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クナリさん

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将来の夢 絵本作家
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モーリタニアまで(プリッと)愛を込めて!

15/09/07 コンテスト(テーマ):第九十二回 時空モノガタリ文学賞 【 沖縄 】 コメント:6件 クナリ 閲覧数:1915

時空モノガタリからの選評

「あなたの下半身はーータコですね」という想定外の台詞に脱力しました(笑)。二メートルくらいのロングスカートを引きずって歩いたり、トタンで下半身を隠すミユキさんが、なんとも奥ゆかしくて可愛らしいですね。沖縄的要素が随所にちりばめられ、テンポのよいコメディとなっていると思います。なんともバカバカしい設定が突き抜けていて楽しく、そしてちょっと切ないラストが印象的でした。

時空モノガタリK

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 僕とタカシが夏の夜の沖縄のビーチへ駆けつけた時、ミユキさんは下半身を海に浸けて立っていた。
 僕は彼女と初対面だが、月明かりの中でも格別の美人であることが分かる。
「ミユキ、夜の海は危ないと何度も言ったろう。早く上がるんだ」
 タカシが波打ち際から叫んでも、ミユキさんは力なく首を横に振るだけだ。
「よすんだ、タカシ。ミユキさん、あなたはタカシとは結婚できない。そうですね?」
「何だと? お前、突然何言い出すんだ!」
 狼狽するタカシをよそに、彼女は頷いた。
「そうです。タカシさんと結婚は、できません」
「ミユキさん、すみません。タカシにも内緒であなたのことを、少々調べさせて頂きました」
「では……ご存知なのですね」
「な、何だ。お前はミユキの何を知っているんだ」
「ミユキさん、あなたは――」
 彼女は、観念したように目を閉じた。
「あなたの下半身は――タコですね」
 ミユキさんは、顔を両手で覆った。
 タカシは口からオリオンビール、鼻からちんすこうを吹いた。
「ええ、ええ、そうです。私の原産地はモーリタニア。ここと同じくらい暖かい海ですわ。オホーツク海などで採れるいわゆる北海ダコとは違い、私達南方のタコはプリッとした食感と歯切れの良さが人気です」
「はい。北海ダコは、『ゴムダコ』などと揶揄されるくらい噛み切り難い。南方ダコは薄切りで良し、小口切りで良しで万人受けしやすい」
「それにボイルする時、南方ダコは綺麗に丸まるので見た目にも良いのですわ」
「とはいえ、北海ダコの人気も根強いですけどね」
「いや待てお前ら」
「待つのは君だ、タカシ。タコと結婚するのか?」
「だから何だタコって」
「タカシ、ミユキさんの下半身を見たことがないだろう?」
 タカシは顎に手を当てて考え込んだ。
「そういや最初会った時は今みたく半分海に浸かってたし、二度目に会った時はロングスカートを二メートルくらい引きずって歩いてたな。三度目はトタンで下半身を隠しながらデートしたっけ」
「それで不審に思わなかったタカシも凄いけどな」
「ごめんなさいね、タカシさん」
 ミユキさんが海面から、細く赤い足をにゅるりと出した。
 それを見たタカシは驚きのあまり口から琉球ガラスを吐き、鼻からシーサーを飛ばす。
「い、いや、ミユキがタコでも構わない。愛してるんだ」
「いえ、何と言われても、あなたのように吸盤もない下等生物とは添い遂げられません。エラ呼吸すらできないようでは」
「……これが、価値観の違いってやつか……」
 タカシががっくりと肩を落とす。
「いやミユキ、俺が振られるのは構わない。でも本当に、俺を異性として意識してはくれなかったのか」
「ええ、一度も全く。だから、せめて最後は笑って別れましょう――海洋生物ギャグやります」
 言うが早いか、ミユキさんは自分の頬の肉をちぎり取った。自切の応用なのだろうが、絵的に少々グロい。
「キミ、お腹が空いているのかい? 僕の顔を、……」
 ミユキさんは、泣いていた。
「僕の顔を、……お食べよ……ッ」
 彼女も、本当は……。
 タカシは海の中へ踏み込んで、激しくミユキさんに突っ込んだ。
「タコの頭と呼ばれている部分は実質的には胴体だから、厳密にはそこ顔やないやないかい!」
 二人の悲しい運命に、僕の頬も、涙で濡れた。
「さよなら、私、故郷に帰ります!」
 ミユキさんが、沖に向かって泳ぎ出す。
 モーリタニアでも、沖縄と同じ太陽が彼女を照らしてくれるだろう。
 タカシは近所のスーパーで、せめてもの慰みに、南方ダコの丸ごとボイルをひとつ買って帰った。
 食べずにとっておくと言うので、仕方なく、腐らない干し方を教えてやった。

 それから数年の間、タカシの部屋を訪れる者は、カピカピに干からびたタコの干物が棚に飾ってあるのを見て、何だこれはと驚く羽目になった。
 僕がある日タカシの部屋を訪れると、あの時ミユキさんがちぎった頬の辺りと同じような場所へ、干物にもタカシがナイフで切れ込みを入れていた。
 そこまで行くと気持ちが悪かったので、挨拶もそこそこにおいとましようとした時、タカシが抱えていた干物と僕の目が合った。
 いや、干物にはとうに眼球などないので、僕の視線が一方的に向こうの乾いた眼窩に吸い込まれただけだった。
 その引力のような力場に、僕は、とてつもなく嫌な予感がした。

 三ヶ月後、タカシは自分の部屋のせんべい布団の上で死んでいるのが見つかった。
 外傷はなく、能動的な自殺をしたようにも見えなかったという。つまりは、餓死というわけだ。
 ただ――発見された際、タカシは全裸であり。
 その胸には、タコの干物を抱えていたらしい。
 タカシの魂は、モーリタニアまで飛んで行っただろうか。
 そうだとしても、良い話でも何でもないのだが。


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このストーリーに関するコメント

15/10/04 つつい つつ

むちゃな設定とストーリーでしたが、タカシが愛らしくて、なんだか、なごみました(笑)

15/10/07 クナリ

つつい つつさん>
我ながら酷いなあとは思いながら、どうしても書きたくなって書いてしまいました…。
ご笑覧いただければ幸いです(^^;)。
こげな作品に、コメント、まことにありがとうございました…!

15/10/11 泉 鳴巳

先に「スケイプ・ゴートとエスケイプ・シープ」を拝読し、傷を抱えた少女の描写がとても繊細で秀逸だなあと感じていてからの今作で、あまりの落差に余計に笑えました。
ミユキさんはいわゆるスキュラなんでしょうか。
砂漠の国モーリタニアで二人の魂が出会えるといいですね。

15/10/11 クナリ

泉鳴巳さん>
自分、実は目標の一つとして、文章でギャグがやりたいんです。
今作が滑っている部分が非常に多いのは、重々承知なのですが、少しずつ研鑽を積んで、読んだ人が
お茶を口から吹き出すくらいのものが、いずれ書いてみたいのです。
人を笑かすことは難しい。けれど果てしなく尊いと思っています。
現時点では全力を尽くして書いた今作ですが、拙い部分も多く、お恥ずかしい限りです。
ですので、温かいお言葉、大変光栄です。
ありがとうございます…!

15/10/12 光石七

最初「この設定、何?」と目が点になり、「?」マークが頭から消えないまま読み終えたのですが……後からじわじわきました。
シュールなんだけれど馬鹿馬鹿しさもあり、悲恋のような純愛のような展開にちょっぴり感動を覚え……
こういう話も味があっていいなと思いました。

15/10/16 クナリ

光石七さん>
絶賛迷走中と言いますか、なんかもうあまり冷静にならずに書きたいことだけ書いた、という感じです。
下らない方へ行くかシュールな感じで行くか、結局バランスとりもせずに好きに書きました(^^;)。
書き終わってからも、あれで良かったかなあ…と考えました。
最後の方で話が気味の悪い方へ行きますが、むしろこの辺りをこの方向性で膨らませた方が自分らしいのだろうな、と思いましたし。
タコの干物と、干からびた死体が転がった部屋。今後、どこかで使いたいファクタですね…。

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