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佐々木嘘さん

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stickler for cleanliness

15/10/07 コンテスト(テーマ):第九十三回 時空モノガタリ文学賞【 憂鬱 】 コメント:0件 佐々木嘘 閲覧数:957

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カーテンが踊る。そして偶然その裾が首筋の皮膚に触れると彼女はどうしようもなく不愉快な顔をした。久世、窓閉めて、と命令するように言うと藤野は鞄から除菌シートを取り出して自分の首を赤くなる程擦った。
教室のカーテンなど複数の人間が触れ、雨水を染みこませてる汚らわしい布だと言わんばかりだ。

除菌シート、アルコールスプレー、3Dマスク、ナイロンの白手袋。
高校生である藤野の身体はこの4つで守られていた。



世界は汚れで満ちている。

潔癖な彼女には誰一人として触れる事は出来なかった。
勿論僕も汚れの対象に違いない。

「あはっ、本当に息をするのも苦しそうだね」

窓を閉めながらか皮肉を言うと藤野は露骨に顔を顰める。

「うるさい」

その声には手に負えない苛立ちが篭っていた。






昼休み。からかい半分のクラスメイトが藤野を触った。どういうわけか突然男子数人には囲まれその中の一人の男が意図的に触れたらしい。しかも悪戯にしては悪質な事に剥き出しの皮膚、彼女の顔面を汚れたその手でべったりと撫でたのだ。

「ひっ、」

その瞬間勢いよく後ずさり椅子から落ちてその場に倒れ込んでしまった。あろうことか彼女が一番不快に思う汚れた床にその綺麗な身体を預けてしまったのだ。これはまずい。そう思った僕は急いで箸を起き直様鞄から手袋を取り出して両手に嵌める。

しかし僕が近寄るその前に藤野は自分の机の上のシャーペンを握り締めると渾身の力でその男の額に突き刺した。
それはズブリ、と。えげつなく皮膚に食い込んだ。

「うぎゃああああ」

男の悲鳴は廊下中に響く。余りに突然の声に何事かと一斉に動揺する。怯える人、驚く人。教室は一瞬にして騒然とした。
でも内心冷静な僕は、あーまたかと思っていた。そして野次馬数人を掻き分けて座り込んでいる彼女の側へと歩いて行く。

「はいはいちょっとごめんね。ほら藤野立て保健室行くぞ。あとお前も藤野が潔癖症って知ってて何で触るんだ。冗談じゃ済まねーよ」

一応手袋をした右手を藤野に差し出すけれど彼女は触りもしないで自分で立ち上がった。顔と手洗ってくる、とぼそっと告げると自分の鞄を持って教室を出る。入れ違いになるように教師が現れ男と保健室へと運んで行った。


教室は見事に静まり返る。でも誰一人として微動だにしない、言葉を発っせない状態だ。
だから僕は誰よりも先に自分の席へ戻りお弁当を食べる作業に戻った。すると釣られて2・3人が通りに動き出し、数十分にはいつもの日常に戻っていた。まるで何事もなかったように。


こんな事は何度目だろうか。そして僕はいつの間にか除菌シートや手袋を常に持ち歩くようになってい。それは自分ではなく常に側に居る藤野の為だ。

それでも手袋を嵌めた手でさえ藤野は嫌う。彼女の潔癖は日を増すごとに悪化されていた。
僕は真剣に彼女はこの先一生消毒用のアルコールがたっぷりと入った水槽の中で眠り続けた方がいいと思っている。清潔な物に囲まれて、緩やかに呼吸が出来るように、安眠出来るように過ごして欲い。



「私は悪くないよ」

目も合わせないで彼女は言った。肯定して、と訴えるいつもの藤野の口調だ。彼女は否定をとても嫌う。自分は世界を拒否している癖に、藤野はとても身勝手だ。

「そうだね」

換気をしてない教室に埃が、生気が、二酸化炭素が篭ってゆく。
僕には当たり前なこの空間も、彼女は上手く呼吸も出来ない。

「久世」
「…何?」
「………私だって触れたい。でも、…触れる事は、触られることは不快よ」

彼女の顔にはいつも濃いクマが、眉間の皺が、可哀想なくらいはっきりと刻まれていた。
藤野だって沢山足掻いたんだ。でも彼女の強迫性障害はカウンセリングでも行動療法でも治らなかった。だったらもう諦めよう。

「僕も藤野に触れたいな。でも、それは嫌なんだろ?」

ナイロンの白手袋を嵌めた藤野の右手をじっと見つめる。その視線を感じ取り一瞬彼女はびくりと肩を震わせると咄嗟に手を引っ込めてしまった。無言の拒否反応だ。

彼女は決して言葉では拒まない。けれどその清い身体は汚い物としてしか僕を認識してくれなかった。

「ふっ」

僕はひっそりと笑った。その笑いは諦めなのか本当に可笑しいのか自分でもわからない。
そして鞄からシャーペンを取り出して反省文の用紙に雑な筆跡で一言だけ記入した。

自己防衛です

「出来た、もう帰るぞ。早く風呂に入って着替えて消毒して眠りたいだろ?」



恐らく彼女は治らない。だから僕が彼女を清潔な部屋で過ごさせてあげないと。穢れのない部屋でマスクも手袋も無く安心して生きれるように。その部屋に僕は入ることすら出来ないけれど。


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