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ちほさん

心のあたたかくなるお話を じっくりと書いてみたいです。

性別 女性
将来の夢 童話作家。
座右の銘 たいせつなのは、どれだけたくさんのことを したかではなく、どれだけ心をこめたかです。(マザー・テレサ)

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うしろの正面だあれ?

15/10/07 コンテスト(テーマ):第九十四回 時空モノガタリ文学賞 【曖昧】 コメント:0件 ちほ 閲覧数:1112

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 定禅寺通りで信号待ちをしていると、豪より少し年下の謎の少年に出会った。華奢な体つきの少年の豪を見る目は、怯えながらも喧嘩を挑もうとする子犬の目のようだった。少年は、どこか意地のように豪に話しかけている。東京の学校のこととか、自分のこと。仙台にいるより東京にいる方が生きやすいこと。その理由はもちろん……と言いかけて、少年は言葉を止めた。そして、びっくりしたように訊いてきた。
「もしかして、ぼくが誰だかわからないの?」
「……」
 少年は、うつむき加減でフッと暗く笑い、そして豪の顔を睨みつける。
「おまえなんか、地獄に落ちろ! そうなると、ぼくは嬉しいよ! たぶん……」
 今にも消えてしまいそうな少年の姿に、思わず豪は憐れみの手を差し伸べた。
「触るな!」
 刃のような鋭い声に、豪は立ちすくむ。
「死んでしまえ!」
 そう吐き捨てると、少年は雑踏の中を走り去った。
    ◇
『はぁ? 知らない少年を怒らせた?』
 親友の佐野の声は呆れていた。勾当台公園の片隅で、豪はスマホで佐野と話していた。
『おまえ、極端に会話が苦手だからなぁ。彼は、おまえの双子の弟・晃と間違えた。わかっているだろ? なに? もはや何が何やら? じゃあ、そこで待ってろ。俺が今からそちらへ行く。勾当台公園だな? ……あぁ、わかってる』
 豪は、溜息をついた。双子の弟・晃は、六年前に一人の少年を苛め抜いて仙台から東京へ転校させた。晃の罪が、自分の罪のように感じてしまう。双子はみんな、こういう風な曖昧で不安な心を持てあましているのだろうか?
 しばらくして、頼りになる佐野がやってきた。驚いたことに、あの少年も佐野に引っ張られてきた。豪は思わず辺りを見回し、逃げ道を探してしまう。こんなところが晃と違って小心者なのだ。
「豪、こいつも連れてきた。どうも、おまえのあとをつけていたらしいぞ」
 首根っこを掴まれた少年は、顔を真っ赤にしてうつむいている。
「で、ある程度のことは話しておいたから」
 佐野は明るく言う。ある程度とは、どの程度なのだろうか。
 少年は、豪に頭を下げた。
「双子だったなんて! 間違えてごめんなさい!」
 かなり動揺していた。少年の名は、小谷小太郎。皆からは、コタと呼ばれているそうだ。あれ? と豪は額を押さえる。コタという名前に記憶がある。晃の苛め事件のときの少年だろうか? たぶん、そうだ。でも、どうしてだろう。晃についての記憶が曖昧だ。双子なのに、あまりにも何も知らないような気がする。最後に会ったのは、いつだろうか。豪は、地に足がつかないようなあやふやな記憶に、迷宮に入り込んだかのごとく戸惑う。このままでいいのだろうか? 晃がどこにいるのか知らないといけないような気がする。だって、晃は……!
「豪! 大丈夫か?」
 佐野が、心配そうに顔を覗きこんできた。
「真っ青じゃないか!」
「あのっ、今、水出しますから待ってください!」
 マイボトルを手にしたコタの手首を、いきなり豪の手がつかむ。
「はい?」
 振り返るコタ。コタは見た。豪の目が、飢えた狼のようにギラギラ殺気立っているのを。
「……豪、さん?」
 佐野は、恐るべき速さで後ろから豪の体を締め上げる。一種のプロレス技だ。佐野は、早口でコタに怒鳴る。
「すぐ東京に帰れ! おまえ、晃のターゲットにされているんだ。危険だから早く逃げろ!」
 コタは驚いて手首を振りほどくと、佐野に言われるままに逃げ出した。
    ◇
「佐野、もう俺は豪の意識下に封印なんかされたくない。だって、豪なんか一人では何もできない。あんな情けない男はいない」
「何事も暴力で解決しようとするおまえよりマシだ!」
 当て身を食らわせて気絶させてから佐野は、コタの落としていったボトルの水を、親友の顔にぶっかけた。
「あ……あれ? 佐野」
「気がついたか、豪。コタは用事があって、もう帰ったよ」
「ふぅん。ねぇ、どうして濡れているんだろう、ぼく」
「どうしてでしょうねぇぇぇぇぇーっ」
「どうして怒っているの?」
「損な役回りだよなぁ、俺って」
 佐野は豪とは隣同士の家で、幼い頃より兄弟のように遊び育ったことを思い出していた。まだ幼い頃、「よろしく頼みます」と佐野に頭を下げた豪あるいは晃の麗しい母・蝶子。あれ以来、佐野は『豪』と『晃』という二つの曖昧な人格をなんとかどうにか支えてきたのだ。佐野は、コタへの苛めの件を思い出すたびに、晃を止めることのできなかった自分の力不足を悔やんでいた。
「佐野、晃はどこへ行ったんだろう?」
 佐野は、豪の肩を軽く叩いてやる。
「俺がずっと傍にいてやる。役不足か?」
 豪はちょっとびっくりした顔をしてから、安心したような笑顔を見せた。


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