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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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気持ちよく酔った夜、かれらは

12/03/21 コンテスト(テーマ):第二回 時空モノガタリ文学賞【 居酒屋 】 コメント:0件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:2594

時空モノガタリからの選評

最終選考

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アキラはとなりの男性客をちらとうかがった。

カウンターに彼がついてすぐ、その客が座った。
ひじとひじがふれあう間にいながらふたりは、しばらくのあいだだんまりをつづけた。
このきまづい沈黙から解放されようとおもってアキラは、グラスの酒を空けた。2杯、3杯………
みると、となりの客もおなじように、アルコールを流し込んでいる。

そのうちふわふわした気分になってきた。だれでもいいから、声をかけたくなるのは、このあたりからだった。

そんなアキラの肩を、となりの客がぽんとたたいた。

「いい飲みっぷりですね」

「おたくこそ」

おたがい、はなしたくてうずうずしていたことが、これであきらかになって、アキラはわけもなくおかしくなった。

それでいつもの話が唐突にとびだした。

「なにもエイリアンは、アメリカはホワイトハウス、イギリスはビックベン、中国は紫禁城、日本はスカイツリーのそばに宇宙船を着陸させるとはかぎらない。あんがい、こんななんでもない居酒屋の客となって、肩をよせあい、コップをかたむけているかもしれないじゃないですか」

すると相手は、大きくうなずいて、

「あなたのような幅広い考え方をする地球人がいるとおもうと、エイリアンたちもほっとすることでしょう。何も世界征服、人類制圧のために異星人たちが宇宙のかなたから飛来するとばかりはかぎりませんものね。ただたんに、人間となかむつまじくなることをのぞんでいる連中だって、けっこういるはずですよ。ほら、あのすみで一人飲んでいる女性も、ひょっとしたら、そのくちかもしれない」

「なるほど、なるほど、そういえばあのひとの襟からのぞく肌、なんだか緑っぽくありませんか?」

「それにあそこのテーブルを囲んでいる三人の男女だって、なんだかあやしい」

「わたしもおなじことを考えていました。あの左の男性の小指がさっき、反対方向にまがるのを、たしかにみたような気がしたな」

とアキラは、赤くそまったまぶたのふちをほそめた。

「それにあの女性の、淫靡なまでのセクシーさは、とても地球人の女ではだせませんよ」

「もしかしたら………」

途中でやめてしまったアキラに、うながすように彼は、

「もしかしたら、どうしたのです?」

「いや、かれらがエイリアンにみえる、我々だってもしかしたら………」

「あ、そのさきは、いいっこなしだ」

とあわてて手でさえぎる彼を、アキラはしさいありげにながめた。

すると彼のほうも、じろりとこちらを見返してきた。

みると、店にいるみんなが、だれかの顔をみつめている。その顔には一様に、もしかしたらという疑いぶかげな表情がはりついていた。

一瞬、なにもかもが凍りついたようにかたまった。

そのとき、だれかがクスリと笑った。
その笑いが火種となって、たちまち笑いは全員に拡大したかとおもうとさいごは、大爆笑になって店をゆるがした。


帰ってゆくかれらの顔は、ここちよい酔いでみたされていた。
アキラは、ほろよい気分で去ってゆく彼をみおくってから、カウンターの向こう側にいるマスターに、いった。

「さて、マスター、エイリアンはだれでしょう?」

もちろん、まじめに答えをもとめるつもりはなかった。アキラもまた、ゆるみっぱなしの口をそのままに、ふらつく足取りで店をあとにした。

だれもいなくなった店内をみまわしながら、マスターはつぶやいた。

「酒代さえはらってもらえるなら、相手がさそり座からやってきた異星人でもだれでも、
文句はないさ」

そしてシンクにたまった汚れ物を洗いにかかった。
洗剤のついた手でもったグラスが、ついすべって落としてしまった。
グラスは簡単に割れた。

「痛い」

拾おうとして、指のさきを切ってしまった。

床の上に、青色の血がたれおちた。


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