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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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沖縄風

15/09/10 コンテスト(テーマ):第九十二回 時空モノガタリ文学賞 【 沖縄 】 コメント:2件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:1282

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帰宅した友也は、玄関に入るなり、廊下から漂ってくる匂いに鼻をひくつかせた。
「ゴーヤチャンプルだね」
キッチンにいた妻の理恵は、
「わかる」
「そりゃわかるさ。きみの十八番じゃないか」
毎年、ゴーヤの出る季節になると、必ずといっていいほど食卓に上るこの料理を、友也も楽しみにしていた。
妻の作るゴーヤチャンプルは卵と豆腐とゴーヤの味がほどよくミックスされて、ほんとうに美味で、いくらでも食べられた。
「我が家のゴーヤチャンプルは、最高だ」
友也がほめると、彼女はなぜか気がかりなふうに、
「でも……」
「どうした」
「ゴーヤチャンプルって、沖縄の料理でしょ」
「そうだね」
「あたし、沖縄にはいったことがないし、本場のゴーヤチャンプルがどんなものか、しらないの」
「それは僕だってそうだ」
「沖縄の人がこれを食べたら、ぜんぜんちがうっていうかもしれないわ」
「食べておいしけりゃ、いいんじゃないか」
「やっぱり、ゴーヤチャンプルという限りは―――」
理恵がそこまで本物にこだわる理由は、昔からかわらない完全主義のなせるところだろう。この春にはじめた家庭菜園のときにも彼女は、遠方の農家に何日も通ってそのノウハウを、一から学んだことを友也はおもいだしていた。
「理恵の作ったゴーヤチャンプルが、沖縄の人の口にあえばいいんだな。わかった。僕の会社にも沖縄出身の人がいるとおもう。こんどその人を家につれてくるから、きみの料理を、ごちそうしてあげろよ」
それをきくなり理恵は、「えー」と口許を両手ではさみつけると、とんでもない試練がふりかかったとばかり、その場につま先立ちになった。
友也がその沖縄出身という男性を本当に家につれてきたのは、それから三日後の金曜の夕方のことだった。
名前を松田という彼の同僚は、肌は健康そうによく焼けて浅黒く、髪も眉も黒々として、理恵が思い描く沖縄の男性のイメージにまさにぴったりの風貌をしていた。
「よくいらっしゃいました。主人がいつもお世話になっています」
丁寧に挨拶する理恵に、松田も白い歯をみせて笑いながら、頭をさげた。
「沖縄の海って、きれいんだろ」
テーブルのむこうから松田のグラスにビールをつぎながら、友也が水をむけた。
「そりゃもう、どこまでいっても、海底の砂がくっきりみえて、魚たちが一匹、一匹、鮮明にみわけられるんだ」
「いいなあ。たまには帰ったりするのかい」
「うん。きれいな空気を吸いにね―――そうそう、これ」
おもいだしたように松田は、きたときからもっていた紙バックから、新聞紙にくるんだものをとりだし、友也にさしだした。友也がそれをあけるとなかから、大きな口で笑っているのと愛嬌たっぷりな顔をした二匹の、犬のような獅子のような生き物の焼き物があらわれた。
「シーサーなんだ。玄関にでもおいて、魔除けにしてもらえれば」
「まあ、わざわざそんな。ありがとうございます」
キッチンから理恵が、ふりかえって礼をいった。手にしたフライパンのなかではゴーヤチャンプルが炒められている。
「彼から奥さんの手料理を食べさせてもらうときいて、喜んでやってきました」
ビールのグラスを重ねて、緊張もとれてきた松田がそんな愛想をいった。
「妻がね、自慢の料理を沖縄の人にどうしても食べてもらいたいというから―――」
「あなた、そんなこと一度もいっていませんよ」
二人のやりとりを、どこか羨ましげにながめている松田をちらとみて理恵は、彼、独身かしらと、料理を皿にもりながらふとおもった。
「どうぞ熱いうちにお召しあがりください」
促されるままに松田は、山と盛られた料理に箸をつけた。
「うまい」
本心から松田はいった。
「ありがとうございます」
「これはもう、プロ級といってもいいんじゃないかな」
友也は同僚の、妻に捧げる賛辞を、満足そうにきいていた。
探したものの、じつは会社に沖縄出身の人間はひとりもいなくて、しかたがないので見かけだけ沖縄風の松田をつれてきた次第だった。本当は北海道出身で、ゴーヤチャンプルも今回はじめて食べるとか。土産にシーサーまで用意するとは、彼もなかなかやってくれる。これで妻も、自作のゴーヤチャンプルにいっそう自信をもつことだろう。実際今夜のそれは、いつも以上に味付けが優れ、やっぱり本場の人間に食べさせるとあって、彼女なりに発奮したのにちがいない………。
理恵は、松田にほめられて、ほっと安堵していた。
本場のゴーヤチャンプルをしらない自分の作った料理なんか、とても沖縄出身の人に食べてもらうわけにはいかないとおもった彼女は、ウェブで沖縄料理店を検索しまくり、わざわざ店まで電車ででかけていって、詰めてもらったゴーヤチャンプルを買ってきた。
理恵がやったのはただそれを火で温め直しただけだった。


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このストーリーに関するコメント

15/10/13 光石七

拝読しました。
なるほど、ゴーヤチャンプルは元々郷土料理だったものが全国的な家庭料理になった典型例ですね。
二重の“沖縄風”かと思いきや、更なるオチが。
面白かったです。

15/10/14 W・アーム・スープレックス

わが家でもゴーヤの季節になるとよくチャンプルを作り、じつは私の大好物なのですが、本場のそれがどんな味かはやはりわかりません。いつか沖縄にいくようなことがあれば、しっかり食べて来ようとおもっています。ちなみにゴーヤはご近所さんが作ったものをいただいています。身辺の雑事をもちこみ、失礼しました。
コメントありがとうございました。

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