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草愛やし美さん

時空文学コンテスト開催100回、おめでとうございます。思えば、初めて私が、こちらに投稿したのは2012年5月のこと、もう4年近く経ったのですね。時空モノガタリさまが、創作の場を与えてくださったお陰で楽しい時間を過ごすことができました。感謝の気持ちでいっぱいです。 また、拙い私の作品を読んでくださった方々に感謝しております。 やし美というのは本名です、母がつけてくれた名前、生まれた時にラジオから流れていた、島崎藤村作詞の「椰子の実」にちなんで……大好きな名前です。ツイッター:草藍やし美、https://twitter.com/cocosouai 

性別 女性
将来の夢 いっぱい食べて飲んでも痩せているっての、いいだろうなあ〜〜
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碧落の村

15/09/07 コンテスト(テーマ):第九十回 時空モノガタリ文学賞【 祭り 】 コメント:9件 草愛やし美 閲覧数:1544

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「かっちゃん、久しぶりなあ」
「おう、来たな花」
「祭りだもん、絶対来るよ」
「勝二、一年振りだね」
「おう、和子か。守も来てっど」
「守はずっとここぞ」
「だったなあ」
「ふふふ」
「楽しみで寝られんごったど」
「うふふ」

 ◇

 山道に車が差し掛かった。台風一過、まるで湖の底へ引き込まれていくような碧落が続く細い道は先日の台風被害でしばらく通行止めだったらしい。
「今日の祭に何とか間に合ってよかった」
 久しぶりの古里に心が華やぐ。前に帰省したのは確か大学の頃だった。古里の夏祭りを恋人の純恋(すみれ)に見せてやろうと思い立って急遽寄ったのだ。過疎になった村だが、祭りだけは何とか続けていってくれていると祖父母から聞いていたからだ。
 奇祭といわれる村の祭り。参加する者はみな黒い狐面を被りひたすら参道を歩き最後に本殿に行くと白い狐面をつけた大人が立っている。悪戯をしに来た黒狐が神社に入るのを阻止するんだ。白狐は神様の使いで、次々と襲い掛かる黒狐どもを両手を上げて追い払う。やがて、おとなしく諭され神社の裏山へ導かれた黒狐がひとり、ふたりと消えていく。種明かしは大杉の傍らに小さな祠があってそこに隠れるだけなのだが……。白狐が毎年勝って豊作と相成る。
「参加者って子供なのね」
「子供でないと小さな祠に隠れられないからさ、中学卒業までの子供が黒狐役をするんだ。けれど、何年か前から過疎化で子供の数が少なくなって黒狐役が激減。僕も毎年夏休みにじいちゃんの田舎に遊びに来て狐やらされたもんだよ。俄か村民としてかり出されるんだけど、楽しかったなあ、村出身の人々の子や孫が集まってきて村は急に賑やかになるんだ。年に一回しか会わないのに妙な親近感があってさ、すぐに打ち解けられる。ルーツが同じ村っていうだけで仲良くなれたよ」
「へぇ、そういうものなんだ。でも田舎あるって良いよね。私なんかずっと都会だから」
「それがさ、僕が最後にお祭りに参加した年におかしなことがあったんだ。僕は中学三年でお祭りの進行役を初めてやったんだけど、終わった後で数えたら狐面がどうしてもひとつ足らなくて、何度数えても足らない。みなで五回位数え直したけど足らない。いよいよ、宮司さんに報告しなくてはいけないかと覚悟したんだ。だけどその前に今一度と数えたら、ちゃんとあるんだ。おかしいなあって運行役のみんなで不思議で仕方なかったよ。今となっては懐かしい思い出だけどね、あの時はどうしようかってパニックになったよ」
「おかしな話ね」
「だろう、今もって不思議で仕方ないんだ」
 
 ◇ 

 七十年前のあの日も暑い日だった。雲一つないどこまでも広がる青空に時雨のように蝉の声が降り注いでいた。夏休みが始まってからも、守達は毎日校庭の畑に出かけ作物の手入れを欠かさなかった。春に植えつけたさつま芋はまだ実っていなかったが、そのツルは命を繋ぐための貴重な食料として水団の汁に入れられていた。
「明日なのになあ、母ちゃんが今年は祭り無理だって」
「だな」
「仕方ないよ」
「どうや、あした俺らだけで祭りごっこやっど」
「花、賛成でーす」
「やろう」
「うん、四人だけのお狐祭りだね」
 昼すぎ、家が近くだった和子、花、勝二、守の四人は一緒に下校の途にあった。守は一瞬、青空が陰ったのを不思議に思い空を見上げた。大きな機影が太陽を遮って空を渡る姿が目に入った。守はその黒く不気味な物体からバラバラと何かがばら撒かれる光景を目にしたがわけがわからず黒い塊が瞬く間に地上に近づくのを見ていた。
 大音響と共に閃光が走った。直後、地響きとともに衝撃が走り四人の身体はあっけなく空中に吹っ飛んだ。勝二と和子、花の三人は初めの一弾で石段に叩きつけられ絶命したが、守は辛うじて息があった。遠ざかる意識下、守は田舎の小さな村が炎に包まれていくのを目にした。
「村が、母ちゃん……」
 碧落に右手を伸ばした守は鼓動を止めたが意識は残り続けた。

 都心の軍需工場に爆撃した帰路、余った爆弾を村の上空でばら撒いたB29スーパーフォートレスの大きな機影が去っていくのを守の魂ははっきりと見続けていた。壊滅状態の村に守の想いは生き続けた。
 ◇
「勝二あんた、狐面、氏神さまに戻した?」
「この前みたいになったらえらいことなるぞ」
「戻したっど、あん時にえろぅ村の子に迷惑かけたから忘れるもんか」
「和子も用意できたって」
「楽しかったねえ」
「おう、楽しかったど」
「またお祭りの日に逢おうね」
「うんうん、またね約束だよ」
「守、また呼んでくれよな」
「ああ、祭りがある限り俺はここで村を守っているからな」
 天に上りながら三人は守に向って大きく手を振った。

 彼らを見送った後、守は鎮守の森の大杉の枝に静かに腰をおろした。今日も暑くなりそうだ。


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このストーリーに関するコメント

15/09/08 泡沫恋歌

草藍やし美 様、拝読しました。

その黒い狐面と白い狐面のお祭り、本当にあるんですか?
あったら、ぜひ見てみたい狐面フェチなんです、私。

不思議なお祭りの話ですが、最後は戦争の悲惨さが描かれていて
とても切ない話ですね。

15/09/09 くまちゃん

残忍な逝き方でしたが いつまでも若く1年に1回の逢瀬は楽しいのだろうな。

15/09/09 光石七

拝読しました。
一つ足りなくなった狐面の謎とその背景。
悲しすぎる七十年前の出来事に胸が締め付けられましたが、年に一度再会する四人のやりとりはあどけなく朗らかですし、ラストの守の姿にほっとするような温かいものを感じました。
四人のためにも、祭りが続いてほしいですね。
素敵なお話をありがとうございます!

15/09/10 鮎風 遊

不思議な祭りですね。
だけどしっかりと村を守ってくれているのでしょう。
今も続いているようなら、黒狐で一度参加したいです。

15/09/12 滝沢朱音

かっちゃん、花、和子、守 という名前と、
純恋(すみれ)という現代風の名前で、読者にいきなりどこか違和感を感じさせる冒頭。すごいと思いました!

純恋の恋人である僕は、もしかして、守でもある?
生まれ変わり?それとも、意識のみ憑依?それとも?と、謎解きみたいに何度も読み返してしまいました。
もし第二段落が全然そういう意図でなかったとしたら、深読みしすぎでごめんなさい!(笑)

15/09/13 冬垣ひなた

草藍やし美さん、拝読しました。

狐面の祭りにまつわる70年前の悲劇。守たちはずっと黒狐のままなのですね。
命を一瞬で奪い取る戦争の酷さが伝わってきます。
けれどその中で変わらない故郷がある、彼らの優しい眼差しが感じられます。
良いお話でした、ありがとうございます。

15/09/13 kotonoha

懐かしい村祭りを思い出しました。
「狐面がどうしてもひとつ足りない」
どうしたのでしょうね。
狐だからちょっと悪戯したのでしょうか。^^

四人だけのお狐祭りの時怖い目にあったのですね。
ながいあいだ祭りに参加していません。
故郷を思い出させていただきありがとうございました。

15/09/16 そらの珊瑚

草藍やし美さん、拝読しました。

昔から受け継がれてきた地域の祭りも、戦争によって悲しい歴史が刻まれてしまったのですね。
過疎化が進んだとはいえ、祭りが出来るということは平和であるがゆえなんだなあと思います。
もう何年も見ていないですが、ふるさとの祭りを思い出しました。

15/10/11 草愛やし美

>泡沫恋歌さん、コメントありがとうございます。
狐面はネットで販売している画像から借りて参りましたので、売っているのではないかと思います。結構いろんなお面売っていたので驚きました。
アイディアを考え始めた頃が丁度、終戦記念日の時期だったので、夏祭りからこの設定を思いました。戦後70年にもなるのですねえ、証言を残しておかなければと強く思います。

>くまちゃん、お越しくださって感謝です、コメントありがとうございます。
彼らは年に一度、この村で夏祭りが続く限り出会えると願っています。

>光石七さん、コメントありがとうございます。
お祭りは明るいイメージですが、過去にはこういう切ない事実もあったと思います。戦後から70年も経ちましたが、忘れないでいたいことだと思います。

>鮎風遊さん、コメントありがとうございます。
不思議で幻想的な狐祭り、フィクションですが、どこかで行われていそうな気がしています、私も参加してみたいなあ。ふるさとはいろんな場面で忘れられないものだと思いますがお祭りはその中でも特に印象深いのではないかと思います。

>滝沢朱音さん、コメントありがとうございます。
わお、生まれ変わりまでも読みとってくださったですか、凄い。実ははじめの設定ではそのイメージでした。書き出したのですが、うまくまとまらなかったので、二部にわけたんです。素晴らしい深読みですわ、朱音さんの読解力にかなり驚きました。名前も対比させましたこと図星です。笑顔 深く読んでくださって嬉しいです。

>冬垣ひなたさん、コメントありがとうございます。
時期的にどうしても終戦70年のことを入れたくてこの話を書きました。良い話とのコメント嬉しいです、意欲にかえて頑張りたいです。

>kotonohaさん、お立ち寄りくださって感謝しています。
コメントを励みにしてこれからも書いていきたいです。村祭りではなかったですが、幼い頃の氏神様のお祭りは忘れられない思い出が多いです。お祭り以外でも遊ぶ場だったり、絵画大会があったりといい意味で地域の人々と氏神様はかかわっていました。そんなことを想い乍らこの話を創作しました。ありがとうございました。

>そらの珊瑚さん、コメントをありがとうございます。
平和が大事です、お祭りを楽しめるのもまずはそこがなければ成り立ちません。そういう意味合いを大切に考えていきたいと心から願うばかりです。

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