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笛地静恵さん

SM小説家。妄想家。言葉遊び師。 三和出版『女神の愛』「女神帝國盛衰記」連載中 他

性別 男性
将来の夢 歌集、句集をだすこと。
座右の銘 永遠の未完成、これ完成(宮沢賢治)

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関節少女人形ミツセ

15/11/02 コンテスト(テーマ):第九十六回 時空モノガタリ文学賞 【 奇人 】 コメント:0件 笛地静恵 閲覧数:1140

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 関節人形のミツセは砂つぼのわきの赤いやしろに住んでいる。人というより物だ。肺がない。伝説の青い星との戦いの時代に製造された、戦闘と慰安用の人形だった。関節部分が分かれている。
 彼女がいるのは、砂竜が住むとして、だれもちかよろうとしない場所だ。腹が減ると、金色の砂つぼにとびこんでいく。あがってきたときには、口に鉄蠍をくわえている。火もとおさずに生のままで食う。毒のある尾のとげも残さない。
 しかし、ミツセが砂つぼに住むことで、砂竜も顔を出すことができなくなっていた。流れ出る砂をあふれさせ、村のわずかな銀麦の収穫を、洗い流すような悪さもしない。みなは、そのことに気がつかなかった。
 そんな人形のミツセが、どういうわけか、村でもっとも見目うるわしい人間の美少年のレイモンドをすきになってしまった。美少女の姿をしている。恋の心が内蔵されていた。丸く大きい黒曜石の瞳が月を映した。
 ある日、彼に星の実を持ってきた。腰まで伸ばした長く白い髪に赤い人工の血液がにじんでいた。さすがのミツセも苦労したらしい。レイモンドはとりあわなかった。
 なんだ、こんなもの。
 彼は何度も覇王樹に挑戦しては失敗している。それを人造の人形が簡単に持ってきたのだ。馬鹿にされたと思った。星の実をふみつぶした。レイモンドの足が光った。その足でミツセをけとばした。それからも、生きた人形の姿が遠くに見えると石つぶてをなげた。狙いは正確だった。
 そのレイモンドが朱金崖から落ちた。第一報が村にもたらされたのは、東の山の端に早い月が沈もうとする刻限だった。二十戸ほどの小さな村である。レイモンドのとりまきの少年たちが、灰の中の空気をいっぱいにつかって、口々に叫んで急を知らせている。みなで、なんとかしようとしたが、無理だった。助けを呼びに来たのだ。
 ほとんどの村人が朱金崖のへりに集まっていた。赤と金の地層が、交互に重なっている。千尋の谷底である。太古の運河が帯のように細い。見下ろしているだけで膝の骨が震える。救出は困難だった。谷の砂石はあまりにもくずれやすい。危険だった。
 そんなことは、レイモンドにもわかっている。彼は崖の途中に生えている、星の実を取ろうと思ったのだ。手足が長く肺も強かった。村の若者にとって勇気のあかしだった。それを好きな人に贈る。愛の告白だった。レイモンドはふもとの村の娘に恋をしている。星祭りの晩から知れ渡っている。
 レイモンドは棘のある覇王樹にぶらさがっていた。足を滑らせて落ちていく先に、幸運にもたまたま棘があった。レイモンドの仙人掌で織った粗末な服。えりがやぶれてひっかかっている。必死に肺の空気を使って声をかけても、返事はない。気を失っている。それでも、握った手から、星の実を落とすことはなかった。光のしずくがこぼれている。
 二つ目の遅い月が出た。赤い谷底から吹き上げる風が冷たい。彼が眼を覚ました。しかし、そのことが事態を悪化させてしまった。レイモンドがもがいたからだ。抜けかかっていた覇王樹の根が、岩壁からはがれそうになってしまった。   
 空が赤黒い。砂金色の雲が遅い月をおおい隠す。いまにも砂嵐がふってきそうだ。流れる砂は、覇王樹を根っこごと、あらい流してしまう。上から降りていくと、なだれがレイモンドを直撃してしまう。横から移動しようとしても足場がない。あそこまでとどく長い縄は、貧しい村にはない。砂粒が顔にあたる。みなが、レイモンドはもう絶望的だと観念した。肺を砂に捧げるしかない。
 そのときだった。村の騒ぎを聞きつけたミツセが白い風のように走ってきたのだ。
 お前はくるな。不吉だ。くさい。
 村の老若男女の全員が、口々にミツセをなじった。同時に、あっと叫んだ。
 覇王樹がはずれた。
 ミツセが、崖から飛び降りた。空中で、レイモンドの体を両手に抱きしめた。白く長い髪が二つにわかれた。ばさばさ。空気を打つ羽音。翼だった。白くてほっそりした美しい少女の体が、谷のうすやみの底で輝いている。
 そのまま谷底の運河のへりに、そっと足をついた。レイモンドをだいたままで、そこにたおれた。
 レイモンドは、わずかのすり傷の他には、肺も痛めていなかった。かすんだ目で、ミツセの笑顔を見た。力を使い果たして眠る彼女の関節の手の指に星の実を乗せた。
 それから、ミツセとレイモンドは、砂つぼの砂しぶきのかかる赤いやしろに、ふたりですんでいる。
 人形のミツセを選んだレイモンドは、村の奇人と呼ばれている。しかし、彼は平気だ。彼女のために肺の空気をいっぱいに使って歌を歌う。ミツセにならって砂竜を飼いならした。今では、二人で竜に乗っている。砂を泳ぎ風を切り裂いている。
 レイモンドは自力で手に入れた星の実を、ついにミツセに手渡した。二つの月が天に輝く夜だった。


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