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つつい つつさん

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光射す朝

15/10/04 コンテスト(テーマ):第九十三回 時空モノガタリ文学賞【 憂鬱 】 コメント:8件 つつい つつ 閲覧数:1738

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 もう十二時過ぎてる。そろそろ寝ないと、明日は早番なのに。でも、大丈夫かな、今日夕方の混雑時に来たお客さん、カード払いから急に現金払いに変更したから、慌てちゃってよく覚えてない。レジ待ちのお客さんもいっぱい並んでたし。あれ、一万円だったよね。五千円じゃないよね。もし違ってたらレジチェックの時、五千円も合わなくなる。先々週も何千円か合わなくて私のせいにされたし、今度あんなことがあったら、何言われるかわからない。でも、大丈夫、あれは一万円だった。絶対に……そうだよ。
 私が働く駅前のファミレスはいつも混んでいる。レジ係は、みんなで順番でやるはずなのに、お金に細かい店長を嫌がって誰もやりたがらない。なのに、要領が悪くて人の頼みを断れない私は「ちょっとレジ入って」って言われて、そのままレジばっかりやらされている。店長だってそれをわかってるはずなのに何も言わない。だけど、ちょっとでもお金が合わないとバイトが終わってからもえんえんと説教される。

 寝れなくてトイレに行く。目覚まし時計を見るともう二時を回ってる。六時には起きないと駄目だから、もう四時間も寝られない。昨日だって三時間くらいしか寝てないし、一昨日もそれくらいだ。そろそろちゃんと寝ないと身体もしんどいし、それに仕事中眠くなってまたミスしちゃいそう。これじゃ、悪循環だ。
 一緒に働いてる美優ちゃんなんて、レジもちゃんと覚えないし、平気で遅刻するし、学生だからってしょっちゅう休みも取るのに、あんまり怒られない。怒られても、すぐそっぽむいて聞いてないし、口答えだってする。なのに、みんなに人気がある。店の中でも、美優ちゃんがちょっとくらいミスしても笑って済まされるし、明るくて、はきはきして可愛いからお客さんにも好かれている。店長だって、すぐに刃向かう美優ちゃんが苦手なのか直接怒ったりしない。何かあったら、私にすぐ注意してこいって言う。そのたびに私が睨まれる。私は休みなんて自分から取らない。人が足りていて休んでも大丈夫な日に店長に休めって言われるだけだ。
 このまま働いていていいのかな。真面目に一生懸命働いたって、正社員になれるわけでもないし。一応、正社員に昇格することもあるって話だけど、そんなのよっぽど優秀な人かコネがないとありえない。優秀でもないし、コネもない私は、安い時給で好き勝手働かされる便利なお店の操り人形だ。不器用で人見知りで愛想のない私は操られるだけ操られたらお払い箱になるんだろう。

 恐る恐る時計を見る。もう四時半だ。本格的にやばい。このままじゃろくに寝ないで働くことになる。それに、朝行ったら、昨日レジ合ってなかったって、いきなり怒られるかもしれない。あーあ、なんで接客業なんて選んじゃったんだろう。向いてないのはわかってたのに。
 学生時代から暗くて友達がいなかった私は、高校を出ても働かず家にひきこもっていたけど、勇気を振り絞って、自分を変えたくて接客業をすることにした。ファミレスなら同世代の子も多そうだし、可愛い友達なんかも出来るかなって期待して働き出した。実際、そうだった。学生の子や、同世代のフリーターの子も多かった。女の子だけじゃなく男の子もいる。みんな仲良くて仕事の後とか、休みの日とかみんなで集まって遊んだりする。でも、私はその輪の中には入れない。優しい子もいて、その輪の中に入れてくれようとしてくれたこともある。でも、私は緊張しちゃって、恐縮しちゃって、とてもその輪の中には入る勇気はなかった。自業自得だ。このままここで働いてたって、もう何も変わらない。もう、このまま寝ちゃおうかな。私なんか行かなくっても、ちょっとは怒るだろうけど、そんなのいっときのことだ。もういいよ。もっと自分に合ったところを探そう。夢なんて見ない。背伸びなんてしない。どれだけ地味でも、どれだけおもしろくなくても、それでいい。今だってつらい。みんなにそっぽ向かれて、そのほうがつらい。そうだ、決めた。もう寝る。明日休む。休むっていうか、もう辞める。バイトなんていくらでもある。また探せばいい。もういいよ。もう、私、十分頑張ったよ。
 なんか笑えてきた。久しぶりだ。こんな楽しいこと考えたの。良かった。もう五時くらいだろうけど、もうそんなの関係ないんだ。いくらでも寝てられるんだ。たぶん起きたら電話あるだろうけど、その時言おう。「辞めます」って。緊張するのは一瞬だけだ。辞めるって行っちゃえば、後はどうにでもなる。そんなもんだ。それでいいんだ。みんなだってそんなもんだ。さあ、寝よう。
 
 カーテンの隙間から射す朝の光が瞼を刺激する。


 あれ、なんで私、シャワー浴びてるんだろう。
 なんで私、歯磨いてるんだろう。
 なんで……私、仕事行こうとしてるんだろう。


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このストーリーに関するコメント

15/10/22 光石七

拝読しました。
要領が悪く引っ込み思案の主人公、私も似た部分があるのでとても共感できました。
もう十分頑張った、もう辞めちゃおう。そう思うのは無理からぬことだし、むしろ望ましいことのはずなのに、ラストの行動が…… でも、これもわかる気がします。
仕事をどうするにせよ、主人公が明るく前向きになれればいいのですが。それができるなら苦労はないよって主人公に言い返されそうですね。そういう私も根暗のネガティブ人間ですけど(苦笑)
主人公の心情がリアルに丁寧に描かれていて、締め方もよかったです。
印象に残るお話でした。

15/10/23 つつい つつ

光石七 様、感想ありがとうございます。
休んだり、さぼったり、辞めたりというのは結構、心の力がいるなと思って書きました。 なかなか、なろうとおもって前向きになるのは難しいから、いい方法があればいいんですけど。

15/10/25 タック

はじめまして、拝読しました。
みんなどこかでこうした心情を抱えながら生きているような気がします。
それでも一度できた生活の流れを変えるのには勇気や力が必要で、結局は不満を抱きながらまた生活に戻っていく、そのような現実のリアルさが描かれていたと思います。面白く拝読しました。

15/10/25 つつい つつ

タック 様、感想ありがとうございます。
生活を変えるのは簡単なことじゃないから、みんな様々な葛藤と戦いながら生きているんだなと思います。いい意味で変えらればなと願ってしまいます。

15/11/07 murakami

私も高校生のころファミレスでアルバイトしていたことがあるので、すごく懐かしく読ませていただきました。
この子の気持ち、すごくよくわかります。嫌になったからといって急にやめるっていうことができないすごく真面目な子なんですよね。文章もよどみなく、読みやすかったです。

「がんばっていればきっといいことがある」
 書いてなくても、そう感じさせてくれる温かな読後感がありました。
 入賞できるといいですね。

15/11/08 つつい つつ

村上 様、感想ありがとうございます。
嫌なことがあっても、それで辞めるのはなかなか出来ないから、いつか良くなる、なにか変るとどこかで期待するしかないのかもしれないですね。
温かさを感じてもらい嬉しいです。

15/11/12 林一

拝読しました。 
辞めようと決意しても、結局は辞められない。
とても共感のできるラストで、良かったです。

15/11/12 つつい つつ

林一 様、感想ありがとうございます。
夜中ひとりで辞めようと考えている時は楽しくなるけど、実際行動に移すにはそれなりの理由が必要だなと思います。共感してもらって嬉しいです。

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