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悠さん

人見知りをします。

性別 女性
将来の夢
座右の銘 日の光を借りて照る大いなる月たらんよりは、自ら光を放つ小さな灯火たれ。

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曼珠沙華

15/10/08 コンテスト(テーマ):第九十四回 時空モノガタリ文学賞 【曖昧】 コメント:2件  閲覧数:1034

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久しぶりに夢を見た。あまりに幸せすぎて、壊れてしまった夢だ。
白く霞む世界の中、手探りで君を探す。
ねえ、会いたいよ。もう俺を見てはくれないのか。俺の中の君は、こんなにも眩しく煌めいているというのに。
手を伸ばした希望は脆くも崩れ去った。虚空を掴んだ右手がじわりと滲む。
泣きたい訳じゃなかった。体の内で猛る炎を、上手く制御できないだけだった。君を食い殺さんばかりの熱情を、押さえつけるだけで精一杯だったから。俺の中に残る君を、消してしまいたくなかったから。
「……な、んで」
ねえ、どうして。
「お前は…いなくなっちまうんだよ…!」
いつもそうだった。手に入ったと思えば離れて、心を許したと思えば躱されて…。それでも、君が向ける笑顔は、確かに俺を向いていたのに。
悲しさのような、恋しさのような、途方もない胸の痛みだけを残して、君は俺の前から姿を消した。
ねえ、どうして
弾けるような笑顔が好きだった。他を慈しむ柔らかな微笑みも好きだった。泣き顔も、怒った顔も、はにかんで俺の名前を呼ぶ、照れた表情も、全部全部、好きだった。
どうしようもなく、ただ、君が好きだった。
今はもう手の届かない場所にいる人。それを望んだのは君であり、選んだのは俺だった。
悔いてはいない。だがしかし、胸の裡に巣食う、身体中が痺れるような烈情を、俺は未だ飼いならせないままでいた。
どうしていってしまったのか、どうしていかせてしまったのかと、時折突き刺すような耳鳴りに襲われる。
もっと他に選択肢があったのではないか。脳裏を過るたび、掻き消してきた言葉だった。これが最善だったのだと、そう強く言い聞かせないと、自分が壊れてしまいそうだったから。信じ込むことで、俺は今もまだ、こうして新たに始まった日常を紡いでいる。
悔いてはいない。その言葉が何の意味も持たないことは、とうの昔に気づいていた。それでも隠し通すしかなかった。そうする術しか知らなかったから。

コックをひねり、カルキ臭い水を一気に飲み干す。健康のためにはこの方がいいと、買い置きしてあったミネラルウォーターは既に底をついていた。積み上げられた空のペットボトルの山。捨てようとするたび君の姿がちらついて、結局捨てられずにそのままとってある。君がここに居た面影を残すものを、処分する気にはなれなかった。
今頃、どうしているのだろう。どこか遠くで見守ってくれているのだろうか。それとも、俺のことなどすっかり忘れて、自由気ままに過ごしているのだろうか。…出来れば前者であってほしいと望むことすら、俺には許されないのだろうか。
カーテンから漏れる明かりが少しずつ光を帯びてきた。白んだ空に、薄く紫煙を忍ばせながら、その眩さを現す太陽の姿。自らの潔癖を見せつけるような神々しさに、俺は嘔気を催した。
競り上がってきた言葉諸共嚥下しようとして、失敗。空っぽの胃と心から、ずっと仕舞っていた感情が溢れ出す。

君のことが好きだった。好きだからこそ、君の望むままにしてやりたかった。その結果、君はいってしまった。手を離したのは俺だった。
矛盾していることは重々承知の上だった。でも、どんなに押し隠しても、本音を留め置くことなど、出来るはずがなかった。
鳴りを潜めていた雫が頬を伝う。

どうしようもなく、ただ君に会いたかった。


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このストーリーに関するコメント

15/11/07 光石七

拝読しました。
主人公の葛藤にリアリティがあり、断ち切れない恋の苦しさや切なさが強く伝わってきます。
“君”の描写はほとんどありませんが、おそらく主人公の熱い恋情には気付かずに行ってしまったのでしょう。「もしや愛してはいけない相手……?」なんてことも少々考えてしまいました。
素敵なお話をありがとうございます。

15/11/09 

光石七 様
コメントありがとうございます。
テーマが曖昧ということで、"君"についての描写をできるだけファジーにしてみました。
"君"と主人公の関係性や、"君"自身についてなど、色々な想像をしながら読んでいただけたのなら幸いです。

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