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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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ごきの記

15/09/04 コンテスト(テーマ):第六十三回 【 自由投稿スペース 】 コメント:0件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:1302

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ほんとうかどうか、コオロギの仲間だときく。
不幸にしてこいつは鳴くことをしらない。
ゴキブリ。その名を耳にするだけで、多くの人は一様に不快そうに顔をしかめる。ゴキブリのような奴といわれたら、それはあらゆる意味で最低の人間をいいあらわすのではないだろうか。あと似通ったやつに、ダニがいるが、こいつはなにぶんちっぽけすぎて、ゴキブリのようにひと目みて嫌悪の対象にされるようなことはない。
みたとたん、「キャー」とか「ワー」とかさけびながら、女性はもとより、子供も男も、大げさに飛び離れる光景はしばしば目にするところだ。「まあ、かわいい」などと、これまで誰かがいったことがあるだろうか。
それにしても、どうしてここまで忌み嫌われるのか。肩をもつ気はさらさらないが、いつの時代も不人気ナンバーワン、ワースト記録のトップをはしるゴキブリのことを、ちょっとばかし考えてみることにした。
じつに3億年も前からこの地上をうろついていたらしい。化石が残っているのだから、それは確かなのだろう。
当然、恐竜の時代にもいたわけで、その当時どのようにして生きていたのか、ちょっと想像しがたい。やっぱりみんなの中では、鼻つまみの存在だったのだろうか。恐竜はほろびても、こいつは生き残った。そしてそれから何億年ものあいだ、延々と生命を引き繋いで、現代の社会に嫌われ者として繁栄している。
進化の過程で、きれいな声で鳴くとか、翅を美しい縞模様で彩るとかしていたら、あるいは人間に好かれて、いまみたいにみつけられたとたん、たいていの家には用意されている殺虫剤をいやというほど噴きかけられたり、有無をいわせずふみつぶされたり、あるいは身の自由を奪う粘液にからめとられたりはしなかったかもしれない。
ゴキブリはその進化のみちをえらばなかった。何億年ものあいだ、あいもかわらずその見た目に気色悪い姿をおしとおし、だれが好かれてなんかやるものかと、常に斜にかまえて生きてきた。蟷螂のような斧をもつことも、ムカデや蜂、そしてサソリのような毒を有することもなく、ただ不潔さだけを身にまとってやってきた。
たしかに、不潔さでは誰にも引けはとらないにちがいない。
どんなところも徘徊し、なんでもかんでもくいあさっては、ところかまわず鞘にはいった卵をうみつける。殺しても殺しても、性懲りもなく毎年暑くなるとあらわれ、カサカサという耳触りな音をたてながら、縦横無尽に家中をかけまわる。このしたたかさ、しぶとさはまさに3億年生きつづけたたまものとしかいいようがない。
だが、よくよく考えてみると、ゴキブリがもとで人が死んだという話はあまりきいたことがない。昔、汲み取り便所だった時代にこそ、汚物の上をはいまわったゴキブリがふれた食べものを口にして人が、サルモネラ菌に侵される事例はあったらしいが、ほかにも人間を害する病原菌がひろまったという話はあるのだろうか。殺された数にしたら、圧倒的にゴキブリのほうが多いにきまっている。
おそらくゴキブリは、これまで同様これからも、延々とその生命を引き継いでいくことだろう。人間が生きつづけ、生活しているかぎり、よもや滅びることがあるとはおもえない。
共存とはとうていいい難いが、おなじ一つ屋根の下で暮らし、食べ物にも、冷暖房にもめぐまれて、ときにはその小さな姿で女子供をふるえあがらせ、または男たちにとことんおいかけまわされたあげく、あえなくいのちをおとすもの、そしてずぶとく生き延びるものがいて、ゴキブリはゴキブリなりにその一生を過ごす。誰からも同情されることなく、目の敵にされながらも、かれらはたくましく生きている。
いまも耳をすませばどこかから、あのカサカサという音が聞こえてきそうだ。
「きゃー!」


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