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卍朱里卍さん

がきです

性別 女性
将来の夢 作家
座右の銘 とくになし

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染まり始める

12/08/06 コンテスト(テーマ):【 花火大会(花火) 】 コメント:0件 卍朱里卍 閲覧数:1371

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態々人混みに詰まってまで見る必要は無いとあなたが言い、言われるがままに少し遠い位置から花火を待っていた。
打ち上げられるにはまだ早く、出店に並ぶ客達もまばらに居る。
ただ花火のおかげで先程より人が少ない分、狭い道は歩きやすくなっていた。
欲しい物は買ってあるし、何より今更買いに行くのはあなたが許さないので大人しく座っておく。

たくさん歩いて疲れたのか、あなたは草原の上に寝転がって綿飴を食べ出した。
私が食べていた時は散々「よくそんな物が食える」だの「カイコガの繭に似ているのに」なんて言っていたのに、調子が良い人だ。

「あなたも食べてるじゃない、繭」

なんて嫌味を垂れたら、顔色一つ変えずにそっぽを向いて尚食べているんだから面白い。
丁度私の目の前に、蛾か蝶か曖昧な所の虫が飛んでいた。
カイコガというのは、見たことがない。

そう考えて虫を目で追っていると遠くで花火が始まったらしく、序盤の小さな花火がポロポロと弾けていた。
花火の光で曇った空がはっきり見え、昨日は雨だった事を思い出す。
「祭りへ行けるかどうか」と賭け事を申し出てきたあなたも一緒に。
私は行けない方に賭けて、負けてしまった。

花火が始まると、あなたは綿飴を食べたまま起き上がった。
綿飴は未だ袋から取り出したばかりのように大きく丸いままだったので、

「少し頂戴」

と言ってみたら、「もういい、甘すぎる」と全て私に押し付けた。
綿飴の袋はもうたこ焼きのゴミと一緒に袋に入れて汚れてしまったので、全部食べるしか無いようだ。
私の言った嫌味へのお返しらしい。

花火は徐々に大きくなっていき、そろそろメインの、一番大きい花火が打ち上がるだろうという時間だった。
良い花火が打ち上がる度、あちらの人集りから歓声や拍手が聞こえる。
気がつくと、出店付近に人は全く居なくなっていた。
店番の人達も、殆ど花火を見に行っていた。

いよいよ大きい花火が打ち上がる頃合い。
ひゅるる、と一本線を描いて空に上がった火玉は、弾けて大きな円となった。
バチバチという音がとても心地いい。
不意にどんな顔をしているのかとあなたの方を見てみた。
たった今打ち上げられた赤い花火で染まり始めるあなたを、ずっと見ていた。
顎や鼻に綿飴の欠片が付いているとは言えない罪悪感を抱きながら。




花火が終わって静かになった頃、出店も次々と店仕舞いを始めていた。
手付かずで大きく残る綿飴を消費しつつあなたとの帰り道。
手を繋ぐなんてロマンチックな事はしないけれど、あの時染まっていたあなたを思い返すと、何だかとても恥ずかしくなる。
誤魔化すように綿飴を頬張ってみて、意外と綿飴は甘すぎるんだなと今更気がついた。


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