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三条杏樹さん

好きなものを好きなときに。

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そして今日もコーヒーを

15/11/01 コンテスト(テーマ):第六十七回 【 自由投稿スペース 】 コメント:0件 三条杏樹 閲覧数:1024

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誰に言うこともできない悩みがあると、途端に孤独を感じる。
俺の場合、「誰にも言えない」というよりは、「誰かに言っても俺が悪いと言われるに決まっている」と思っているから。
そしてその通りなのだ。

努力をしない俺が悪い。努力をしない俺が悪い。努力をしない俺が悪い。努力をしない俺が悪い。
努力努力努力・・・・
呪いのように胸によどんで俺を責める言葉だ。
こうして自分の無価値を嘆く方が、行動するために腰を上げることよりも簡単だと骨の髄まで理解している。だからこそ、どうやったって「俺が悪い」。

人の幸せを憎む人を浅ましいと思った。それが、我が身のこととなるとは知らずに。
ああ、俺はこんなにも愚かで醜い人間なのだ。
世間では泉のように湧き続けるイマジネーションを駆使して人生に華を添える人が数多いるというのに。こうして命の終わりのときにすら、俺はなんの創造も生産もせずに処理せねばならない遺体を残して去っていかねばならない。

さようなら。俺が妬んだ才能のある人々。何よりも、俺が喉から手が出るほど欲した努力の天才よ。


コーヒーにうんと砂糖を入れた。将来の健康を案じて、いつもは甘さ控えめ、一日一杯で我慢していたコーヒー。それが、今日は四杯目。

とりえもなく、長所もない。かつそれを嘆くだけのエネルギーを行動へと移さない邪魔者が、俺だった。好きなもの、特になし。飯を消費するのもゴミを出すのも二酸化炭素を排出することさえおこがましい。ごめんなさい。

それから、俺と同じような悩みに苦しんでいるすべての人たち。俺は先にいきます。ごめんなさい。生きる努力をせずに、こうして君たちより先に楽になろうとすることを、許してください。
両親へ。先立つ不幸を許してください。あなたたちのせいではありません。全部俺が悪いんです。俺が俺が俺が俺が・・・・



そして今日もコーヒーを飲む。甘い。どこまでも甘い・・・。
























そのノート自体が呪いが見えた。一昨日、首を吊って死んでいた兄が書いたノートの一枚。
なんということか。まったく馬鹿馬鹿しい!
こんなことくらいで死ぬだなんて。生きていれば、なんとでもできていただろうに。
しかし、仕方ないとも思える。不謹慎だけれど。いつだったか、母親に「やさしい子」と言われて、怒鳴って泣いていたことがあった。
「そんな人、どこにでもいる」と言っていた。
結局、兄は人より抜きん出た、唯一無二で誰も真似することができないことをやり遂げるような才能が欲しかったのだ。評価されたかった。認めて欲しかった。賞賛されている人たちを羨んで、投影していた。
そして、努力さえすればそれができると思っていた。ただし私の記憶では兄は怠慢だった。
怠慢は語弊があるか。「自分はダメな人間だ」ということにかこつけて、動かなかっただけにすぎない。それが怠慢と言うのかもしれないけれど。ああ、哀れ。
どうにもできずに無力を感じる人間なんてごまんといる。突出した能力のある人間などひと握り。世の中には優雅に才能を発揮して認められる人間よりも、その人たちの尻に敷かれて
じたばたなんとか己の価値を見つけ出そうとしている人の方が多い、ような気がする。
しかも、この遺書を見る限り、この人は自分でも分かっていたじゃないか。

「努力をしないお前が悪い」

うっかり、口に出してしまった。死んだ後も兄の味方にはなれなかった。ごめんね。
それはそうと、なんだかコーヒーが飲みたい。


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