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わたしが飼っていた曖昧

15/10/05 コンテスト(テーマ):第九十四回 時空モノガタリ文学賞 【曖昧】 コメント:2件 るうね 閲覧数:1020

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 わたしは曖昧を飼っている。
 曖昧とはなにか、と問われることは多いが、いつも説明に窮する。外見上の、あるいは内面上の特徴を訊かれるが、特徴がある時点で、それは曖昧ではないだろう。
 なので、問うた相手に、わたしはいつも曖昧を見せてやることにしている。すると、相手は非常に微妙な表情になり、ううん、たしかにこれは曖昧だね、と納得するのである。
 曖昧はなんでも食べる。逆になにも食べなくても死んだりはしない。そもそも生き物なのかどうか、それすら曖昧である。
 飼い主であるわたしには懐いている……ように見えるが、実際にはどうなのか分からない。ただまあ、いつもわたしの傍にいることはたしかである。
 時々、わたしは気まぐれに曖昧を撫でてみる。柔らかいような硬いような、冷たいような温かいような不思議な感覚。わたしは、この感覚が嫌いではない。
 そんな曖昧を飼っている人間が、わたしの他に一人いる。幼なじみの佐伯雄介。男の子だ。
 彼と初めて出会ったのは、幼稚園の時。
 当時、他の園児と比べて、わたしは浮いていた。大人びていた、と言えば聞こえはいいが、ただ単にませていただけ、と言った方が真実に近かろう。みんなが夢中になっている砂場遊びやすべり台に、のめり込むことができなかった。
 当然、友達はできなかったが、当時、すでに曖昧を飼っていたわたしは、それを話相手にしていたので、寂しくはなかった。
 そんなわたしのような子供が、もう一人いることを知ったのは、幼稚園に入って数ヶ月経ってからのことだった。彼もまた、他の園児たちの輪に加わらず一人で、曖昧を相手に会話していたのである。
 自然、わたしたたちはお互いを意識するようになり、その数ヶ月後には一緒に遊ぶようになった。
 その後、小学校、中学校と一緒の時間と空間を共有し、高校も同じところを選んだ。
 その高校の卒業式を間近に控えた昨日、わたしは雄介に呼び出された。いつも一緒にいた彼の曖昧は、なぜかその日、姿が見えなかった。
「好きなんだ」
 雄介が真剣な目をして言った。
「誰が?」
「俺が」
「誰を」
「お前を」
 愛の告白だった。
 わたしは、一晩考えさせて、と言った。
 その日は、ベッドに入っても、なかなか寝つけなかった。あんな真剣な目をした雄介は、初めて見た。ちょっと怖かった。
 雄介と恋人になる。
 その想像は、むしろ恐怖をともなって、わたしの心を支配した。
 いまのままでは駄目なのか。友人以上、恋人未満の関係では。
「ねぇ、曖昧。あなたはどう思う?」
 曖昧に問うが、むろん返事があるはずもない。
 次の日、わたしは熱を出して、学校を休んだ。あるいは、それは逃避だったのかもしれない。
 曖昧は少し大きくなったような気がした。
 翌日は創立記念日で学校は休み。その次は土日だ。だいぶ返事をするまでに猶予ができた。
 曖昧が、また大きくなった。
 月曜日、覚悟が決まらぬまま学校に行ったわたしは、雄介が交通事故に遭ったことを教師の話で知った。頭を強く打って、意識が戻らないらしい。
 わたしは、すぐさま早退して、病院に向かった。
 病室に入ると、人工呼吸器をつけた雄介の姿があった。その光景はどこか非現実的で、それだけに事態が抜き差しならないということが理解できてしまった。
 死んでしまうかもしれない。いなくなってしまうかもしれない。雄介が。わたしの幼なじみが。
「嫌……」
 思わず、口から漏れ出たつぶやき。
「死んじゃ嫌……」
 だって、わたしはまだあなたの告白に返事をしていない。ようやく、ようやく自分の気持ちに気がついたのに。
 あなたが好き。
 だから。
「死なないでよ、雄介……」
 雄介の手を握る。
 ぽつり、と目から落ちた水滴がわたしの手の甲を濡らした。
 その時。
 曖昧が動いた。
 すうっと、雄介の身体を包み込むように広がる。やがて、その姿は薄くなり消えていった。
 と、
「ん、んん」
 雄介の口からうめき声が漏れた。やがて、その目がゆっくりと開いて……。


 雄介が退院してから、わたしは自分の気持ちをはっきりと告げた。
 あの時以来、曖昧は消えてしまい、いまではわたしの記憶の中に存在するだけである。


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このストーリーに関するコメント

15/11/04 光石七

拝読しました。
曖昧を飼う、その発想がすごいなと思いながら読み進めましたが、とても納得できる展開とラストで、こちらまで心が晴れたような読後感でした。
曖昧はまさに主人公の曖昧さの象徴だったのですね。
面白かったです。

15/11/04 るうね

るうねです。
コメント、ありがとうございます。

曖昧を擬人化、ではなく擬生物化してみようと思ったのが、この話を書くきっかけでした。最初はホラーにしようと思っていたのですが、キャラクターが勝手に動き、いつの間にか青春恋愛ものになっていました。若い頃、誰もが抱えているもやもやした気持ちを、少しでも思い出していただければ御の字です。
お読みいただき、ありがとうございました。

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