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永吉さん

性別
将来の夢 立派な人間
座右の銘 腹八分目

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就職活動

15/09/02 コンテスト(テーマ):第九十回 時空モノガタリ文学賞【 祭り 】 コメント:0件 永吉 閲覧数:871

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それは奇妙な光景でした。
焚き火を中心にして人間らしきものが踊っていました。いや、踊っていたというのは私の偏見かもしれません。なにせ今は8月、こんな暑い日に火を囲むのは盆踊りくらいだと思っていましたから。
その人間らしきもの…、ヒトモドキとでも呼びましょうか、ヒトモドキは一人残らず裸で、その頭はもちろん、青白い体躯には毛の一本すら生えておらず、湿ったように見える肌が炎に照らされてぬらぬらと光っておりました。その質感はナメクジのようです。無理に引き伸ばされたように縦に長い体は、170メートルある私が見上げて首が痛くなるほど大きさですから2メートル以上はあるでしょうか。
それが一心不乱に踊り狂っておりました。
細長い手足を鞭のようにしならせ、蛸のように艶めかしく身をくねらせ、ぐるぐると焚き火の周りを回っております。その動きは実に奇妙で、一見でたらめに見えるのですが、彼らを見るとその動きは一寸違わず同じで、まるで軍の行進のようでありました。しゅう、ひゅう、という呼吸音と炭が爆ぜる音ばかりが深夜の公園に響きます。
そんな中、不意に「ぎゃあ」という人間のような声が上がり、ヒトモドキはその瞬間に動きを止めました。それも一糸乱れぬものです。赤い白目の中でぎょろぎょろと動いていた黒目がパッと一点を見つめ、私も誘われるようにその方に視線を向けると、ヒトモドキが一人地面に這いつくばりぶるぶると震えていました。
「ヤー!!」
一人のヒトモドキがカラスのような嗄れ声を上げました。
「ヤー!!」
それが合図だったかのように、ヒトモドキは這いつくばるヒトモドキに群がると、彼を胴上げし、炎の中に抛り入れました。断末魔は上がったでしょうか。それを遮るようにヒトモドキが声をはり上げたので私には分かりませんでした。
「ヤー!!」
炎は一瞬小さくなり、それからごう、と燃え上がりました。ヒトモドキは何事もなかったかのようにまた踊り始めます。その動きが熱を帯びたようにどんどんと早くなっていき、植木から覗いている私にも彼らの熱気と狂気が痛いほど伝わってきました。何故だが、目に涙が浮かんできます。
そんな時、突然に私の腕が掴まれ、剥離していた精神が一瞬で現実に戻ってきました。はっと振り返るとそこには気弱そうな少年が立っていました。私には彼が誰だか一瞬で分かりました。彼は幼いころの私、そのものです。幼い私は悲壮な覚悟を秘めた眼で私をじいっと見つめ、ぐいぐいと腕を引っ張ります。痛いくらいに彼の気持ちが分かりました。しかし、それは出来ないのです。私は彼の指を一本一本丁寧に腕からはがしていき、微笑みました。やるしかないのです。私は震える指でネクタイを外すと、それからは立ち上がって乱暴に衣類を脱ぎ棄てました。そうして、あの輪の中に飛び込んでいったのです。


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