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高橋螢参郎さん

何でもいいから金と機会おくれ

性別 女性
将来の夢 二次元に入って箱崎星梨花ちゃんと結婚します
座右の銘 黙り虫、壁を破る

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祭りの後で

15/09/07 コンテスト(テーマ):第九十回 時空モノガタリ文学賞【 祭り 】 コメント:0件 高橋螢参郎 閲覧数:909

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 ――蓋し夏にまつわるものは、宿命的にどこか儚さを隠し持たずにはいられないのだろうか。
 線香花火がぽとりと落ちるその瞬間。
 あれほど喧しかったのに、ふと気付けば季節とともに遠ざかっていた蝉時雨。
 気まぐれに降り注ぐ一瞬の夕立。
 夏祭りで買ってもらったカラーひよこの、その後。
 そういったものに思いを馳せるようになったのは、高校時代の彼女の何気ない一言がきっかけだった。

「祭りってさ、一体どこからどこまでが本当のお祭りなのかな」
 高校三年の夏休み。最後の学園祭で披露するダンスの練習に貴重な勉強時間を削らされてすっかり閉口していた僕は、休憩時間中も校舎の陰で参考書を広げていた。足りない時間と点数に、とにかく焦りだけが日々募っていた。
 そんな僕の隣にしゃがみ込んだ優夏がぽつりと呟いたのが、この言葉だった。
 僕はとにかく英単語を一つでも多く覚える事に必死で「ああ」なんて生返事をしてしまったけど、優夏は構わず続けた。
「待つのが祭りって言うけど、じゃあ本当のお祭りっていつなんだろうね。こうやって練習してる時はああ、祭りだなー、って思えるけど、いざ本番が始まる頃にはもう半分以上終わってる感じじゃない?」
「そうかもね……って、こら、やめろ」
 二度目のつれない返事で、彼女のチョップが何度も僕の脇腹に突き刺さった。優夏は僕が怯んだ隙に参考書を取り上げて、目の前にちらつかせた。取り返そうと手を伸ばすが、その度にひょい、と遠ざけられる。
「ちょっ、返せって」
「折角可愛い彼女と一緒にいるのにずーっと参考書とにらめっこなんて、もったいないよ? 絶対人生損してると思うなー」
「自分で言うか」
「言っちゃいます」
 無邪気な笑顔を見せられると、それ以上何も言えなかった。僕はため息とともに改めて彼女の傍らに座り直し、辺りを見回してクラスメイトの視線がないのを確認してから黙って優夏の肩を抱き寄せた。
「……今頑張っとかないと、同じ大学行けないじゃん。俺、優夏みたいに頭良くないんだから」
「んー……でも、今も未来と同じくらい大切だと思うよ」
「欲張りだな」
 僕は優夏の黒髪を撫でてくしゃくしゃにしてやった。
「でも、さっきの話は何となくわかるよ。学園祭はどうでもいいけど、今度の夏祭りは今から凄い楽しみ。いや、今が一番楽しいかも」
「でしょ、わかるよね? よかった」
 真夏の燃え盛る太陽の下、お祭り気分の僕らは浮かれ切っていた。でもそれがあくまで一時の祭りだったと認識する為には、どうしても終わりが必要だったのかもしれない。
 後の祭り、という言葉を、この時僕はまだ知らなかった。

 笑顔の眩しかった優夏も、その名前の宿命からは逃れられなかった。
 彼女は浴衣姿で夏祭りに向かう途中、車に撥ねられてあっけなく死んだ。彼女の問いには最後まで答えてやれなかったが、多分、そこが祭りの頂点だったはずだ。それだけは僕の足りない頭でも判った。
 夏は今でも素知らぬ顔をして何度も巡ってくるが、祭囃子だけはいつまで経っても二度と聞こえてこなかった。


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