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6丁目の女さん

6丁目の女と申します。 テーマというお題に対し、どのようなモノガタリが生まれるのか、読むのも書くのも楽しみながら、2000字小説というジャンルに挑戦してみたいと思います。 みなさま、どうぞよろしくお願いいたします。

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倉田美雪の宣誓

15/11/01 コンテスト(テーマ):第九十四回 時空モノガタリ文学賞 【曖昧】 コメント:4件 6丁目の女 閲覧数:943

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 曖昧地獄に堕ちているのは、佑介と沙希、二人だけではないことを彼らはわかっていない。セックスをしないことを純愛だと履き違え、曖昧な関係を頑なに継続する彼らに振り回されてきたこの私…まったく、曖昧被害者の会会長に就任しようかしらん?
 美雪とは腐れ縁だから、と佑介は笑うけど、全然笑えない。どうにも始末に負えない曖昧な三角関係の始まりは、今から20年前に遡る。
 
 中学時代の桐野佑介は、他校の女子生徒がファンクラブをつくるほどの有名人で、そんな男から告白された私は有頂天だった。オレたち付き合っちゃう?息を吹いたら飛んで消えてしまうような軽薄な台詞を告白だと受け取った私は、まだ若かった。中学生なのだから致し方ない。
 バスケットボールに夢中になっている佑介の姿は神々しくさえあり、バレー部キャプテンという立場も忘れて私はその姿に見惚れていた。

 中学時代の清い交際を経て、高校でもクラスメートになった私たちはさらに深く付き合うようになった。高校生になった佑介は、自由なプレースタイルが許されない部活のやり方に反発し、放課後になると私の部屋に入り浸るようになった。
 覚えたてのキスに夢中になったその後で、中学の卒業アルバムをおもむろに開き、佑介が言った。「この太腿はヤバイな」それはバドミントン部の綾宮沙希だった。
 地味で印象の薄い女子生徒だったが、男と女では見方が違うらしい。言われてみれば正統派の美人で、透きとおるような白い肌をしていたことを思い出した。

 もしも私たちの青春時代に携帯電話やメールといった通信手段があったなら、何か違っていただろうか?数々のすれ違いや伝えきれない想い、もどかしいほどの回り道もまた恋の妙味であるらしく、彼らは私が仕掛けた罠に何度も堕ちながら互いを求め合うことをやめなかった。
 彼らの聖地である新宿のジャズバーに、二人を引き裂くための刺客を送り込んだり、待ち合わせ場所に先回りして、ありもしない嘘をついて翻弄したこともあったが、彼らを完全に引き離すことにはいまだ成功していない。そして何より理解し難いのは、彼らが肉体ではなく心で繋がろうとすることだった。

 佑介と私は似た者同士だった。何度も抱き合って、同じくらいに他の異性とも交わってきた。あの佑介が落とせない女、綾宮沙希。一人の女を抱けない悶絶を大勢の女たちを抱くことで補う佑介と、そんな男をあきらめきれない私もまた、彼以外の多くの男たちに身をゆだねてきた。佑介が他の女を抱くたびに、私も他の男に抱かれた。そうやって危うい均衡を保ってきた。

 佑介が小説家になりたいだなんて途方もない夢を持ってしまったのも、綾宮沙希の影響に違いない。彼らは高校生の頃から「二人だけの合評会」なるものを開き、好きな小説や映画、音楽について語り合っていた。
 映画監督になりたいとか、バンドで成功するとか、とにかくビッグになりたいと言っていた佑介の最後に残された希望が、小説家になることだった。
 
 オレは大器晩成型だからと強気な発言をしているが、彼の黄金期はすでに終わっているのかもしれなかった。佑介がどうしてあのような辛気臭い小説を書くのか、それが解せない。いつものノリと言葉で自らをそのまま語ればそれだけで十分に面白いはずなのに。

 二人だけの合評会、それを口実に佑介と沙希は排他的で個人的で濃密な時間を共にするのだ。彼らはセックスをしないことで自分たちの愛を特別なものに昇華させようとしていた。その曖昧な関係につきあって、私の精神は何時も崩壊寸前だった。

 沙希が結婚してもなお一途に想い続ける佑介を見かねた私は大きな賭けに出た。あの二人がたった一度だけ結ばれたのは、何を隠そうこの私が策略したことだった。同窓会を企画して二人を自然な形で引き合わせ、そしてついに二人は肉体を重ねたのだ。

 その夜、私はのたうちまわり、火を噴くような想いで身悶えしながら朝を待った。これであの清廉な少女もついに穢れたのだ。その事実に私は快哉を叫んだ。一度寝てしまえば、何度も繰り返し寝てみれば、佑介にとって沙希は特別な女ではなくなるはずだった。

 私は自分が仕掛けた罠に自ら堕ちた。沙希は佑介に別れを告げた。佑介にとって沙希は、永遠に忘れられない女になった。このままいけば佑介はいつか破滅するだろう。心が折れる日がきっと来る。その時こそ、私の出番だ。彼を救えるのは私しかいない。私にはあの男のすべてを引き受ける覚悟がある。食べさせ、介護し、看取る。最後にあの男の骨を拾うのは私だ。ここまできたら長期戦は望むところだ。亡霊みたいな女に夢中になって、幻みたいな恋を追いかけて、そんなことに一生を捧げるつもりなのか。曖昧な腰抜けどもに曖昧地獄の報いを。私、倉田美雪は誓う。何があっても絶対に、桐野佑介をあきらめない。


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このストーリーに関するコメント

15/11/06 泡沫恋歌

6丁目の女 様、拝読しました。

倉田美雪の桐野佑介への執着ぶりは自らが招いた無間地獄のようなものですね。
ふたりを罠に嵌めたつもりで、実は彼女自身が一番深い罠に堕ちてしまった。
ある意味、そこまで執着できる男がいるということは幸せかもしれない。
圧巻のストーリー展開で、面白かったです。

15/11/07 6丁目の女

泡沫恋歌 様、コメントありがとうございます。

「ある意味、そこまで執着できる男がいるということは幸せかもしれない」

まったくそのとおりですね!
とことん惚れてみたいものです、恐いけど(^^;
執着するのもしんどいでしょうね。彼女自身にはまったく曖昧なところがない・・・

読んでいただき、コメントまで本当にありがとうございます!

15/11/12 そらの珊瑚

6丁目の女さん、拝読しました。

>最後にあの男の骨を拾うのは私だ
というフレーズにしびれました♪
現実的には破綻したような関係ですが、小説で描かれたこういう女の人、キライじゃないです。
綾宮沙希…いつヨーヨーが出るかと期待しちゃいました。(笑い)関係ない話でごめんなさい。

15/11/12 6丁目の女

そらの珊瑚さん、コメントありがとうございます!


綾宮沙希、綾宮沙希・・・誰かに似てるな・・・(!)
麻宮サキやん!!と、途中で気づきました(苦笑)
今思えばなかなかインパクトのある作品ですね。

美雪のような女性、現実ではあまり関わりたくないですが、小説の登場人物としては、私もけっこう好きなタイプです!

読んでいただいて嬉しいです♪

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