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Fujikiさん

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奇人狩り

15/11/02 コンテスト(テーマ):第九十六回 時空モノガタリ文学賞 【 奇人 】 コメント:6件 Fujiki 閲覧数:1586

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「化け物と呼びたければ呼ぶがいい。お前達に何と言われようと知ったことか!」
 そう叫んだ直後、音楽教師は胸に散弾銃の弾を受けて絶命した。
 私の村には奇人狩りの風習が残っている。村人はよそ者を注意深く観察し、奇人かどうかを確かめる。誰かの報告を受けて奇人が入り込んでいると判断が下ると、男衆を集めて対象となる人物を排除する。これは村の秩序を保ち、それぞれの家が代々守ってきた先祖の位牌が汚れた血筋に渡らないようにするための古い伝統である。
 村の中学校に赴任してきた音楽教師が奇人狩りの標的になったのは、彼が秋休みに男性の恋人を呼び寄せたのを生徒の一人が目撃したためだった。生き方の違う人間や、宗教や価値観が異なる相手を村は奇人のレッテルを貼って排除してきた。誰もが血なまぐさい秘密を共有し、互いの言動を監視しあう。高校卒業後オーストラリアに留学することを両親に反対されたが、もちろん私に躊躇は一切なかった。
 シドニーの語学学校で私はショーンに出会った。ショーンは英語名で中国語の名前はインション(英雄)。上海出身である。上級クラスに配属されたアジア人は私とショーンの二人だけだったので、自然と一緒に話したりチャイナタウンで食事したりするようになった。週末には映画を観に行った。まだ映画の英語が完璧に聞き取れない私に気を遣ってか、英語字幕が付くアジアやヨーロッパの作品や日本映画によく誘ってくれた。
 テオ・アンゲロプロスというギリシャの監督の長い映画を観た帰り、ショーンは歩きながら突然私のことが好きだと言った。驚いて彼の方に顔を向けると、耳が真っ赤になっていた。照れ笑いの口元から八重歯が顔を覗かせた。私は何も言わずに彼の手を握って自分のポケットに入れた。
 一年の予定だった留学は現地の大学への進学が決まって四年に伸びた。ショーンは最初から英語の資格を取って大学に入る計画を立てていたので、進学は彼の影響もあったのかもしれない。それを別にしても毎日いろいろな訛りの英語が飛び交い、カルチャー・ショックに揉まれる生活は刺激的だった。
 卒業が近づいたある日、ショーンが私の村に行きたいと言い出した。
「もう付き合って長いから、一度はアイコの両親に会って話がしたい」
「いいよ、わざわざ無理しなくて。私だって村に戻るつもりないし」
「僕の国では家族の意見を大事にする。君の両親に僕の真剣さを分かってもらう必要があるんだ」
 そう言って彼は鞄から小さな箱を出した。リングケースに入ったペアの指輪だった。
 私は村の秘密を打ち明けた。村で殺人が繰り返されてきたこと、中国人の彼は真っ先に狙われかねないこと、どうしてもと言うのなら両親をこちらに呼び出した方がいいことを一つ一つ説明した。彼はうなずきもせず、硬い表情で私の話を聞いた。
「危険なのは分かった」と、彼は深く息をついた後に言った。「でも、君の生まれ育った故郷で頭を下げなきゃ。オーストラリアに呼びつけて話をするのは礼儀に欠けると思う。事後報告だって思われてもおかしくないよ。どうか僕のためだと思って村に連れて行ってくれないか?」
 意外にも両親はショーンを笑顔で迎え入れてくれた。父は彼の家族のことや将来の夢についてあれこれ質問した。母は四年ぶりに娘と会えた嬉しさを料理で表現するかのように食卓一面にご馳走の皿を並べた。私は初めて家で飲む泡盛を舌の上で滑らせながら、ショーンの真摯な言葉を訳した。久々の実家は何も変わっておらず、落ち着いた気分になれた。
 食事の後、急に眠くなって船が沈むように布団にもぐり込んだ。錨の巻きついた意識が水底に遠のいていく。取り返しのつかない間違いを犯したことを知った時にはもう瞼を開けることさえできなかった。
 早朝、鈍い頭痛と共に目を覚ますと隣の布団は空のままだった。遠くからエンジンが唸る不吉な音が聞こえた。私は裸足のまま外に出て夢遊病者のように音のする方へと歩いた。裏庭の鶏小屋の前に長靴を履いた父の後ろ姿があった。雨でもないのにレインコートを着てチェーンソーを手にしている。近寄ると、父の足元に積まれた赤黒い塊が見えた。悲鳴を耳にして振り返った父のレインコートは血で染まっていた。私は声がかれるまで叫び続けながら、もはや原形を留めていない肉と臓器の断片の上に身を投げた。顔を浸した血だまりの中で小さな何かが金色に光っているのが目に入った。
 手を下したのは村の連中で父は後始末を任されただけだと母が後で説明した。両親よりも先に誰かがショーンの存在を報告していたら私にも村の秘密を漏らした疑いがかかるところだったという。
「もう外国なんか行かないで、うちにいなさい」と私の背中をさすりながら母は言った。
 母の顔を見るのは今日が最後になるだろう。握りしめた手の中ではショーンの指輪が私の汗で濡れていた。


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このストーリーに関するコメント

15/11/03 クナリ

ラストで、さも常識的に諭すようなお母さんが一番怖かったですね…。

15/11/03 Fujiki

そうです、自分たちの常識を信じて疑わない自称普通の人々ほど恐ろしいものはありません。私も気をつけなくては。クナリさん、コメント&評価ありがとうございます。

15/12/17 光石七

拝読しました。
なんとも恐ろしい風習ですね……
一体ショーンのどこが「奇人」だったのでしょう? 自分たちだけの「常識」にとらわれて人殺しを正当化する村人たちよりも、よほど普通でまともな好青年だと思います。
主人公の最後の決断は無理もないですね。娘の本当の幸せを見誤っている両親が怖いです。
ですが、現実社会でも自分たちとは違う人間を攻撃し排除しようとする人々が存在しますし、自分の中にもそういう部分があるのではないかと思うと……
寓話的な、非常に読み応えのあるお話でした。

15/12/18 Fujiki

コメントありがとうございます。
「奇人」を辞書で引くと「普通とは異なっている人」と出てきます。普通という概念抜きでは定義できない不思議な言葉です。
他者を否定し排除する前に、人は自分たちにとっての普通や常識、当たり前を疑ってみる必要があるのかもしれないと思い、物語にしてみました。

15/12/25 6丁目の女

 村という舞台、その土地で受け継がれる奇人狩りという風習……この魅惑的な設定にあっけなく読者は異次元へと連れ去られるのですが、その独特な世界に生きているのは、現代に生きる生身の人間たち。実際、奇人狩りは私たちのすぐ近くで日常的に行われているのかもしれない。目を逸らし、無自覚になっているだけで、犠牲者は絶えないのかもしれない。
 そもそもその概念の正体は??
イメージや概念を言語化、物語化することに憧れるので、このような印象的で魅力的な作品に触れることができて幸せに思います。

15/12/26 Fujiki

すてきなコメント、ありがとうございます。最近は年末の忙しさを言い訳にして怠け気味だったので、書き続ける励みをもらえて大変嬉しく思います。来年もお互いに切磋琢磨していきましょう。

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