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白化

15/10/18 コンテスト(テーマ):第九十四回 時空モノガタリ文学賞 【曖昧】 コメント:0件 佐々木嘘 閲覧数:908

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嘘みたいな白い髪の毛と白い肌と白い睫毛。
白人の様な容姿の透はハーフでもクォーターでもなく純粋な日本人だ。
彼は紫外線に対する耐性が低い為常に白い皮膚を衣類で隠し過ごしている。

お互い6歳とまだ幼かった頃。隣に越して来たと母親と訪れた透の姿は、当時夢中だった絵本に出てくる天使だとか妖精だとかそんな空想上の生物のようにしか思えず、目の前に居る男の子がホンモノの人間なんだと認識するまでにたっぷりと時間を費やしてしまっていた。
先天性白皮症、通称アルビノ。


「陽ちゃんは普段学校で何してるの?」
「お友達と鬼ごっこや縄跳びをしてるよ」
「へーいいなぁ」
「うん。すっごくたのしいんだ!」

平日の夜は透の家で夕食を摂るのが日課で、食べ終わると意気投合した母親二人は紅茶を飲みながらお喋りをし、私達は絵を描いたりして過ごしていた。
その頃の私は当たり前だけれど無知な年齢で、気を遣うだとか相手の気持ちを汲み取るなんてこれっぽっちも出来ず、自分が好きなものは相手も好きだという素直な思考をしていた。だから学校に通えず昼間の紫外線を避け、夜にしか自由に歩けない透に私はその日学校で起こった楽しかった出来事を話すことはとても残酷だったのだろう。

「透も早く一緒に学校に行って沢山お外で遊ぼうね」

私は透が好きだった。美しい容姿と優しい心を持つ透が大好きで、ただ純粋に一緒に楽しいを共有したい。それだけだったから。出会って一年がたったある日、母親から突然彼が引っ越すと聞かされた時、本当にどうしていいかわからなくなったんだ。

「透!」

私は怒鳴り込む勢いで隣の家に上がり込んだ。
透の母親が止めようとする手を振り切り透の部屋へと入り込む。

「よ、うちゃ…ん」
「馬鹿!なんで急にいなくなるの!?」

既に透は泣いていた。白く美しい睫毛を濡らしながら顔を真っ赤にし涙を流している。目が合うととても驚いた顔をしたけれどすぐに身体ごと反対方向へ向けられた。守るようにぎゅううっと膝を抱え込んで座っている。

「ご、めん…ごめん。僕は…陽ちゃんがだいすきなんだ、…でもすきなのに。だいきらいなんだ」
「…え、?」
「ぼ、僕はみんなと違って真っ白で、学校にも行けない、お日様の下で遊べない…から、陽ちゃんの話を聞く度にうらやましくて、…うらやましくて…」
「…とおる…?」
「身体はこんなに白いのに、心はどんどん黒くなってしまったんだ。…ぼくは、よわいから…」
「とお、…」
「陽ちゃんを見ることが、僕はもう嫌なんだ」

殴られたような衝撃が襲う。透は今、はっきりともう私を見るのも嫌だと言った。
震えるその背中は私にこれ以上近づかないでと訴えている。

そしてその背中を見て初めて自分は透に酷いことをしていたのだとくっきりと自覚したんだ。それは胃を抉るようなとてつもない後悔。私は普通に遊ぶ事も、学校にも行けない透を傷つけていた。なんで気づかなかったんだろう。私の当たり前は透の憧れだったんだ。
こんなにも純粋無垢で優しい透の心を、私はずっと無邪気に切り刻んでいたんだ、と。

「…ごめん、…僕は逃げるから。ごめんね」

謝らなければならないのは私なのに。透は決して私を責めなかった。

「だから」
「え?」
「だからもし大人になってもう一度陽ちゃんに会えたら、僕の一部を陽ちゃんにあげる」
「…一部?」
「調べたんだ。僕の、アルビノの身体の一部を持てば幸運になれるんだって」

蚊の鳴くような声だ。
何でそんな事言うの?一部なんて要らない私は透と出会えただけで幸運なんだよ?
でも今の小さく未熟な自分にはそんな事を言えなかった。開きかけた口を閉じ、ぎゅっと右手を握り締める。

「……わかった」
「その時は今よりもっとつよくなるから、もう逃げないから…」
「わかった約束!大人になったら絶対見つけ出す!私も強くなるから!そしたら透を貰うからね」

絶対絶対約束だよ、と大声で告げると私は部屋を出た。扉を閉めその場で数秒待つと透の泣きじゃくる声が外まで聞こえる。
私は泣かなかった。泣く資格など無いのだとはっきりわかっていたから。
そしてさよならも言えずに翌日の晩、透の家族は引っ越してゆく。何処へ行くのかは知らないまま。


「ねぇ。佐川透って知らない?」

月日は流れ私はもうすぐ成人する。新しい場所で新しい人に会う度に今の質問をし続けていた。
でももしかしたらこの地区には県には地域には、それか日本には居ないのかもしれない。それでも必ずもう一度透を見つけ出す。子どもの曖昧な口約束を果たす為に。もう私はあの頃の無知で未熟な子どもではないのだから。

「その人に会ってどうするの?」
「一部と言わず根こそぎ頂くんだ。そして幸せにしてあげたいの。大切な人だから」

それは嘘みたいに白く、美しい男の子。


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