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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
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聖なる泉

15/11/07 コンテスト(テーマ):第九十五回 時空モノガタリ文学賞 【 秘宝 】 コメント:2件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:1821

時空モノガタリからの選評

「聖なる泉」と、欲望の象徴である「秘宝」とが、すぐそばにあるという設定が面白いと思いました。人間の心の中には、こんな風に欲と聖なるものとが、すぐそばに備わっていて、「秘宝」と「聖なる泉」、どちらを選ぶ選択肢も持っているのかもしれないな、と思いました。「秘宝」を選べば、一時は幸せになるでしょうが、きっとまた次の「秘宝」を追い求めずにはいられず、終わりのない探求の旅が続くことでしょう。それもまた人生かもしれませんが、砂漠という乾いた大地で価値があるのは、泉のほうでしょう。欲がなくなれば、苦しむこともなく、永遠の幸せが手に入るかもしれません。人間にとって本当に価値のあるものはどちらなのか、考えさせられる作品でした。

時空モノガタリK

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砂漠は、今日も砂漠だった。
当たり前といえば当たり前だが、実際毎日砂漠ばかりみていると、そんな金太郎あめ的心境におちいるのも無理はなかった。
俺の雇い主のクーカも、最初は砂漠の中に眠る秘宝を求めにいくぞとえらい意気込みようだったが、出発してからすでに一週間がたとうとしているいまは、いささか砂アレルギーに罹っているんじゃないだろうか。
その財宝というのがいったいなんぼのものなのか、それは発見してみないことにはわからないが、彼がこの探検に投じた費用だけみても相当な額におよぶことから、金銀ダイヤがザックザクという話もあながち夢ばかりとも思えなかった。
クーカがその秘宝のことをしったきっかけは、ある日ふいにまいこんだ叔父からの一通の手紙だった。叔父というのは、世界を股にかけて金銀財宝を探して歩く、いわゆるトレージャーハンターで、サハラ砂漠の奥に眠る秘宝を探し当てたという内容の手紙がクーカのところに送られてきた。世間からは変人扱いされていた叔父が、親族の中で一番仲のよかったクーカ一人に、宝のありかを描いた地図を送ってきた。そう思いこんだクーカ―は、さっそく家土地を売り払って探検に必要な資材を買い求めた。案内人の俺に払う報酬だって安くはなかった。
砂漠は決して死の世界なんかじゃない。サソリはもとより、蛇や蜘蛛、トカゲと言った猛毒をもつ生き物もいれば、砂漠を根城にする獰猛な部族や盗賊のたぐいも少なくない。これまで多くのトレージャーハンターが砂漠で命をおとした例は数知れない。
「その宝ってのは、『聖なる泉』のそばにあるらしいんだ」
荷物をのせたラバを連れ歩きながらクーカが、こちら側でやはりラバをひっぱっている俺に話しかけてきた。
「どうせ、大地の下深くか、コウモリのとびかう廃墟の、ややこしい迷路の隅っこにでも埋蔵されていたんだろうな」
「いや。叔父貴がくれた手紙には、すぐわかるところにあったそうだ」
「まさか。盗賊が跳梁するこの砂漠に、そんな簡単なとろにあったら、ひとたまりもないぜ」
「私もそう思うんだが、手紙にはそう書いてある」
「ところで、叔父さんはその宝を手にすることができたのかい」
「手にしたようなんだが、その後のことがなぜかよくわからない」
「どういうことだ」
「この手紙には、宝を発見するまでのことは仔細に記されているんだ。おそらくその時点で書いて、誰かに手紙を届けるように託したんだろうな。しかしその後のことは、まったく音信不通だ」
「それは不吉な兆しだな。あんたには気の毒だが、宝物を前にして叔父さんと他の連中との間で、いざこざがおこったとしか思えない」
「………手紙の文末に、これから聖なる泉で喉をうるおすと書いてあった」
俺はもう何もいわなかった。目指す場所は、明日には到着予定だ。おれはクーカに、銃の手入れをよくしておくように注意をうながした。
翌朝、早くに起き出した二人は、ラバのつんだ樽の水が底をつきかけているのを確認した。途中、あるはずの川がひからびていていたのには二人とも心底驚いた。それからは二人の飲み水は半分ずつに減らし、おかげで喉はずっとカラカラだった。クーカのいっていた『聖なる泉』の水がいまもわきだしていることを、俺は心から祈った。
昼過ぎに、目的地の廃墟にたどりついた。何千年前に栄えたという建物らしいが、俺もクーカも、いまはそんなものには目もくれなかった。
俺たちの目に最初にふれたのは、廃墟の入り口近くの半ば崩れかけた建物内に山とおかれた黄金と宝石の山だった。クーカのいっていたとおり、それはすぐ目のつくところに、無造作に投げ出されていた。よくも盗まれずにあったものだ。
俺はしかし、さきほどから匂っている水の香りにひきよせられて、宝の前をかけぬけていた。後ろからはやはりクーカが、喉をかきむしりながら追いかけてくる。
ありがたいことに泉にはいまも、澄んだ水がこんこんと湧き出していた。たくさんの鳥たちが嘴をつけているのをみた俺は、頭から水につっこんでかぶがぶとのみだした。
クーカと俺は、泉から同時に顔をあげた。その彼の顔が、これまでみたこともないような高貴な輝きに包まれている。
「おい、きみ、その顔はどうしたんだ」
クーカに言われて初めて、俺もまた彼と同じ顔をしているのがわかった。
自分の中から、いっさいの欲というものが消えていた。うまいものを食いたい、きれいな女を抱きたいという欲求も、出世欲も、とりわけ金銭への欲は跡形もなく消え失せていた。どうしてそうなったのか。それはこの聖なる泉の奇跡の水をのんだからだと、俺の体が教えてくれていた。
秘宝とは、この聖なる泉のことだとわかったとき、あそこに山とおかれた金銀ダイヤも、二人にとってはただのガラクタ以外のなにものでもなかった。


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このストーリーに関するコメント

15/12/08 光石七

拝読しました。
なるほど、金銀財宝も欲が一切消えてしまえばただのガラクタ。
聖人君子のごとく生まれ変わった二人は、これからどんな人生を送るんでしょうね。
面白かったです。

15/12/09 W・アーム・スープレックス

光石七さん、コメントありがとうございます。

別に奇跡の泉でなくてただの水でも、砂漠で喉がひあがったら財宝よりも価値がありますが、喉が潤うとふたたび強欲にまみれるのが悲しい人間の性でしょうか。

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