持って、そしてあちこちの国、旅したいなぁ・・・。」
「ねぇ、ヨーロッパの宿って日本のホテルや旅館と違って屋根裏部屋に泊めてくれるんでしょ。値段もずっと安くて・・・。」
石造りの町、教会の尖塔から聞こえてくる鐘の音、こじんまりして宿屋の屋根裏部屋・・・
下北沢の路地裏の何か素敵なお店で、私はマコ姉さんはそんな旅の話をしていた。

わたしがマコ姉さんとであった夏の夜、下北沢から井の頭線に乗って、そして静かな町にやってきた。夜空を壮麗に横切る銀河と夏の星座が見えた。マコ姉さんはジーンズのショートパンツにペパーミントグリーンのアロハシャツ、そして空を見上げてこんなことをつぶやいた。
「ねえ、私たちってどこから来たんだろうね・・・。銀河の彼方から来たのかな・・・。」
何だか私は小さな子供の頃に戻ったように気がした。まだわたしたちが一家が官舎アパートにいたとき、そしてコチラ川町の家に来て間もなくの頃みたいな、そんな気持ちに・・・。
マコ姉さんもわたしと同じように子供の頃にかえったみたい。
「あたしの小学校にね、大きな銀杏の木があってね。夏になると銀杏の木の上に天の川がみえたの。あの頃は蛍、いっぱい飛んでいたんだけど・・・。」
「なんか冷たいもの、食べたくなった。」
「うん、おいしいかき氷屋さん、あるの。宇治金時、好き?」
「ミルクかかっているの?」
「うん、行こう。」
「子供の頃って夏休み、すごく楽しみだったよね。」
「うん、指折り数えて待っていた。でも終るのがいやだった。」
この頃からわたしたちはきっと自分たちが星空からやってきたんじゃないのかな・・・なんて話をしていた。星空からやってきたっていう事は神様のところからやってきたっていうことなのかもしれないけど・・・。
 ほんとうにマコ姉さんとは気があった。なんかマコ姉さんと居ると、懐かしいようなそんな気持ちになった。
「いつまでも夏が続くといいな・・・。」
「あたし、小さな頃、南の国にすごく憧れていたの。椰子の木やバナナの木なんかに・・・。」
「バナナの鉢植えなんかあったら、素敵だね。」
「バナナを成らせるの?」
「それは無理でも、でもあの葉っぱが素敵だね。」
夏がいつまでも続くといいなぁ・・・。古着屋ThreeAllows二階のマコ姉さんの部屋、明かりを消してカーテンを閉めて床に入ってマコ姉さんといろいろ話をする。子供の頃の思い出がほとんど、あとはどこか旅に出る話。
「ヨーロッパに行くの?」
「どこか南国にも行きたい。バナナや椰子の木が生えているそんなところ。」
「でも最後はヨーロッパに行ってみたい。石畳の道だとか教会の尖塔とか・・・。」
「うん、屋根裏部屋にも泊まってみたい。」
 マコ姉さんと迎えた夏はこうして終わった。

 

 


 


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