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クナリさん

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将来の夢 絵本作家
座右の銘 明日の自分がきっとがんばる。

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噛み飽きた舌をまた噛んで

15/09/22 コンテスト(テーマ):第九十三回 時空モノガタリ文学賞【 憂鬱 】 コメント:5件 クナリ 閲覧数:1403

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 噛み飽きた舌を、また噛む。
 もう、ものの味も分かりはしない。
 待ち疲れた傷跡は、とうとう塞がり始めた。
 治癒とは全く別の、自分の体と価値観が作り変えられて行く、怖気に似た感覚。
 痣になって残ったのは、屈辱と敗北。
 たぶん死ぬまで引きずって行く。

 蛇口に触れる手が震えなくなった
 でも
 毎朝のコーヒーを飲まなくなった
 治ったのではない
 新しくなったのでもない
 記憶の色で塗り直されて
 別の自分になっただけ
 過去はべっとりついてくる
 私を作り変えた出来事の、記憶――記憶。

 会いたい人とは会えなくて
 会いたくない人になじられる
 慣れるものかと叫ぶたび
 ネジはひとつずつ外れてる
 錆びてちぎれたバネが道端に転がりもの言わず泣くのを見たドブの中
 汚れた水が満たした口ではもうものの味も分からない
 私は私でなくなろう
 そんな甘えを叱る声は
 もう過去からしかやって来ない
 思い出の水はいつでも甘く
 塞がったままの傷口が
 また開く日を待っている。

 エレベーターでまた嗚咽
 冷蔵庫で頭を冷やし
 割れたガラスの声を聞く
 本気だったのか
 本気だったよ
 本気だったのか
 本気だった
 開き切らない自動ドアにぶつかって
 ものの弾みで死ねたらいいのに
 噛み飽きた舌をまた噛んで
 もう声は言葉にならない。

 こんなにも痛いんですと叫ぶ以外に
 感情を証明する方法を知らなくて
 こんなにも寒いんですと叫んでも
 蛍光灯の明かりが嗤(わら)ってる。

 必要としてくれてありがとう
 必要としてくれてありがとう
 でもあなたじゃないんです
 あなたではだめなんです
 あの人でないのなら
 ごめんなさい
 ごめんなさい
 あの人でないのなら
 噛み飽きた舌をまた噛んで
 血も唾も息も呆れて枯れた。

 家から出ようとドアを開けたら
 その先はまた元の部屋
 靴に怒られ
 窓に嫌われ
 冷蔵庫に逃げ込んだら
 蛍光灯が嗤ってる。

 頭が痛くて
 胸がきしんで
 寒くて
 寒くて
 舌が痛くて
 憂鬱。

 嫌なことばかりの世の中で
 噛み飽きた舌をまた噛んで
 呼びたい名前も呼べないままに
 塞がってしまった傷口が
 また開く日を待っている。


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このストーリーに関するコメント

15/09/22 クナリ

まあ、たまにはポエムでも…ということで…。

15/10/19 光石七

不条理なこと、思うようにいかないこと、生きていればそんなことの連続ですね。世の中も、人間関係も、自分自身も。
語り手の憂鬱の深さや悲しさ、疲弊、心の奥底の渇望…… 伝わってきます。
こちらまで(実際には無い)傷口がじくじくしてくるようでした。
心身傷だらけで壁にもたれかかっている若い女性の姿が心に浮かびました。
言葉の選び方とタイトルも素晴らしですね。
クナリさんのポエム、好きです。

15/10/20 クナリ

光石七さん>
詩は、いくら書いてもでんでん上手くならないのですが、たまにやりたくなって書いてしまいます。
うつうつとした気分を、出来るだけ生々しく描き出してみたいのですが、道ははるか遠いですね〜。
コメント、ありがとうございました!

15/10/20 つつい つつ

詩なので小説とはまた違い、言葉に直接的に刺激されたり、頭の中でリフレインしたり、味わい深かったです。

15/10/24 クナリ

つつい つつさん>
ありがとうございます。
自分の場合、詩だと、自分の思ったことをほとんどそのまんま書いているので、すぐに書き上げられるのがいいところです。
元々、深く考えるのは向いていない性格ですしね(^^;)。

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