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つつい つつさん

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リア充

15/10/20 コンテスト(テーマ):第九十四回 時空モノガタリ文学賞 【曖昧】 コメント:4件 つつい つつ 閲覧数:1200

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「祐一って、相変わらずリア充だよな」
 久しぶりに高校時代のサッカー部の仲間五人で飲んでいると、川村が感心したように俺に言った。
「なんだよ? バカにしてんのか?」
「いやいや、高校の時からお前ってなにやっても、うまくいくなって思ってたけど、変わらないなって」
 俺は昔からリア充って言われる。端から見るとなにもかもうまくいってそうな俺のことを周りはいい意味でも悪い意味でもリア充って言うのだろう。
 川村が俺を指さし、みんなに訴えかける 
「里奈ちゃんだっけ? 祐一の彼女すごく可愛いんだぜ」
「なんだよ。川村だって、可愛い彼女連れてたじゃん」
 俺が言い返すと、川村が不満げな表情になる。
「それ、嫌味かよ。祐一の彼女に比べたら、俺のなんて」
 さっきから、唐揚げをがっついていた高村が急に立ち上がり、いかつい顔で俺らを睨む。
「うっせえよ! お前等、彼女いるだけましだよ。俺なんて……俺なんて一度も」
 みんなが笑う。高村の彼女いないネタは高校の時から鉄板だ。すかさず、川村がフォローを入れる。
「いやいや、風俗ばっかりいってるお前のほうが、ある意味女にもててんじゃない? 俺らなんて何十人も女抱いたことねえよ。うらやましいぜ」
「だから、うっせぇよ! 俺は、愛が欲しいんだよ、愛が。ビジネスじゃねぇんだよ」
 また、みんなが笑った。
 俺達はもうすぐ三〇歳になる。他の奴の近況も聞いたけど、やっぱり俺が一番大きい会社で勤めてるみたいだ。その会社でも俺の営業成績は上々で同期の中でもトップクラスだ。今年中には課長になれそうな雰囲気だ。プライベートでも、そろそろ彼女と結婚しようかって雰囲気になっているし、確かに俺はみんなの言う通りリア充なのだろう。そんな俺に対して「ああいうタイプは一度挫折したら立ち直れないんじゃない?」って、陰口たたく奴もいる。だけど俺はわかっている。俺は挫折することなんて、もうないだろう。このまま世間の言うところのリア充のまま一生を過ごすんだろう。それは、あの時、悩むのをやめたから。あの時、答えを出すのをやめてしまったから……。
 中学二年生の頃、俺は二ヶ月程、不登校になった。俺の唯一の挫折だ。だけど、当時の同級生でさえ、俺にそんなことがあったなんて忘れているだろう。三年の頃にはもうリア充な生活を満喫していたから。
 あの時、何故学校に行けなかったのか自分でも不思議だ。別にいじめにあっていたわけじゃない。成績が悪かったわけでもない。友達だっていっぱいいたし、部活だって頑張っていた。思春期だったけど、親ともめていたわけじゃない。ただ答えを探していたんだ。これからの人生を生きるために必要な答えを。
 不登校といっても、家の中にひきこもっていたわけじゃなかった。朝になると普通に制服を着て出かけていた。だから二日くらいは、ばれなかった。でも、担任から「最近、学校来てないですけど大丈夫ですか?」って電話があって、親に問いただされた。だけど、俺は動じなかった。「なんで学校行かないんだ」って、親にも担任にも、部活の顧問にも、友達にも言われたけど頑なに黙り続けた。学校なんかよりもっと大事なことを俺は悩んでいたから。
 それからも俺は朝起きると街に出て図書館に行ったり、古本屋街をぶらつき、片っ端から難しそうな本を読み漁った。哲学書、数学書、古典文学、自然科学から宗教、あと、怪しげな魔術の本からカウンセリングの本まで中学生が思いつくあらゆる難解なものに手を出した。
 最初、俺は答えが出るまでは学校なんて戻る気はなかった。答えを求めている自分に酔っていた。誰に怒られようと、あげくのはてに病院を勧められようと、腹ん中で、「つまんねぇこと言ってんじゃねぇよ」って周りを蔑み、自分だけが今、真理の道に進んでるんだって、興奮していた。だけど、そんな興奮も長くは続かなかった。いくら難しい本を読んでも、いくら考えても答えは出なかった。答えが出なければ死んでもいいなんて思っていた俺の決意は、脆く薄いみせかけのものだった。ろくに寝ないで朦朧とした意識の中で俺の出した答えは、答えを出さないことだった。そう、答えを出さないのが俺の答えになった。それは、ありふれた、つまらない答えだった。
 そして、なにもなかったように学校に戻った。でも、戻ってみると意外と心地よく、気づけば俺はリア充になっていた。周りに溶け込み、周りから好かれ羨望され、非の打ち所のないリア充になった。そして今も変わらずリア充のままだ。
 俺は今の自分になんの不満もない。このまま周りに羨ましがられながら生きていくんだろう。でも、ただ一つ悩みがあるとすれば、時々、夜寝ようとするとあの頃の俺が現れることだ。
 あの頃の俺は焦燥しきった顔で俺に問う。
「俺はなんの為に生きているんだ?」


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このストーリーに関するコメント

15/10/21 こうちゃん

つつい つつ様、拝読させて頂きました。仲間からは羨望の的の主人公。三十歳という節目に周りを見渡しても公私ともに出世頭。しかし、不登校時代の自分が疑問を投げかける。「幸せの価値観」というのは本当に十人十色ですね。私はもうすぐ四十歳になりますが、苦しかった時の方が、「生きていた」と思い出す印象が強いです。

15/10/23 つつい つつ

こうちゃん 様、感想ありがとうございます。
自分の価値観が幸せなのか、あきらめなのか、負け惜しみなのか悩む毎日です。確かに、苦しいときほど、自分のいろんなものをふりしぼっていたり、ふししぼらされたりで印象に残りますね。

15/11/08 光石七

拝読しました。
リア充でも、いやリア充だからこそ、余計に本質的な疑問が顔を出すのかもしれませんね。
「何の為に生きているのか?」、この問いに対する明確な答えと信念をもって生きている人がどれほどいるでしょうか。探そうとする時期はあっても、答えは出ず、結局曖昧に、時に誤魔化しながら日々を生きる。それでもふと思い出すこともあって……
人生について考えさせられる、深いお話でした。

15/11/08 つつい つつ

光石七 様、感想ありがとうございます。
明確な答えが出ると人生は楽しいのか、さらに難しくなるのか。でも、一度くらい答えが出てほしいと思ってしまいます。

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