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FRIDAYさん

こんにちは。FRIDAYといいます。 ときどきどこかのコンテストに投稿しようと思います。 興味と時間が許すなら、どうぞお立ち寄り下さいませ。   “小説家になろう”でも遊んでいます。宜しければそちらにも御足労いただけると嬉しく思います。 http://mypage.syosetu.com/321183/

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彼がはっきりしないわけ

15/11/01 コンテスト(テーマ):第九十四回 時空モノガタリ文学賞 【曖昧】 コメント:0件 FRIDAY 閲覧数:1079

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「──だから、もう、いい加減にしてよ!」
 痺れを切らした若菜はとうとう怒鳴った。
「どうしてはっきりしないの! いつもいつもいつも!」
 怒鳴り散らす若菜に対し、その原因である章哉はいつもと同じような、困ったような、泣きそうなような、何とも言えない表情をしていた。
 そう、いつものことなのだ。章哉が煮え切らない態度を繰り返し、それに対して若菜が激昂するのは。
「私だって怒鳴りたくなんかないよ。でも章哉がいつまでもそんな態度だから!」
「…御免」
「謝るくらいならはっきり言って!」
 この繰り返しだ。
 万事優柔不断な章哉だが極めつけに曖昧な態度をとることがある。ここしばらくの喧嘩の原因は決まって、若菜がその話題に触れることだ。
 交際して七年になる、ふたりの将来について。
 三十代も見えている。若菜はそろそろ結婚したい。けれどその話題になると途端に章哉は例のあの表情になり言葉を濁す。
「もういい! 今日はもう帰る。それじゃあね!」
 一方的に言い捨て若菜は身を翻した。
 これもまた、いつものように。

「──で、私のところに来るわけだ」
 居酒屋の一席で、悠花は呆れ顔でグラスを傾けた。
「いつものことだけれど、私もいい加減に飽きてきたね」
「酷い。こっちは真剣に悩んでるのに」
「こっちだって本気でうんざりなんだよ若菜。喧嘩と言ったって他人の惚気話だ。聞いていて楽しくない」
 言って、悠花は鶏の唐揚げを摘まむ。若菜は唇を尖らせるがそれ以上は強く言えずに黙る。章哉との喧嘩の後は決まってここで悠花に愚痴る。勿論、若菜の奢りだ。
「全く飽きないよね君たちは。いつも同じことで喧嘩して…もう別れちゃえば?」
「ううん」若菜は緩く首を振る。「別れるのは嫌。章哉から言ってきたならともかく、私は章哉好きだし」
 けっ、と悠花は吐き捨てた。
「お熱いことで」
「でも楽しいわけじゃないよ。章哉がはっきりしないのが悪いんだもん。大事なことになるといつもいつも…」
「…あのね若菜」
 盛大にため息をついて、悠花は行儀悪く箸で若菜を指してくる。なに、と返すと悠花はまたため息をついた。
「ご存知の通り私と章哉は小学校以来の仲で、私は奴の癖なんかも知っているわけだ。しかし若菜。あんたももうあれと付き合って五年だろう?」
「七年だよ」
「けっ、リア充が…もとい、それならなおのこと、あんただってもうわかってもいいはずだ」
「え…何を」
「章哉が優柔不断になる癖だよ」
 烏賊ゲソの唐揚げを乱暴に噛みながら悠花は言う。
「あいつの優柔不断は筋金入りだ。そしてこれは、ことが大事になればなるほど、酷くなる」
「…つまり?」
「それだけ大切だってわけだよ。あいつにとって、結婚というのは」
 もうわかるだろ、と悠花は言う。
「何せ人生の墓場だからな」
「ちょっと」
「冗談だ」
 とにかく、と悠花はビールを呷った。
「気長に待て。あいつが決めるのをさ──すいません、ビールもう一杯」
 気長に、か。若菜は小さく吐息した。
 いつまで待てばいいんだろう。

 悠花に愚痴ってから、数日。
 章哉のアパートを訪ねると、彼は不在だった。忘れ物を取りに来ただけなので構わない、合い鍵を使って入る。
 目当てのものはすぐに見つかり、帰るかというところで、テーブルの上に気がついた。
「…ん?」
 見慣れない、手のひらサイズの箱。何気なく開いてみると、
「…指輪」
 婚約指輪だった。見ただけで値段などわからないが安価なものではない。
 そして指輪の箱の下には、一式の書類。
 婚姻届。
「……」
 その意味は一発でわかったのだが、見なかったことにした。折角見つけた忘れ物も、もとの位置に戻しさえした。
 彼の決意に水を差したくない、というのもある。
 けれど、まだ自分の中で落ち着いていない、ということもあった。

 さらに数日。
 高級なレストランに誘われて、何でもないような顔をしてついていって、自然な調子で食事をして。
「──若菜、その」
 食べ終える頃になって、彼が神妙な顔で切り出した。
「大事な話が、ある…というか」
 相変わらずの煮え切らない態度。けれど若菜はいつものように激昂したりはしない。
 若菜は章哉が今日持ってきた鞄に、あの小さな箱が入っていることを知っている。
「さんざん待たせて御免、なんだけれど…」
 彼が鞄から腕を引き抜いてテーブルの上に置いたのは、まさしくあの小さな箱。
 それが意味するところは、もうこれ以上なくわかっている。
 けれど、さんざん待たされた仕返しついでに、ちょっとだけ意地悪を。
「うん、なにかな?」
 わざと呑み込みの悪い振りの笑顔で。
 そわそわと視線をさまよわせ、パクパクと口を開閉する彼を見て、いよいよ笑みを深めていく。
 待ち望んだ幸せまで、あと少し。


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