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よもぎもちさん

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雨上がり、虹

15/09/25 コンテスト(テーマ):第九十三回 時空モノガタリ文学賞【 憂鬱 】 コメント:0件 よもぎもち 閲覧数:1193

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 雨の日は憂鬱だと人は言うけれど、僕からすれば雨上がりの方が憂鬱だ。今にも降り出しそうな暗い空を見上げて、容易に予測できる己の運命に気が重くなった。
「うっわ、雨降りそうじゃん。なあこれ、帰るまでもつと思う?」
「俺、置傘あるから問題ないわ」
「やだ、傘ないのに」
 横をすり抜けていく生徒たちを見送りながら、僕は静かに彼女を待ち続ける。

 降り出しいたのはつい先程、学校を出て間もなくのことだった。思わず逃げ込んだ喫茶店の軒先から見上げた空は、どんよりとした重い雲に覆われている。徐々に強くなる雨足は一瞬で本降りとなり、その下を歩くのは気が進まないだろう。行き交う人々を追い出すように我が物顔で君臨している雨粒の自己主張の激しさは折り紙つきで、灰色のコンクリートは瞬く間に黒く塗り潰されてしまった。それでもなお降り注ぐ滴は自由気ままに地面を跳ねまわり、屋根の下へと避難させていたはずの彼女の体にも容赦なく飛びついてくる。その冷たさに顔を顰めて大きな溜め息を漏らした。
「ねえ、本当に帰るの? 雨止むまで待ったら?」
 明らかに気乗りしない様子に、隣で同じく雨宿りしていた彼女の友人が入り口のドアに手を掛けながら問い掛ける。学生という身分から普段ならば敷居の高い小洒落た喫茶店だが、雨宿りという名目ならば気兼ねなく足を踏み入れるチャンスだ。こんな天気でありながら、友人は実に楽しげであった。
「そりゃあ、こんな雨の中帰るのは嫌だけど、今日は早く帰らないといけないからさ。それに通り雨だと思うから、途中で止むと思うんだよね」
 改めて見上げた空の端には青空が見え始めている。足元は変わらず冷たくて不快だが、先程と比べれば雨足は弱まったようだ。店の入り口でいつまでも立ち止まっているのも迷惑だからと、友人を促している。僕はといえば、体を伝う雨粒の不快さに辟易としながら、ただ彼女たちの遣り取りを見守っていた。
「じゃあ、風邪ひかないようにね」
「ありがと。傘もあるから大丈夫だよ」
 そうして潔く歩き出した彼女に従って、僕も雨の下へと身を乗り出した。

 足早に進む彼女だが、その足取りは水を蹴り上げないように慎重だった。打ち付けてくる雨の冷たさに気分が沈んでいるのは見て明らかで、彼女の溜め息の数は増えていく一方である。
「もう何で雨ってこんなに鬱陶しいんだろう。足は冷たいし、髪はべたつくし」
 彼女の愚痴を聞きながら、僕は空を見上げた。雲の切れ間の見えてきた空は、少しずつ明るくなっているようだ。雨ですっかり冷えてしまった体を震わせながら、落ちてくる数の減り始めた雨粒をじっと見つめていた。
 雨が止んだのは間もなくのことだ。次第に明るくなっていく空には、陰鬱とした気持ちを吹き飛ばすような大きな虹が掛かっていた。その美しい半円を描く虹には道行く人もつい足を止め見上げている。
「あ、雨止んだんだ。って、虹じゃん!」
 屋内にいては気が付かないかもしれない束の間の現象は、あの雨の中に身を置いていたものたちへの褒美には十分だろう。彼女も目を輝かせて空を見上げている。その美しさを、僕ももう少し堪能したいと思っていた。けれども、その願望はあまりにもあっけなく終わりを迎えてしまう。突如閉ざされた視界は予想通りの展開ではあったが、面白くはない。ああ、今日もなのか。雨上がりで上機嫌な彼女とは裏腹に、僕の気分は沈んでいく。僕だってお日様の下を闊歩してみたい。あの虹だって、もっと眺めていたかった。雨から身を挺して彼女を守り抜いたというのに、あんまりな仕打ちに思わず溜め息が漏れる。

 雨の日は憂鬱だと彼女は言うけれど、僕は雨上がりの方が憂鬱だ。こんなしがない傘の気持ち、ご理解頂けるだろうか。


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