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佐々木嘘さん

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さよなら地縛霊

15/10/09 コンテスト(テーマ):第六十五回 【 自由投稿スペース 】 コメント:0件 佐々木嘘 閲覧数:1056

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嘘つき


口を尖らせてそう呟いた。びゅうびゅうと冷たい風は容赦なく身体に吹き付けて来る。今なら手を伸ばせば飛ぶ鳥にも届きそうだと思いながら空を見上げた。涙なんて出すものか。





このビルはこんな田舎ではまるでCGみたいに見える高層ビルだ。
山や畑、古臭い日本家屋や崩壊寸前のボロアパートばかり溢れているのに都会に憧れた馬鹿な元市長が住民の反対を押切って税金を使い込み数年かけて建設された。
けれどこんな地域にそぐわない高値の家賃と交通に不便な位置に存在するせいでビルの内部は隙間だらけだった。

夕方になってもあまり光の灯らない真っ暗なこのビルはただただ邪魔なだけの存在になりつつあるが、私はとても気に入っている。手の甘い管理体制の為こんなにも簡単に屋上へと行けるから。



屋上から見下す景色には高揚感を覚える。
考えてることを考えなくさせてくれる唯一の場所。
地元と呼ばれるこんな田舎は私には胸糞が悪すぎた。




「こんばんは千鶴ちゃん、今日も眉間に皺が寄って3割増しでブスだよ」
「うるせぇ」
「わっ機嫌悪ーい。やだやだ女って感情的で」
「うっさいガキ」
「ガキじゃないですー、生きてたらもう34歳ですー」


半年前一人になりたいと思って訪れた高層ビルの屋上にはもうすでに先客が居た。
入学したてのような小学生の男の子。体が小さすぎて黒いランドセルに背負わされているようなその男の子は隅っこのベンチでじっと鳥を眺めていた。とても冷たい視線と紡ぐ不思議な子。

でもその後わかった事だけれど、あの時やっぱり屋上には私一人しか存在してなかった。


「あれ、お嬢さん高校生?こんな遅い時間に来るなんて危ないよ」


小学生がお嬢さんて何言ってんだコイツと思わず露骨に顔をしかめた。こんな時間にこんな場所でこんな子がどうして一人で居るんだろうと考えたけど、すぐにその意味は理解した。


「はじめまして。どうも地縛霊でーす」
「………あ。ああ、そういうこと。あんた幽霊か」
「え!ナニソレ反応薄っ!つまんないーもっと驚いてよーきゃあ怖いーとか言ってー」


あの日こっちは今にも死んでやろうという意気込みで鼻息荒くバスを乗り継ぎわざわざ来たというのに、その小学生地縛霊の人を小馬鹿にするようなゆるい空気に呆れ果ててしまい、結局何も出来ないまま帰宅してしまった。

帰り際、また来てね俺はいつもここに居るから、なんて馴れ馴れしく言ってきたので、さっさと成仏しろ、と口悪く告げ私は屋上をあとにする。でも帰りのバスに揺られながら、誰かとこんな風に会話をしたのは数年ぶりだったなと思い、不覚にもほんの少しだけ口元が緩んでしまった。







「あ、千鶴ちゃん。今日もよく来たね」
「…あんたに会いに来たんじゃない、一人になりたいの」
「えー、一人じゃないじゃん俺が居るじゃん」
「おめーは死んでんだろ」
「あはは、そうだったねーでもその言い方冷たすぎてちょっと俺でも傷つくわ」


地縛霊はケラケラと笑う。小学生にちゃん付け呼ばわりされてるこの絵面は気に入らないが本人曰く生きてれば年齢は34歳になるらしい。
うっせーおっさん、と私は吐き捨てる。

本当は来たくも無かったが他に一人で居られる場所は此処しか思いつかないので結局週に1度のペースでこいつに顔を出す事になってしまった。

決してこいつに会いに来たわけではない。










いやー28年前に丁度此処でひき逃げにあってね今でも幽霊やってんの
しかも近道しようと変な道で帰ったからさ誰も俺が死んだの気づいてくれないし寂しすぎ
その上今まで静かに過ごしてきたのに急にこんなビル立てるんだからね、もう毎日毎日うるさくて切れそうでこのビルにとり憑いてやろうかと思ったわけよ
でも正直ここはもう飽きたわ、いい加減生まれかわりてぇー
そうだな次は鳥がいいな。空飛びたいし。高いところ好きだし。
ところでその制服ってどの高校?最近の服はおしやれだね。スカート短すぎてパンツ見えるわ



この地縛霊は聞きもしないのにいつもとてもお喋りだ。
あーはいはい、と適当に聞き流し、私は考えを止めるように考えていた。


それでも今日あったこと、昨日あったこと、去年のこと、昔のこと。
思い出したくもないとのに脳は勝手に再生を始める。
嫌な映像ばかり浮かんできて、どうしていいかわからない。



田舎は本当に窮屈だ。噂は尾ひれ背びれがついて一人でに泳ぎまわる。一度仲間はずれに合えば二度と平穏は取り戻せない。
少人数特有のグループ意識の強さと毎日毎日飽きもせず机に花瓶を置いたりノートに落書きをするなどいじめ内容の幼稚さに腸は煮えくり返るが、それを止めようとする教師も話を聞いてくれる友人も居ないのが現実だ。

ただただ生きた亡霊のように、気配を消しながら過ごす毎日。



別に助けて欲しいわけじゃない。
原因が何なのかもちゃんとわかっている。
それでも死んだほうがマシだと思ってしまう私はとても弱い。











「ねぇ千鶴ちゃん、学校楽しい?」


その日、自分語りばかりの地縛霊が珍しく尋ねて来た。


「別に…楽しくなんてない」
「そっか」


そっかそっかーと続けて独り言のように呟く。
私はついさっきまで学校で蹴られ、水をかけられ、髪の毛を切られてとても殺気立っていたので地縛霊の曖昧なその態度がやけに癪に障ってしまった。


「何よ、言いたいことがあるなら言えよおっさん」
「いやいや、別に…何も」


わかりやすいくらいはぐらかそうとするその台詞に余計に腹が立つ。イラッときた。
最近ふとした時、自分がとても脆いと感じる。

それはきっとこいつのせいだ。
せっかく今まで死んだ眼をしながら一人で耐えて来たというのに、ほんの少しだけこいつに心を開いてしまったからだ。
少しでもつつかれるとこんなにもすぐ泣きそうになるなんて。




私はつい感情的になり平手打ちをした。
けれどその手は地縛霊をスッとすり抜け当たりもしない。


「あ、」
「…あーあ、千鶴ちゃん俺に触れないんだから。…というか女の子がいきなり人を叩いちゃ駄目だよ」


一瞬、地縛霊は私よりも寂しそうな顔をした。
その時改めて思ってしまった。そうだ、こいつはもう死んでるんだ。


28年間ずっとずっと一人で過ごしていた。
私以外見えてない。
誰にも認識されていない。
本物の死んだ、




亡霊だ。









「うるさい!」
「……千鶴ちゃん…」
「そうよ学校なんて楽しくないわ!だっていじめにあってるんだもの」


山や畑、古臭い日本家屋や崩壊寸前のボロアパートばかり溢れているのに都会に憧れた馬鹿な元市長が住民の反対を押切って税金を使い込み数年かけて建設された。
その馬鹿な元市長は紛れもなく私の父親で、高層ビルが完成すると同時に追放される形で退職した。
母はすでに他界していて自業自得なのに勝手に心を病んだ無職の父と娘の私は二人で暮らしている。


外を歩いても、学校へ行っても、どこへ行ってもこんな田舎の中では私はあの馬鹿の馬鹿娘というレッテルが張り付いている。
この地域全体が私と父を嘲笑い、貶していいという暗黙のルールになっていた。


--見て、あの子よ。あの馬鹿の娘
--本当あのビルだって今では邪魔なだけだしね
--親子共々早く消えて欲しいわ
--お前もう学校来んなよ、ばーか
--先生思うんだけどあなたもう退学した方がいいわよ。その方が学校のためにもなるし


外へ出れば顔も知らない人達に、学校へ行けば生徒からも教師からも馬鹿娘だと笑われ、憂さ晴らしの標的となっている。






「私は悪くない…悪くないのに…なんで、…なんで私だけこんなに苦しいの」


なんで私ばかりこんな目に合わないといけないんだろうと毎日思っていた。
毎晩毎晩死にたかった、死んでやろうと思った。けれど私は臆病で、死ぬことすら怖くて出来やしない。


私は生きた亡霊じゃない、馬鹿娘じゃない、見下され貶されていい女なんかじゃない。
千鶴という名前の一人の人間なんだと大声で伝えたかった。





「…千鶴ちゃん、僕はねずっと此処から君を見ていたよ。猫背で俯いて歩く姿も、教室でのけ者にされる姿も、指をさされて笑われてる姿も。」
「うう…うっ…」
「見ているだけでごめんね、助けられなくてごめんね。僕は地縛霊だから。頑張ったね、逃げなかった君は強いよ」


地縛霊は触れるか触れないかの距離で頭を撫でる仕草をする。


「もしかしたら僕は千鶴ちゃんを慰めるために28年間ずっと此処にいたのかも。ね?」


冗談みたいな優しい言葉に私はまたしゃくりあげるように泣き喚いてしまう。
6歳の子になだめられる16歳なんて。

でも今は、この子の前では人間らしく居たいと思った。


「ずっと僕は此処に居るから。辛くなったらまたおいで」

予想外の台詞に思わず顔を上げて地縛霊を見つめる。すると彼はにっこり笑って、何その可愛い顔ちゅーしたい、なんてからかって来たので慌てて私は、うるさい、と真っ赤になった顔を隠した。
地縛霊は余裕な顔をしてにやにやと笑っているので余りの恥ずかしさにもう一度平手打ちをしようとするがやっぱり触ることは出来なかった。
珍しく戸惑ってる私を見て地縛霊はまた笑う。
そんなことをしていたら涙なんていつの間にか止まっていた。





「それじゃあ気をつけて帰って」
「…うん」
「千鶴ちゃん、僕に気づいてくれてありがとう」
「ん?うん」
「さようなら」














次の日私はバスを乗り継ぎビルの屋上へと向かった。
昨日は動揺しててすっかりお礼を言い忘れたと思ったからだ。
けれど屋上には誰も居なかった。人間も、幽霊も。
嫌な予感がしながらビルを丸ごと探したけれど地縛霊は本当にどこにも居なかった。



--もしかしたら僕は千鶴ちゃんを慰めるためにずっと此処にいたのかも。ね?

そんなのその場での思いつきの言葉だと思っていたのに、まさか彼は成仏したのだろうか。

何も言わずに、私を一人にして。








「嘘つき」


口を尖らせてそう呟いた。びゅうびゅうと冷たい風は容赦なく身体に吹き付けて来る。今なら手を伸ばせば飛ぶ鳥にも届きそうだと思いながら空を見上げた。涙なんて出すものか。


景色を見下すと田舎の風景が広がる。
丁度半年前、此処から飛び降りようしていた事を思い出した。






大丈夫きっと私は生き抜くよ。こんな高校早く卒業して、こんな田舎出て行って。やりたいことをやりつくして人生を謳歌して死んでやる。

けれどどうしようもなく挫けた時、もしかしたらまたこのビルに戻ってくるかもしれないから、そうなったとしても笑わないで欲しい。
少しの間だけ此処に残る思い出に浸させて欲しい。


私を置いてまで生まれ変わり鳥になりたいと言っていたんだ、せいぜい焼き鳥にされないよう次はしっかり最後まで生き伸びやがれと思った。

もう二度と縛られずに広い空を飛び続けてと願うばかりだ。











さよなら地縛霊



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