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海見みみみさん

はじめまして。 時空モノガタリで修行させていただいています。 焼き肉が大好物。

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ちんすこうオジサン

15/09/08 コンテスト(テーマ):第九十二回 時空モノガタリ文学賞 【 沖縄 】 コメント:6件 海見みみみ 閲覧数:1806

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 傷ついた戦士はいずれヴァルハラに行くと言う。ちんすこうオジサンにとってのヴァルハラ、それが沖縄だったのかもしれない。

 沖縄に住む友人を訪ねに旅行へ行った時の事。友人は家の近所にある某公園の前を通ると、声を潜め私に話しかけてきた。
「気をつけてね。あそこにはちんすこうオジサンがいるから」
「なにそれ、変態の一種?」
「変態と言うかなんというか。女の人が通ると『オジサンのちんすこうを食べないか』って声をかけてくるらしいの」
 それは立派な変態ではないか。でも行くなと言われると行ってみたくなる。あまのじゃくな私はちんすこうオジサンに強い興味を惹かれたのだった。

 それから友人と別行動を取る事になった時、私は真っ先に例の公園へと向かった。すると一人のオジサンがベンチに腰掛けている。優しい表情でほほ笑むその姿からは、とても変態とは思えない。するとオジサンがこちらに気づき声をかけてくる。
「お姉さん、キレイだね。オジサンのちんすこう食べる?」
 柔らかい笑みを浮かべたままオジサンがそう問いかける。やっぱりただの変態なのか。私は恐る恐るオジサンの隣に座った。
「はい、ちんすこう」
 ここでわいせつ物をポロリと出されたら即通報物だったが、オジサンは普通にちんすこうを差し出してきた。
「ありがとうございます」
お礼を口にしてから、一口ちんすこうを食べる。うん、とっても甘くておいしい。
「オジサンはなんでちんすこうなんて配っているんですか?」
 私は興味本位からそうオジサンに尋ねた。
「さあ、どうしてだろうね? それはオジサンにもわからない」
 オジサンが間の抜けた返事をする。
 なんだか不思議な人だな。それが私のちんすこうオジサンに対する印象だった。
「お姉さん、東京の人でしょう?」
「なんでわかったんですか」
「勘だよ、勘」
 そう言って笑うと、オジサンはちんすこうを一口かじった。
「沖縄はいい場所でしょう? オジサンはこの島が大好きでね」
「はい、確かにとてもいい場所です」
 この数日間沖縄を旅して、私もまた沖縄を気に入りつつあった。会う人は皆優しいし、ご飯もおいしい。確かにオジサンの言うとおり、沖縄はいい場所だ。
「オジサンね、昔は凄く有名なイラストレーターだったの。酒井武雄って聞いた事ない?」
 突然話題が変わる。そう問われると、確かに聞き覚えがある名前のような気がした。でもどこで聞いたのかまでは思いだせない。
「でもね、ある日を境にオジサンの作品がネット上で『盗作だ!』って騒がれるようになったの。確かにそのイラストは盗作元と言われている作品によく似ていた。でもこれは言い訳だけど、やっぱり人間想像力には限界があるから、似たような作品を描いちゃう事もあるんだよね」
 オジサンの話の風向きが怪しくなってくる。私は固唾を呑んでオジサンの話を聞いた。
「それからオジサンは極悪人扱い。関係ない作品まで盗作認定されて、家族の顔写真や住所をネット上に晒された。これをキッカケに一家離散。オジサン、何もかも失っちゃったわけ」
 そうオジサンは笑顔で口にした。でもその笑顔はどこか悲しい狂気を感じさせる。
「そんな時に友人から沖縄へ来ないかって誘われたんだ。ここは日本のようで日本じゃない。もちろんいい意味でね。ここでなら平和に暮らす事ができる。オジサンのような人でもね」
 語り終えると、オジサンは私にちんすこうを一箱分くれた。「話を聞いてくれたお礼」そう言ってちんすこうオジサンは人のいい笑顔を浮かべていた。

 それから東京に帰り、私はパソコンでちんすこうオジサン、酒井武雄について調べてみた。すると確かに三年前、酒井武雄は盗作騒動で騒がれていた。極悪人。それがネット上での酒井武雄の評価だ。
 ふと私は自身の利用しているSNSを調べてみた。そして戦慄する。私は自身のSNSで酒井武雄をバッシングする内容の書き込みをリツイートしていた。当時、正義感から何気なくリツイートした一言。だがそれが酒井武雄、ちんすこうオジサンを一家離散にまで追い詰めてしまったのだ。
 ネットで語られるように、ちんすこうオジサンは極悪人だったか? あの優しい笑みを浮かべる、ちんすこうオジサンが。
 オジサンからもらったちんすこうの残りを一口食べる。あれほど甘く感じたちんすこうは、今食べるととても苦く感じた。


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このストーリーに関するコメント

15/09/08 メラ

海見みみみさん、拝読しました。

なるほど、昨今のオリンピック疑惑にも関連あるネタですね。
「人間の想像力には限界がある」。同感です。五輪のデザインの真意はもちろんわかりませんが、ポップミュージックにしても、絶対「どっかで聞いたことある」的な作品は多いです。人間の側面として、薄っぺらな正義感で否定や批判して、自己正当を図る性質がありますが、それをユーモアラスに書いた、メッセージ性のある作品だと思いました。

15/09/08 海見みみみ

メラさん。
ご覧いただきありがとうございます。
小説だって過去数百年で大量に出版されていますし、この作品と類似した小説が存在する可能性はないと言い切れないでしょう。
盗作問題は誰にでも降り掛かってくる可能性があるだけに、実に恐ろしいです。
それでは感想ありがとうございました!

15/09/08 泡沫恋歌

海見みみみ 様、拝読しました。

これは最近話題になってるロゴの件に繋がる話ですね。

たしかに人間の想像力には限界があると思う。偶然にてしまうことってありますね。
私も以前書いた時代小説の設定と主人公の名前が、某アニメの中の1話とソックリで
制作時期は私の方がずっと先だったので、もしかしてパクられた?
と思ったけど、アニメーション会社を訴える勇気なんかないし、自分の作品の方に
○○というアニメの何話の話と似てますが、盗作ではないと書いたよ。
だって、向こうの方がメジャーだし、私がマネしたと思われそうだもの。
まあ、実際、偶然いろいろ似てただけかもしれないし・・・何んとも言えない。
お話面白かったです。

15/09/08 海見みみみ

泡沫恋歌さん

ご覧いただきありがとうございます。
泡沫さんもそのような経験があるのですね。
偶然なのか、意図したものか。
どちらにせよ怖い話です。
それでは感想ありがとうございました!

15/10/13 光石七

拝読しました。
盗作と偶然の類似、悩ましい問題ですね。
たまたま作品が似てしまうことは、あらゆる創作のジャンルで起こると思います。
オリジナルの発想のつもりでも、作者がそれまでに触れた様々なものが積み重なって影響していたりしますし。
ネットやSNSの怖さも感じました。一面的な情報が、それも根拠がなかったりするのに、勝手に広がり過熱していく。何気ない発信が誰かを傷つけることもある。付き合い方の難しさを改めて思います。
考えさせられるお話でした。

15/10/13 海見みみみ

光石七さん
ご覧いただきありがとうございます。
昨今のSNSの進歩により、盗作疑惑騒動も以前とは大きく様相を変えましたね。
ちっぽけな正義感や『こいつを叩いてもいいんだ』と言う空気が蔓延し、人一人の人生を破滅させる。
実に恐ろしい事です。
SNSとの付き合い方を考えていきたいですね。
それでは感想ありがとうございました!

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