1. トップページ
  2. いつも待っていてくれる君

みやさん

写真と物語の融合、写真物語家を夢見ています。 マイペースで更新中。Twitter➪@miya_ayim

性別 女性
将来の夢
座右の銘

投稿済みの作品

0

いつも待っていてくれる君

15/09/04 コンテスト(テーマ):第九十回 時空モノガタリ文学賞【 祭り 】 コメント:0件 みや 閲覧数:1095

この作品を評価する

夏の日の入りはとても遅く、18時を過ぎても外はまだ明るい。
今日は家の近くの神社の夏祭りの日で朱莉との待ち合わせは18時30分だ。僕は遅れない様にそろそろ出掛けようと自分の部屋を出て家の玄関に向かった。

玄関でスニーカーを履いて出掛けようとしている僕に母がどこに行くの?と問い掛けるので、お祭りに行って来ると僕は答える。

「そうね、今日はお祭りの日だったわね」
「朱莉が待ってるから。いつも待たせてるから、今日は遅れない様にしなくちゃ」
そう言う僕に母は何も言わずに頷いた。

僕の家の近くに住んでいる朱莉は、思えば小学生の頃からいつも、のんびり屋な僕を待っていてくれていた。小学校へ行く時、近所の公園に行く時、塾に行く時、中学校に行く時ー

僕は遅れるつもりはこれっぽっちも無いのだけれど、用意や準備に時間がかかる子供だった。一方の朱莉は僕と正反対でいつも決められた時間よりも先に先にと行動するせっかちさんで、いつものんびり屋の僕を心配して誘いに来てくれていた。のんびり屋さんだと大人になってから困るよ、が朱莉の口癖だ。そんな朱莉を僕はいつも待たせていた。今までで僕が朱莉を待たせた時間を通算すると何時間になるのだろう?一日10分待たせていたとしても塵も積もれば何とやら。のんびり屋、で片付けるには都合が良すぎるかもしれない。

外はまだまだ明るく、お祭りのお囃子の音がハッキリと聞こえる。神社へ歩いて向かう僕を小学生の子供達が元気良く追い越して行き、中学三年生の僕はその子供達を見て無邪気だな…と思う。誰かの家の向日葵も元気良く咲いていて、あぁ夏だな…と僕は実感する。小中学校同じ将大の家の前を通ると、多分これから塾に向かうであろう重そうな鞄を持った将大とばったり出くわした。

「…お前、お祭りに行くのか」
僕をジロジロ見て自転車に跨がりながら将大が聞いてくるので僕はうん、と頷いた。
「高校受験、そろそろ真剣に考えないとヤバイぞ。…朱莉もきっと心配してるぞ」
そう言って将大は自転車を漕ぎ出した。そうだね、朱莉はいつも僕を心配してくれている。

神社に着くといつも人気の少ない小さな神社が、いくつかの出店と沢山の人達で賑わっていた。神社の入り口で腕時計を確認すると18時20分だった。朱莉の10分前精神、どんな約束も10分前に到着しておく事、に今日の僕は合格だ。朱莉はまだ来ていない。けれど、せっかちさんの朱莉の事だからもう到着していて境内を先に一回りしているかもしれない。

しばらくの間神社の入り口の石に座りながら、お祭りの匂いを僕は堪能した。お祭りの匂い、というものは確かに存在している。焼きそばやタコ煎餅のソースの匂い、金魚掬いや風船釣りの水の匂い、人々が歩く度に起きる砂埃の匂い、それらが混じり合った匂いがお祭りの匂いだ。去年は嗅ぐ事が出来無かったこの匂いを僕は鼻いっぱいに吸い込んで胸いっぱいに閉じ込めて、朱莉がもう先に来ているであろう神社の境内に足を踏み入れた。色々な出店を通り過ぎていると、いきなりグイと僕は誰かに右腕を掴まれた。
「あんた…一体どういうつもりよ!」

そう叫んだのは朱莉の親友の睦月だった。
「この間の朱莉の一周忌、何で来ないのよ?…この間だけじゃない、去年のお葬式だって来なかったし、学校にだって来ないし…朱莉が死んで辛いのは分かるけど、だけど…朱莉はずっと待ってるよ?」

去年の夏休み、僕と一緒にお祭りに行く約束を残して朱莉は、朱莉のお父さんの実家に帰省中に海で溺れて死んでしまった。せっかちさんの朱莉の人生はとてもせっかちだ。一年たった今でものんびり屋の僕はその事実をまだぼんやりとしか受け止められずにいる。

睦月がまだ何か言っているのに僕は掴まれている右腕を振り解き、神社の本殿の石段を駆け登って、お賽銭箱に今現在僕が持ち合わせている全てのお金を財布ごと投げ込んだ。何を願うのか?もちろんもう一度朱莉に逢わせて下さい、僕の願いはただそれだけだ。そんな願い叶う筈はないのに。

石段を降りようとする僕の足元の小さな女の子があ、と小さな可愛い声を出して石段から転げ落ちそうになり、その小さな女の子を抱きとめて僕はゴロゴロと石段を転げ落ちた。二、三十段程のその石段にゴツン、ゴツン、と身体を打ち付けながら僕は女の子を離さない様に必死で抱き締めた。最後の一段でゴン、と鈍い音と共にさっきまでとは明らかに違う鋭い衝撃を後頭部に感じた。

恐怖で泣きじゃくる女の子の声が何故かとても遠くに聞こえ、意識が朦朧としながら地面に落ちた僕の目の前に沢山の人集りが出来ていた。その中に浴衣を着た朱莉が見えた様な気がした。やっぱり先に来てたんだね。朱莉、いつも待っていてくれてありがとう、長い間待たせてごめんな。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン