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鮎風 遊さん

この世で最も面白い物語を見つけ出したい。 そのために、ひとり脳内で化学反応を起こし、投稿させてもらってます。 テーマに沿った個別物語の他に、いくつかのシリーズものをコツコツと書き続けさせてもらってます。 その主なシリーズものを紹介させてもらいます。  ☆❤☆❤☆ 新シリーズ 『ツイスミ不動産』 __ 2017.07.16よりスタートさせてもらいました。 カサリンとクワガタ野郎があなたが求める終の棲家を紹介いたします。  ☆❤☆❤☆ 『刑事 : 百目鬼 学(どうめき がく)』 __ 2017.05.21 ただ今、27話 __ 1話完結の2000文字推理小説です。この少ない文字数の中で、百目鬼刑事と部下の芹凛(せりりん)がいかに事件を解決していくか、その醍醐味を味わって頂ければ、光栄です。 これからも引き続き難しい事件に挑戦して参りますので、よろしくお願いします。  ☆❤☆❤☆ 『漢字一文字の旅』 __2017.04.04 ただ今、連載41__ 漢字にまつわるエッセイです。  ☆❤☆❤☆  『歴詩』 __歴史上の人物になりかわって、その波瀾万丈の生き様の思いを詩に綴らせてもらってます。 本作品については、フォト音(on)小説という形で、you tubeにもUPさせてもらってます。 詳細はこちらHPです。  ☆❤☆❤☆  http://ayukazeyuu.net/index.html  ☆❤☆❤☆                         よろしくお願いします。              

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実家、もう何も後悔しないぞ!

15/10/15 コンテスト(テーマ):第九十三回 時空モノガタリ文学賞【 憂鬱 】 コメント:9件 鮎風 遊 閲覧数:1466

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 実家の草刈りに取り掛かり、10分も経っていない。それなのにガーガーと回転する刃を止め、一郎はよっこらせと庭石に腰掛けた。それからだ、いかにも自虐的に「2メートル進んで、もうクタクタ。俺は根性なしだ」と吐き、ペットボトルの茶をゴクゴクと飲む。
 それにしてもこの現実をあらためて直視すれば、この空き家で何年も草と戦ってきた。だが雑草はお構いなしに生えてくる。そしてヤツらは勢いよく伸び続け、やがて大地を牛耳る。その前に刈ってしまわなければ、辺りは廃墟と化す。それを阻止するため、一郎は草刈り機を武器にせめぎ合ってきた。
 しかし、たとえ完璧なまでに刈り込んだとしても、決してその勝利に酔えるものではない。その理由の一つは、生命力の強い雑草には決して勝てないという諦めがある。
 二つ目は、それ以上に、草刈りは――田舎を捨て、町の暮らしを選択した子孫、一郎への先祖からの面当て、いや容赦しない労役だ、と捻れた思いに心を腐食されてしまっているからだ。
 とは言っても、こんなことは大した話しではない。この男にはもっと憂鬱なタスクがある。そう、それは実家の処分。
「この家を、一体どうしたらよいのか?」
 何回もこの自問を繰り返してきた。だが答えは未だ見付かっていない。そして結局は先送りする。今回も同じ、「結論はまたにするか」と棚上げし、草刈りの続きへと重い腰を上げるのだった。

 一郎の父は15年前に他界し、母は3年前に逝った。そして残されたものは田舎の屋敷と土地。当然そこには膨大な遺品、すなわち思い出の品や価値ある物品、と言いたいところだが、値打ち物は少々で、あとは不要物の山なのだ。
 母が没してからすでにトラック7台分を処分しただろうか。費用もかなり嵩んだ。しかし、まだまだ整理が付いていないのが現実だ。
「なぜ、こんなに残したの?」
 父と母に聞いてみたいが、それはきっと、大正、昭和、平成と三時代を生き抜いた両親の、もったいないという心掛けの結果なのだろう。一郎は昭和生まれであり、その美徳を充分理解できる。だから両親をなじる気持など微塵もない。
 しかし将来を見据えれば、一郎も、都会で働く子供たちも田舎の家には戻らないだろう。
 されどもそこに家が現存する以上、固定資産税や諸々の費用が掛かり、またメンテも必要だ。ならば売ってしまおう、考えがこう至っても不思議ではない。そこで査定にと不動産屋に来てもらった。しかし、結果はまことに非情なものだった。

 不動産屋がにこやかに話す。
 まず、更地にしないと売れません。そのためには屋敷を取り壊し、庭にある大きな石を取り除く必要がありますね。一応試算してみますと、更地にする費用と売却金とがほぼ同額でありまして、言ってみれば価値はゼロに近いでしょうな。それに買い手が付くかどうか、私どもには自信がありません。
 こんな報告を受け、一郎は愕然となる。だがここは踏ん張って、「じゃあ、賃貸にします」と申し出た。
 これに担当者は苦笑いし、賃貸のためには家の中を空っぽにしてください。だけど最寄り駅まで徒歩1時間、バス便なし。これではちょっとね、借り手が付くかどうか、と申し訳なさそうな顔をして項垂れた。そして一郎もガクッと肩を落とすしかなかったのだ。
 不幸にも相談はこんな結末だった。しかしそうであったとしても、一郎があえて話さなかった難問中の難問がある。すなわち仏壇問題を抱えていたのだ。
 神々しく光る巾一間の仏壇、一郎の祖父が戦前カナダに出稼ぎし、持ち帰った金で購入した逸品だ。これはじっちゃんの魂が入った形見でもあり、その前で拝めば、一郎の願うことをよく聞いてくれた。そのため手放せない。
 本来なら一郎の今の住居に移すべきだろう。しかし狭くて、大きな仏壇が収まるスペースなどない。
 という諸事情で、実家の売却/賃貸は甚だしく困難、そのため永遠に草刈りが続くという、まことに憂鬱な事態に陥ってしまっているのだ。

 キュン。一郎はさらに2メートル進み、草刈り機を停止させた。
 そして父が育て、母が愛でた薄紅のしだれ梅の枝を折ってみる。
 ポキッ!
 実に空虚な響きがする。きっと春先に撒いた除草剤で枯らせてしまったのだろう。
「あ〜あ、俺はこの梅も死なせてしまったのか」と自責の念で心が痛む。されど一郎は思うのだった。
 もう俺も歳だし、そろそろご先祖様のこの家への思いも、ポキッと折ってみるとするか。
 そうだな、俺は鬼となり、父母の生きた証が残る家を始末してしまおう。その役目を果たし、子供たちに呪縛なき未来へのバトンを渡そう。
 そのためには、そっ、これから起こる家の出来事は、もう何も後悔しないぞ!

 こう決意を新たにした一郎には、長年巣くっている憂鬱がほんの少しだけだが、どこかへ消えて行ったような気がするのだった。


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このストーリーに関するコメント

15/10/15 鮎風 遊

みな様へ

表紙画の上部の写真は
GATAG|フリー画像・写真素材集 1.0
ライセンス: creative commons
by:hans s

並びに、下部の写真は
GATAG|フリー画像・写真素材集 4.0
著作者: efanphotography v2 (改変 gatag.net)
ライセンス: creative commons
ID: 201410042000
から借りてきました。

よろしくご理解ください。

15/10/15 seika

大変ですねー、こういう問題は(^_^;)
不動産屋さんだって下手に手をたけたら厄介だけでかえって赤字になっちゃったりしますからねー。市街地化調整区域とか、いろいろ面倒なことがあり、書類の不備でまた測量し直しとかなっちゃったりして、おまけに行政指導食らったりと・・・。

15/10/22 光石七

拝読しました。
両親が遺した田舎の家をどうするか、難しい問題ですね。
私の近所にも住人の方が亡くなってそのままの空き家があります。
主人公が決意するくだりがスムーズで、でも説得力があって好きです。
草刈り機の描写も個人的にツボでした。
素敵なお話をありがとうございます。

15/10/23 泡沫恋歌

鮎風 遊 様、拝読しました。

これは実にリアルな悩みですね。
古家はどんなに立派でも売れないそうです。
更地にするとなると・・・もの凄い費用が掛かりますし。
このまま草刈りをするか、売るか難しい選択肢ですから苦悩は分かります。

15/10/24 鮎風 遊

seikaさん

コメントありがとうございます。
はい、大変のようです。
出口が見えず、
永遠に草刈りをしていかなければならない運命のようで。

15/10/24 鮎風 遊

光石七さん

コメントありがとうございます。
最近は遺品整理会社が大繁盛のようです。
だけど、これはという家具でも買い取りはしてくれません。
その反面、リサイクルショップに行くと、
時々お宝が超安値で売られているとか。
どうもバランスが取れてない世の中になったようです。

15/10/24 鮎風 遊

泡沫恋歌さん

コメントありがとうございます。
そうですね、
今の世の中で、残された者の実にリアルな憂鬱かと。
日本の田舎は崩壊したと言えるでしょう。

15/10/31 草愛やし美

鮎風遊さん、拝読しました。

これは現代社会の大問題になっていることですね、私も友人達から聞く話です。田舎の家は大変な重荷。友人は岡山の山奥にある実家へ毎月行っています。姉妹で大阪からです。もちろん、草刈に行くのです。草なんて生やしておけばは禁句だそうです。ご近所さんが文句を言ってくるらしいです。「あなたの家だけ手入れできてない、みっともない。村の恥だ」まあ、そんな言葉が浴びせられる。家が堅牢ならまだいいようですが、古くなるにつれ危険だと言われかねない。
両親亡きあとに、こういうやっかいなお荷物が来るなって誰も想像していないでしょう。子供である世代も老齢、先を考えるとほんと心細くなると察します。やはり、プラマイゼロでも始末しなくては……なのでしょうね。

一郎さん頑張ってください、あなたの子供さんにまでこの問題を相続させないようにね。いやほんま憂鬱そのものやろなあ。

15/11/04 そらの珊瑚

鮎風 遊さん、拝読しました。

今日本のあちこちでこういった空家問題があると聞きます。
夫の実家がまさにそれでした。
大きな仏壇を引き取ってもうちにはおくところがないし。
なんとか今は解決しましたが、ほんとに人ごとではないですね。

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