1. トップページ
  2. ユートピア

泉 鳴巳さん

泉 鳴巳(いずみ なるみ)と申します。 煙と珈琲とすこしふしぎな方のSFが好きです。文章を書くことが好きです。短編が好きです。 まだまだ拙いですが皆様の作品を拝読して勉強させて頂きたいと思います。宜しくお願い申し上げます。 HP:http://izmnrm.wpblog.jp/ Twitter:@Narumiluminous

性別
将来の夢 不労不仕
座右の銘 見ている世界を信じるな

投稿済みの作品

2

ユートピア

15/11/03 コンテスト(テーマ):第九十六回 時空モノガタリ文学賞 【 奇人 】 コメント:4件 泉 鳴巳 閲覧数:1285

この作品を評価する

 今日ぼくらは、スクール≠卒業する。
 八年間を共に過ごした仲間たちに別れを告げ、新しい旅立ちを迎える時が来たのだ。
 理事長先生から最後の激励を聞き、式典を終えたぼくらは、街の広場に集まっていた。
 周囲を見回せば、どの顔もどの顔も未来への期待に満ち満ちていた。
 ついさっきまでは。

 現在。辺りは騒然としていて、たくさんの警備員が、がちゃがちゃと足音を立てて行き交っていた。
 騒ぎの中心には、一人の成人男性の姿。なんでも、何年も潜伏していた政治犯が突然現れたらしい。
 「危険思想の流布」の容疑で指名手配されていた男は、火炎瓶を片手に広場の中心で訳の分からないことを叫んでいた。

「あの人絶対おかしいわ」
 ぼくの隣でブロンドの髪を掻き上げながら、ガール・フレンドのリズが眉を顰める。
「構わない方がいい。危険思想に洗脳されてしまうかもしれない」
 ぼくはリズの手を引いて歩き出した。
「ああいう手合いは、無視するのが一番なんだ」
 スクールでそう習っただろ? とぼくが言うとリズは頷き微笑んだ。ぼくの好きだった笑顔だ。

 少し距離をとったお陰で騒がしさは遠退き、ようやく少し落ち着くことができた。
「ついに卒業かあ」
 なんだが感慨深くなってぼくは空を見上げた。
 思い起こせば、色んな事があったっけ。
 右も左も分からない新入生だった時、初めて受けた授業に感動したこと。
 夜に寮を抜けだしたのがバレて先生に大目玉を食ったこと。
 それから、リズと付き合うようになったこと。
 今となってはどれもこれも、良い思い出だ。
「ねえユウリ、一年後の私たちは、どうしているのかしら」
 悪戯っぽい顔でリズが訊いてくる。
「さあねえ。そんなのはぼくらが決めることじゃないし」
「それだけ?」
 真っ直ぐにぼくの目を覗き込んでくる。ああもう。リズには敵わないな。
「……同じところに配属されたら嬉しいけど」
「うん、よろしい」
 へどもどしながらも答えたぼくに向かってにっこりと、今度は満面の笑みを浮かべる。
「さ、さあ。そろそろ行こう」
 顔が熱くなったのを隠すようにぼくは身を翻し、リズの手を取った。
「ふふふ」
「な、なんだよ」
「なんでもないわ。行きましょ」
 やっぱり敵わないな。ぼくは頬を指で掻きながらリズの手を引き、ゲートへと歩を進めた。

 ゲートへ近付いて行くと騒がしさが再び訪れた。あの男はこの付近まで来ていたようだ。
 その時だった。リズの手を引いていた方と反対の腕が、突然ぐいと引かれた。バランスを崩しかけたぼくはたたらを踏んで振り返った。
 騒ぎの中心、政治犯の男が、ぼくの腕をがっしりと握っていた。
 突然のことに言葉が出ないぼくに向かって、彼は吠えるように言った。
「行くな!」
 至近距離で大音声を出され鼓膜がびりびりと震えた。しかし、いきなりそんなこと言われても困る。
「えっ、はあ」
 答えにならない言葉をぼくが発したその時、警備員たちが動きを止めた男に一斉に飛びかかった。そして数秒後、暴れに暴れていた男はようやく取り押さえられた。
「離せ! 息子を連れて行かないでくれ!」
 男は、警備員に羽交い締めにされながらもまだ叫んでいる。
「あの人絶対おかしいわ」
 隣でリズがさっきと同じことを言う。
 ぼくは肩を竦めると、ゲートに向かって足を進めた。

 かつてぼくのパパだった人は、完全に拘束されて護送車に詰め込まれていた。あーあ。あの調子じゃ“粛清”は免れないだろうな。
 社会に反抗したって、待っているのは粛清だけなんだ。やっぱりスクールで習ったことは正しかった。
「さよなら、パパ」
 ぼくは口の中で呟く。きっとあの人は、「管理される美しさと快楽は、何物にも代え難い」と習わなかったのだろう。そう思うとちょっと可哀想だ。

 それにしてもああ、楽しみだ。脳を弄られるってどんな気分だろう。
 ぼくとリズは自然と頭上を見上げた。

 ゲートに掲げられた電光掲示板には、『Human Ranch』――人間牧場と表示されていた。



コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

15/11/05 クナリ

多数派、少数派、立場、状態、人間関係――
「奇人」という言葉の扱われ方の危うさが感じられる作品でした。
何気ない導入が、ラストでの意外な展開を盛り上げていますね。

15/11/08 泉 鳴巳

クナリ様

おっしゃるように「奇」という概念(?)は危うく曖昧で相対的なものかもしれないと思って書きました。
お読み頂きありがとうございました。

15/12/22 光石七

拝読しました。
タイトルと冒頭部分から、何かしら狂っている世界と展開を予想していましたが…… それが喜び・楽しみとは、恐ろしすぎです。
何が正常で何が異常なのか? 社会が変われば基準も変わり、数が多い方や力の強い方が正常とみなされるのか? 考えさせられます。
深いお話でした。

15/12/23 泉 鳴巳

光石七様

お読み頂きありがとうございます。
>何が正常で何が異常なのか? 社会が変われば基準も変わり、数が多い方や力の強い方が正常とみなされるのか?
まさにそれがテーマというか、念頭に置いて一気に書いたものです。
力量不足故に巧く表現しきれなかったので、どこかでもう一度挑戦したいと思っております。

ログイン