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夢の役割

15/10/19 コンテスト(テーマ):第九十三回 時空モノガタリ文学賞【 憂鬱 】 コメント:2件 kanza 閲覧数:996

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 高校からの友達である香織が結婚するという話しを聞いた日、私と真衣は居酒屋に足を運んでいた。亜子、ナミに続き香織も結婚が決まり、残された31歳独身女2人としては祝福する中にも複雑な思いがあり、ハイピッチでグラスを傾けていた。
 特に真衣は1年付き合った彼と別れた直後なので、酔いのまわりが早かった。居酒屋をでた後も、「次、行こう」とハイテンションで、たまたま目に止まった見知らぬBARに入っていってしまう有様だった。なのに、カウンター席につくやいなや、注文したカクテルがだされる前に寝入ってしまった。
 うなだれるようにカウンターに横たわる姿を見ながら、私は思わずため息をついた。今の彼とは付き合い始めてから9年にもなる。劇団員である彼はバイトしながらなんとか生活している状況で、とても結婚なんて話しにはなりそうもない。
 最近、夢の中にもウェディング姿の自分がでてきたりして、朝起きると、ブルーな気分になることがある。
 口元にグラスを運ぶまでの間が次第に短くなっていく。
 知らぬ間に、私も眠りに落ちていた。
 ふと気付き、体を起こすと、隣には相変わらず寝息を立てる真衣の姿がある。カウンターの向こうには、グラスを見つめながら磨くマスターの姿がある。そして、もう一方の隣の席には見知らぬ男性の姿があった。
 スーツを着た30代前半のビジネスマンといった感じの男性は、おもむろに会釈をし、柔らかな口調で名を名乗った。
 誰? 
 その珍しい名前を耳にし、ひとりの芸能人が浮かび、動物を連想した。
 そのことを口にすると、彼は二コリと微笑んだ。


 喫茶店の窓から見える空は雲ひとつなく晴れ渡っている。今朝まで雨が降っていたのに雲はあっという間に消えた。
――雨は三日でやんだのに……
 その歌詞が頭の中でリフレインしている。
 どこで耳にした歌だろうか。なんという歌かも、誰が歌っていたのかもわからない。
 記憶が散乱しゴミ部屋のようになっている頭の中から、それを追い求めることは難しい。そんな気もない。
 ゴミ部屋からみる空はいつも厚く黒い雲に覆われている。だけど、いっこうに雨は降ってこない。いっそうのこと、降ってくれればと思う。そうすれば今日のような空へと変わるのに……いつまでも、ゴミとともに私の心を圧し潰し続けている。
 テーブルの上に転がるくしゃくしゃのストロー袋に、アイスコーヒーをひと滴落す。
 くねくねと動きだす様は、のたうちまわる生き物のようで自分と重なる。
 ちょっとしたことでさえ気になるようになったのは、いつからだろうか。ひと晩寝たら忘れられたようなことでさえ、ゴミとなって部屋に積もっていく。いくつものゴミ袋が空間を埋め尽くしている。どうしたら整理することができるのだろう。どうしたら捨てることができるのだろう。大事なものでさえ埋もれていく。私もその中に埋もれ、もがき苦しんできた。そして、いつからか、ただぼんやり窓の外を見つめるようになった。
 いつから……だろう。どうして……だろう。
 手近なゴミ袋を手にとり開けてみる。
 居酒屋で真衣と飲み、その後、どこかのBARにいった記憶が転がるようにこぼれでてきた。
 どれくらい前だっただろうか、数週間前? 数カ月前? そこで男と握手をした気がする。確かその時、彼は何かを言いながら手をだしてきた。なんと言ったのだろう。
 あぁ、彼の名を思いだした。上の名は覚えていないが、下の名は――ばく。
 そう、彼はバク。そうか、だから彼はあんなことを言っていたんだ。
「これからの貴女の夢をいただけませんか?」
 私は笑ったと思う。「バクだから夢が食べたいんだ」とおどけていたと思う。
 酔いが残っていたからなのか、それとも目覚めてから彼と一緒に飲んでいたのか、かなりハイテンションだった気がする。 
 あぁ、私、あの頃、嫌な感じの夢ばかり見ていたなぁ。
 だから、「どうぞどうぞ、お食べください」と、はしゃぎながら彼の手を握ってあげたのかなぁ。
 
 
 そういえば、ずっと夢を見ていない気がする。だからといって、どうということはない。夜眠れないわけではないし、ただ夢を見なくなった、それだけのこと。
 目の前のアイスコーヒーは汗をかき、グラスが曇っている。
 冷たい汗?
 喫茶店の窓からは真っ青な空が見える。
――雨は三日でやんだのに……
 歌詞が再びリフレインし始めた。
 ゴミ部屋から見える空は厚い雲で覆われつづけている。
 私はぼんやり窓の外を見つめている。
 いつから……だろう。どうして……だろう?
 ねぇ、どうして?
 ねぇ、どうしてなの?
 おしえて。


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このストーリーに関するコメント

15/10/23 光石七

拝読しました。
友人に先を越され、彼はいるものの結婚には程遠い、そんな主人公の姿がとてもリアルに感じました。
夢のせいで嫌な思いになることもあるけれど、夢を全く見なくなったら……
夢には人の心を整理する役割もあるのかもしれませんね。
一文一文が洗練されていて、些細な描写にもドキリとさせられます。
面白かったです。

15/10/24 kanza

光石七様

お読みいただき有難うございます。

どうやら私たちは、起きたら忘れていることが多いだけで、毎日夢は見ているそうです。
その夢には大きな役割があるようで、情報の整理、記憶の定着、ストレス解消、精神の安定、そして、未来への思いなど、重要なもののようです。
だから、見れなくてもたいしたことはないようで、実際はこんな憂鬱日々になってしまう? そんな思いで書いてみました。

ご感想いただき大変嬉しく思います。

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