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三文享楽さん

私、三文享楽でございます。

性別 男性
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パチンコ店、童子神輿乱入譚

15/09/01 コンテスト(テーマ):第九十回 時空モノガタリ文学賞【 祭り 】 コメント:0件 三文享楽 閲覧数:1369

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 きたきた、きたー。
「フィーバー! 大当たりだよ。右打ちしてね」
 やっと来ました今日の確変タイム。
 長かった。朝の開店からこの台の前に座り、かれこれ六時間は経過している。時間を浪費しただけならまだいい。既に三万円を投入しているのだから、ふところ的にもそろそろ勝たねば、次の給料日までパチンコを打つ金がなくなる。
「どきどきタイム継続、チャンス五十回」
 はあ。この画面の切り替わりと音楽、ピカピカ光る大当たり台。この状態になるまでの緊張感とこの状態でどれだけ大当たりが継続するかの高揚感、これがあるからパチンコはやめられない。
 パチンコ依存症の俺にとって怖いことは、お金がなくなることでもパチンコで負け続けることでもない。明日のパチンコを打つ金がなくなることが何よりも怖い。
 異常なまでに効いたエアコン、大音響の演出とタバコの臭いにまみれたこの空間に一日を捧げる。そして、そこに生まれる緊張と緩和。この異空間における日常の緊張感を味わえなくなるならば、人間を辞めてもいい。
「フィフィフィーバー! 大当たりだよ。右打ちしてね」
 これがあるから、どうにもこうにも止められないのだ。
「そーれそれそれ、お祭りだーい」
 他の台でも大当たりが出ているようだ。自分が大当たりの時ならば、他の台の大当たりを聞く余裕もある。
「なんだ、こいつら、おい止めろ」
「わっしょい、わっしょい」
 はあ、今度は遠くで聞こえるあの台にしようか。今、この大当たり台から目を反らすことはできない。しかし、音響を聞くところなかなか珍しい演出を凝らした台のようだ。
「ふざけんなよ、俺の玉がこぼれたじゃないか」
「おい、店員、こいつらなんだよ、どうにかしろよ」
「君たち、やめなさい。こら、太鼓のバチを振り回してはいけない」
 にしても変わったパチ台だ。4円新台コーナーに設置されていたのだろうか。
 若い女性による黄色い声の台は多いが、これほど子供の声や大人の野次で構成された台があるものか。
 まあいい。ドル箱が満杯になるのに店員も来ない。そろそろ店員を呼ばねば。
 ん?
「おい、俺の玉を拾ってくれ」
「わっしょい、わっしょい」
 右を振り向いて視界に映ったのは茶色の何かを担ぐ子供たち、床を流れる大量の銀色の玉、そして玉に滑りながらこちらへ転がってくる大人どもである。
「どういうことだ」
 子供たちは俺の椅子の間際まで来た。茶色の何かはどうやら神輿らしく、その上にも数人の子供が乗り、祭りの時に振り回される白い棒を手にしている。
 俺はその迫りくる棒を除けようと手を振り回した。その拍子にようやく貯めたドル箱にぶつかり、玉はこぼれてしまった。
「なんだよ、こいつら触れても実体がないぞ」
 ドル箱をひっくり返した俺の声も子供の神輿を滑りながら追いかけてくる親爺どもの声でかき消されてしまった。
「ぼーくらは、自宅で一人ごはん」
「私たーちは、熱い車でパパママ待つよー」
 神輿に乗る子供、神輿を担ぐ子供、そして綱を引いて神輿を囲む子供たちが歌っている。
「なに歌っているんだ、ガキが」
 追いかける大人の手が子供の肩をつかむように見えても空を切るにとどまった。
「楽しめないにちじょーならー」
「いっそ壊してバウンス、バウンス」
 この子供たちは実体がないのか。
 第一、この歌詞はなんなのだ。パチ屋に行く大人たちを批判しているのか。
「無せいふー、無ちつじょならなーいようにー」
「祭りで、祭りで、あ、バウンス、バウンス」
 その時、神輿を破壊しようとフルスイングされた店員のモップが神輿をすりぬけて2パチ台を打っていたハゲ親爺の頭に当たり、ひっくり返って弾かれたパチ台の敷居がたまたまやってきたパンチパーマの顔に貼りつくと、怒りを抑えきれなかったのかそこにいた客の頭に次々と拳骨を食らわした。そこへどっと店員がとびかかったのだから、もうてんやわんや、俺は早々に店を脱出した。
 特に行く場所などない俺は、パチ屋を出たら家に帰るしかない。
「おかえりなさい。あ、こら」
「だって、お兄ちゃんが」
 嫁と二人の子供がいたが、家に帰って早々、喧嘩をしているのだからうんざりする。
「ほれ、どうしたんだ」
 父親の役目、喧嘩の仲裁くらいしなければならない。
「兄ちゃんが僕のデンデン太鼓を捨てようとするんだ」
「だって違うの、もう破けちゃって音が出ないから新しいのを買ってやるって言ってるんだ」
 俺は心臓が委縮していくような感じがした。今日のパチンコ軍資金でデンデン太鼓がいくつ買えるだろうか。
「破けて修復しようとするのは偉いぞ。よし、それも大事にして、二人に新しい太鼓を父ちゃんが買ってやろう」
 後日、俺は家族全員分の太鼓を買った。休みの日に奏でる家族総出の太鼓演奏会は何物にも代えがたかった。


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