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夏川さん

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大学デビューしたアニメオタクに降り注ぐカラオケという名の危機

15/09/13 コンテスト(テーマ):第九十一回 時空モノガタリ文学賞 【 アニメ 】 コメント:6件 夏川 閲覧数:1987

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 俺の趣味はアニメ鑑賞である。

 高校生の頃は毎日教室の隅で同好の士と昨夜見たアニメの話で大盛り上がりしていた。それはそれで楽しい毎日ではあったが、青春アニメにあるような煌びやかな高校生活とは言い難いものだ。
 どういう訳か「アニメ」というのは他の趣味よりも下等であるかのような扱いを受ける傾向にある。イケメンならまだしも、俺のようなモッサリ男が「アニメ好きなんだー」などと口を滑らそうものなら女子たちから冷ややかな笑みを浴び、男子たちから「あー、納得」などというよく分からない評価を受けることうけあいである。
 「映画鑑賞」という趣味はなんとなく高尚な感じがするのに、実写ではなくアニメーションと言うだけで馬鹿にされる。なんとおかしな風潮であろう。職業に貴賎がない以上に趣味にだって貴賎はないのだ。

 だが俺はその間違った世を治すことから逃げ、世間に迎合することを選んだ。俗に言う大学デビューである。
 ついつい出てしまうネットスラングやアニメの名台詞を封印する訓練を積み、かわりに独特の大学生語を習得した。ファッション誌を読み漁り、服や髪も垢抜けたものを手に入れた。
 今の俺はどう見てもスタバと飲み会を愛するイケイケ大学生だ。同じような友人もでき、俺の大学生活は前途洋々。手垢の付いた彼女いない歴=年齢の称号を返上する日も近いであろう。

 ところが、順調に思えた俺の大学生活に突如としてピンチが降り掛かった。

「イエーイ、カラオケオールだぜ!」
「俺明日1限からなんだよなー代返頼もうかな」
「それな」

 ワイワイ騒ぐ友人たちに混じり、俺は込上がる焦りに心を焼かれていた。
 カラオケ。大学生には必須と言っても良い遊び場である。にも関わらず、俺はカラオケのことをすっかり失念していたのだ。俺に歌える歌といえばアニソン、童謡、それから国家くらいのものである。
 詰めが甘かった、だがもうなにもかも遅い。

「なににしよーかなぁ、お前なに歌う?」
「えっ……ええと……」

 ここで歌わなかったらそれこそノリが悪いなどと言われて顰蹙を買うことだろう。だが高校の時のように声真似を交えてアニソンを歌うなどと言った自殺行為はできない。
 どうする、なにかないか。みんなの前で歌える何か――

「……これだッ!!」

 アニメのオープニング曲。だが女子中高生にファンが多いという男性バンドによるタイアップ曲だ。超有名音楽番組Wステにも出演したとか言う話もチラリと聞いた。歌詞もアニソンっぽくないしこれならイケる。
 俺は緊張で手を震わせながらその曲を送信し、マイクを握った。

 歌自体はそつなく歌いこなせた。これでも歌唱力にはそこそこの自信がある。
 だが危機は歌い終わった後訪れた。

「あーこれなんだっけ。東京……なんとかってアニメの歌だよな」
「ッ!!??」

 目玉が転がり落ちてウーロン茶で満たされたコップに落ちるかと思った。
 「アニソンに聞こえないアニソン」を選んだのに、アニソンであることを知られていては意味がない。マイクを持つ手が小刻みに震えるのをなんとか押さえ、泳ぎだしそうになる視線を固定し、唇の震えを誤魔化すように早口でまくしたてる。

「あ、ああー、なんかタイアップしたらしいね? いやぁそういうの全然知らないんだけどさ、なんかそれでファンが増えたらしくて嬉しい反面ちょっと寂しい気もするんだよな。あー、えっと、ちなみにそのアニメどんなアニメなの? いやぁ、そういうの全然分からなくてさァ」
「俺も妹が見てただけだからよく分かんないな」
「そ、そうなんだ〜、はは」

 ……誤魔化せただろうか。無我夢中で自分が何を言っているのかよく分からなかった。
 心臓はバクバク、フルマラソン完走後の様な疲れが体の動きを鈍くする。だがまだまだカラオケはこれからだ。なにせあと6時間も歌い続けなければならない。ああ気が重い。寝たふりしようかな――

 そんな事を考えていた時、突然俺の耳に聞き覚えのあるメロディが流れ込んできた。

「あっ、これ――」

 思わず声を出した俺に、友人たちの眼が一斉に向けられる。
 そうだ、確かこれもアニメのエンディング曲。俺が歌ったものと同じく新人バンドとのタイアップ曲だが。

「知ってる?」
「ええと、なんか聞いたことあるような気が」
「ふ、ふーん」

 そう言って歌い始めた友人の声は少々震えているような気がした。

「……次はお前だぞ、入れたか」
「う、うん。今入れるよ」

 そう言って友人の一人がリモコンを操作して曲を入れる。
 テレビの液晶上部に映し出されたその曲名は、これまた見覚えのあるものであった。もう説明はいらないだろう。アニメオープニング曲だ。

 類は友を呼ぶ。
 そんな言葉が脳裏に浮かんだ。

「いや、まさかな……」


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このストーリーに関するコメント

15/09/13 クナリ

アニメの囲う不遇、そこからの脱却、とてもよくわかる話の冒頭から始まり、愉快にハラハラできる作品でした。
最後に、カラオケルームで呆然とする主人公の顔が浮かぶようでした。

15/09/13 夏川

コメントありがとうございます!

ハラハラしていただけてうれしいです!
アニメって公言しにくい割に愛好家の多い趣味ですよね。
なんかこう、アニメ好きにだけ分かるサインとかあれば良いのになぁと思います。

15/09/22 光石七

拝読しました。
「アニメが趣味」ってある程度の年齢になると言いづらくなるのはなんででしょうね……
大学デビューして懸命に封印しようとする主人公の努力が痛々しくも微笑ましく、カラオケでピンチを誤魔化す様に友人の一人が同類らしいとほのめかされるラスト、とても楽しめました。

15/09/23 夏川

コメントありがとうございます!

アニメが趣味の人は結構多くて、でもそれを隠したがってる人もかなりの割合いますよね。
昔よりはだいぶオープンになってきたのでしょうが、それでもやはり大きな声では言い辛い…

楽しんでいただけて良かったです、読んでくださってありがとうございました!

15/10/07 草愛やし美

夏川さん、拝読しました。

いや、まさかな──まさかがありそうですよ。アニオタ君、頑張ったじゃないですか。大学生活これから、もっと楽しくなりそうですね。笑
カラオケまで手が回ってなかったというより、歌って好み出ますよね、うまいとこついてて感心しました。
私のような年くったものでも、若い頃はアニメ好きでした。高校なった時に周りはみな歌やアイドルに夢中なのに、アニメをひとりだけ楽しんで見ていて衝撃を受けたこと思い出しました。大汗 この話の主人公の心境は結構思い当たる人、多いかもですね、面白かったです。

15/10/08 夏川

コメントありがとうございます!

無理して身の丈に合わない生活を送るより好きなモノを語り合えた方が楽しそうですよね!
高校生は大人ぶってアニメなんて見ない(もしくはアニメ好きを公言しない)人が多いけど、大学に入るとむしろアニメ好き人口って増えるような気がします。

面白いと言っていただけて嬉しいです。
読んでくださってありがとうございました!

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