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つつい つつさん

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お祭り男

15/09/05 コンテスト(テーマ):第九十回 時空モノガタリ文学賞【 祭り 】 コメント:3件 つつい つつ 閲覧数:1433

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 となりでたこ焼きの露店を出している源さんが俺んとこにきた。
「よぉ、達、五十円玉ねぇかい? 切れちまったんだ」
「ああ、あるよ。源さん、六五〇円なんて中途半端な値段にしないで、六〇〇円にしろよ」
「バカヤロー! その五〇円が大きいんだよ。うちは、いいタコつかってるからな」
「それが源さんの店の人気の秘密か」
 源さんはさっさと五〇円玉よこせってせかしてくる。
「達也、重さんが酔っぱらいともめてるぜ!」
 金魚すくいの雅人が慌てて駆け込んできた。俺は急いで重さんと酔っぱらいの間に割って入る。一触即発状態だったから、俺は必死で酔っ払いをなだめた。こんな神社の祭りじゃ、揉め事なんか起こしたら、来年から呼んでもらえない。ほっといてもいいんだけど、喧嘩っ早い重さんは、あれで面倒見いいから居ないと寂しいんだ。
 小さな神社の祭りだったから、夜の九時には人はまばらになり、俺達は帰り支度を始めた。そして、十時には近くの焼き鳥屋で露店のみんなと飲んだ。
「しかし、達は偉いねぇ。喧嘩の仲裁もするし、掃除だって最後まで残るし」
 源さんがいつものように不味そうに煙草を吸いながら話しかけてくる。
「ああ、達也がいると、現場がスムーズだし、明るくていいよな」
「なんだよ、雅人。お前に褒められると気持ち悪いよ」
 今日はどこも売り上げが良かったせいかみんな上機嫌で、重さんなんか、焼酎三杯でもう酔いつぶれている。
「そういえば、達也、また、綿菓子やってたな。他のやるって、言ってなかったか?」
 源さんも不思議そうに聞いてくる。
「達、お前だったら、どんな店だしても周りに文句言われないだろう。それだけのことやってんだから」
「じゃあ、たこ焼きやろうかな?」
「やめてくれよ。達、たこ焼き焼くのうまいだろ。お前に店番してもらってる時の方が評判いいんだよ」
 源さんが頭を掻きながら苦笑している。
「綿菓子になんか思い入れでもあるのか?」
 雅人に聞かれたけど、別にそんなもんはなかった。たまたま最初に出したのが綿菓子だったから、そのままずるずるやっているだけだ。まあ、小さい子が真ん丸の笑顔で買ってくれるから、それが気に入ってるのかもしれない。
「なあ、達、来週はどうするんだ? 祭りもイベントも確かなかったよな?」
「ああ、俺は小学校の小さなイベントとか廻ります」
「好きだねぇ。そんなの、金になんないだろ」
「いやいや、俺はお祭り男っすから、毎日なんかの祭りに出てないと、体中がむずかゆくなるんすよ」
 雅人が呆れ顔で言う。
「確かに、祭りのない日にコイツに会うと、腑抜けた顔で別人かと思うよ。ろくに返事もしやがらねぇ」
「くっく、祭りの時にしか、生きてねぇんだな、達は。なあ、達、今までで一番思い出に残ってる祭りってなんだ?」
「はぁ? 源さん、俺達毎日が祭りだぜ。どれが一番なんてわかんねぇよ」
 みんな、確かになって顔で笑った。祭りの中で生きられるんだから、俺達は幸せ者だ。毎日嬉しそうな顔した人がたくさん居て、そんで、俺の店で綿菓子買って喜んでくれる。たぶん、俺にはこれしか出来ない。他のことしてもつまんなくて、三日ともたないだろう。 結局十二時くらいまで飲んだ後、俺達は駅前のサウナで朝まで寝た。
 昼過ぎにはイベントのある公園に行って今日の仕込みをした。そういえば一番覚えてる祭りってなんなんだろうな。俺は祭りなら、なんでもいいんだけど。でも、たまに頭によぎるのは、小さい頃のあの祭りか。近所の小さい催し。露店なんて十店もあったかわからないくらいの小さい祭りだったけど、母ちゃんと二人で行ったのを覚えてる。べつにどうってことない祭りだったけど、母ちゃんのあの青い浴衣も、あの上にまとめた髪も、あの嬉しそうな顔もふと想い出す。まあ、毎日のように祭りに出てるんだから、似たような浴衣も似た髪型もやたら目につくから忘れられないだけなんだろう。確かあの時母ちゃんに買ってもらった綿菓子の棒は、一週間くらい大事に持ってたか。祭りの後、母ちゃんがいなくなったから、捨てられなくって机の中しまったりして。でも、あほらしくて近所のどぶ川に投げ込んでやった。だから、俺は母ちゃんのことなんてどうでもいい。大人になったし、あの飲んだくれの父ちゃんに愛想尽かしたんだろうなってことぐらいわかる。母ちゃん、よく父ちゃんに「酒買ってこい!」って、ぶたれてたから、そりゃ、嫌になるだろう。どこかで幸せにやっててくれりゃ、それでいい。別にもう一度会いたいなんて思ってやしない。別に忘れたってどうってことない。
 あーあ、しょうもないこと考えてないで、早く仕込み終わらせよう。夕方になったらまた人が集まって、あの賑やかさが帰ってくる。今日も祭りだ、祭りだ、祭りだ。楽しい一日が始まるんだ。


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このストーリーに関するコメント

15/09/06 こぐまじゅんこ

拝読しました。
なんとなく心の奥が、じーんとあったかくなるような
いいお話でした。

15/09/06 クナリ

威勢のよいオープニングと、祭り好きの主人公を生んだのであろう切ない記憶のラストの対比が鮮やかでした。

15/09/06 つつい つつ

こぐまじゅんこ 様、感想ありがとうございます。
本人が気づいてない、気づこうとしない寂しさみたいなものを書こうと思いました。いい話と思ってもらって嬉しいです。

クナリ 様、感想ありがとうございます。
お祭り男としての粋な一面と、過去の対比を感じてもらえて嬉しいです。

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